日々の雑感的なもの ― 田崎晴明

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茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。


11/3/2004(水)

いろいろとたまった仕事をこなしているところ。

昨日は、ようやく SST 論文を公開。 いろいろと書きたいことは多いが、ともかく論評抜きでリンクしておこう。

Shin-ichi Sasa and Hal Tasaki "Steady state thermodynamics" (プレプリントサーバー | pdf ファイル

11/6/2004(土)

ぼくが子供のころ一年間アメリカにいたという話は前にも書いたと思う。

そのころ、「アメリカの食べ物で何が好き?」とアメリカ人に聞かれると、迷わず

Hamburger and orange juice!
と答えていた。

アメリカ食文化への痛烈な皮肉、とかいうわけじゃなくて、子供としては素直にそう思ったのだ。 でっかい牛肉がはいっていて肉の味のするハンバーガー、本当にオレンジをしぼった味のする果汁百パーセントのジュース。 当時の日本には、ハンバーガーなんてなかったし、ジュースと呼ばれているのは果汁のほとんど入っていない色つき水だった。 そもそも、オレンジもグレープフルーツも、日本では売られていなかったのだ。 (若い人が読んだら年寄りだと思うだろうね。つい、最近なんだけど。) 子供としては、ハンバーガーもオレンジジュースも素直においしいと思った。 明るくきらきらして、ポップできれいな、アメリカのイメージと一体となった味だった。 (もちろん、大人になった今では、ポップできれいなのは、アメリカのごく一面でしかないこと、明るくきらきらしたアメリカを支える暗くてごみごみしたアメリカがあることも知っている。 それは、また、別の話(でもないのだが、実は)。)

時は経って、今、日本ではハンバーガーは普通のジャンクフードだし、トロピカーナのオレンジジュースは普通にスーパーで買える(ただし、濃縮果汁還元じゃない奴はまだ買えないよね)。 オレンジもグレープフルーツもピスタッチオも普通の食べ物になってしまった。

さて、ハンバーガーとオレンジジュースの他に、子供の頃のぼくと弟のお気に入りだったのは、かのケロッグ社が出している Pop Tarts(アメリカ人の発音は、パップタッツという感じ)という食べ物だった。 今、大人になってはじめて綴りをみると tarts だから、タルトの一種なんだろうけど、ともかくぱりっとした皮の中に甘いジャムみたいなものなどが入っていて、それをトースターで温めて食べる。 朝ご飯に学校に行く前に食べていた。 外側はぱりっと歯ごたえがあり、中のソースは暖められて限りなく甘く、子供にはたまらない。 テレビのコマーシャルもやっていて、よく弟とコマソンをうたっていたものだ。

ケーロッグ♪♪ ポップ タッツ♪♪ わったなべ せいかっ♪♪
という歌だった・・・  いや、そんなわけはないのだが、後半は英語が聞き取れなかったけど、ちょうど「渡辺製菓」がピッタリだったのだ。語呂としても食感としても(?)。

しかし、ハンバーガーとオレンジジュースが日本の街にあふれても、日本にポップタッツが上陸する気配はなかった。

「なぜ日本でポップタッツを売らないんだろう、あんなにおいしかったのに」と思いながら、ぼくは大人になった。 そして、Princeton のポスドクとして再びアメリカで暮らすことになった。 あるとき、妻にポップタッツが如何においしかったかを話した。 そして、スーパーで買いこみ、二十年近い時を経て、あのポップで愉快な味を楽しもうと思ったのだった。

げっ、あっまあ〜〜
おまけにソースは甘すぎるだけでなく変に人工的なにおいがして、ちょっと食べられたものではない。 おお、これが楽園の乳の味というものか・・ ぼくの中のアメリカが、また一つ、姿を変えた瞬間であった。
なんで急にポップタッツの話を思い出したかというと、Michael Moore のページにあった大統領選挙関連のコメント「17 Reasons Not to Slit Your Wrists(手首を切るべきでない17の理由)」を読んだからなのだ。

関連する部分だけ、抜粋して直訳しよう。

4. In spite of Bush's win, the majority of Americans still think the country is headed in the wrong direction (56%), think the war wasn't worth fighting (51%), and don’t approve of the job George W. Bush is doing (52%). (Note to foreigners: Don't try to figure this one out. It's an American thing, like Pop Tarts.)

4. ブッシュの勝利にもかかわらず、アメリカ人の多数派は、この国がまずい方向にむかっていると思っており (56%)、この戦争は闘う価値がなかったと思っており (51%)、ジョージ W. ブッシュのやっている仕事をよく思ってない(52%)。 (外国人への注:これがどういうことか考えちゃいけない。アメリカ的なことなんだ。ポップタッツみたく。)

やれやれ。コメントのつけようもない。
11/7/2004(日)

昨日の「やれやれ、コメントのつけようもない」という結び方は、しりきれとんぼだった。 渡辺製菓(←リンク先の渡辺製菓は不適切であると、当時を知る母から指摘を受けた。あのころ、粉末ジュースとか安物のお菓子をつくっている渡辺製菓というのがあったらしい。さらに、母から、「アメリカに行く前だって、オレンジくらいは食べさせていた」と言われてしまった、ごめんちゃい。)とかを書いていて、疲れてしまったみたい。

とは言っても、別にとりたてて述べるような感想があるわけじゃないんだよな。

以下、どうしようもないほど凡庸な感想です。


あの世論のデータが本当なら、それが大統領選に反映しないのは、やっぱり「やれやれ」だし、そういう本質的なはずの問題について甘過ぎのポップタッツと同じだと言って茶化してしまう Moore の態度も、やっぱり、「やれやれ」だと思う。 「外国人への注」なんていうシニカルな書き方をしているけど、本当は、もちろんアメリカ人にとってだって不可解かつ深刻な状況なわけでしょ?

ぼくは、この Moore がつくって話題になった映画のことはほとんど知らない。 でも、伝え聞くところから、

新聞も読まないし難しいニュースも聞かない(多くの)アメリカ人に「ブッシュはダメだ」と伝えるためのキャンペーン映画
だったんだろうくらいに思っている。 そういう「一方的な啓蒙」は諸刃の剣だし、けっきょくは、派手なキャンペーンのはり合いに陥ってしまうし、と色々思うところはあるが、しかし、そういうものを真面目につくっていくのも立派なことだろうと思う。

でも、昨日も引用したMichael Moore のページの「17 Reasons Not to Slit Your Wrists(手首を切るべきでない17の理由)」をもう少し読んでみると(町山ブログに全部の意訳があります)、なんか、次のようなのもある。

6. Michigan voted for Kerry! So did the entire Northeast, the birthplace of our democracy. So did 6 of the 8 Great Lakes States. And the whole West Coast! Plus Hawaii. Ok, that's a start. We've got most of the fresh water, all of Broadway, and Mt. St. Helens. We can dehydrate them or bury them in lava. And no more show tunes!

6. ミシガンはケリーに入れた! われらが民主主義の発祥の地たる北東の州もすべて。 五大湖の8州のうちの6つも。 そして、西海岸全部! および、ハワイ。 オーケー、これは有利だ。 真水のほとんど、ブロードウェイ全部、そしてセントヘレンズ山が、ぼくらの手にある。 ぼくらは、連中を日干しにすることもできるし、溶岩のなかに葬ることだってできる。 そして、ショーだって見られないぞ!

あんまりひどいので、英文の意味を取り違えたかと思うくらい。 まちがえてたら教えて下さい。

要するに、アメリカのかっこいいところはみんなケリーに入れたんだぞ、ブッシュにいれたのはどうでもいい、かっこわるい田舎だけじゃんか、ばーーか、って言ってるように見える。 (次の 7 なんかも、ひどい。)

へ? この人は、一生懸命にアメリカ人を「啓蒙」しようとしていたわけじゃなかったの? こんな言い方されたら、今度ブッシュに入れた人たちは、次からだって、こんな奴の言うことはぜったいに聞かなくなっちゃうんじゃないの?


などというのも、けっきょくぼくらにはわからないアメリカ的な事なのか? ポップタッツみたく。
11/8/2004(月)

わけあって筑波大を訪れたので、旧友二人と会っていろいろと話し込む。 とても安心し、また元気がでる。


さて、一昨日と昨日の雑感について、さっそく、かつての教え子の T さんから、自分も小さい頃にアメリカにいてポップタッツが大好きだったので、今度アメリカに行ったらぜひとも食べてみようと思うとのお便りが。
ただし、私の場合は今でもピーナッツバター&イチゴジャムサンドウィッチが大好きでよく自分でつくるので、今ポップタッツを食べても美味しいと感じるかもしれません。
とのことですが、ぼくも、このサンドイッチは(おっさんになった今も)大好きなのでご安心ください。 ポップタッツはさらに上を行きます。 (ちなみに、アメリカでは、peanut butter and jelly のサンドイッチが定番で、これも子供には衝撃だった。 ああいう jelly は日本にはないのでジャムで代用している。)
また、
お母様のコメントを読んで記憶の底から浮かび上がってきたのが「渡辺のソーダハップ」
というメールを送ってくれたのは旧友の M。 ただし、「ソーダハップ」が何を意味するのかは不明で、諸説をメールの中で展開してくれている。 さらには、
ついでに、よくデパートの中に設置してあったジュースの自動販売機、上が透明ドームになっており、オレンジ色の液体の噴水が中を洗っているやつを思い出した。あれ、ジュースを買ったら、噴水の一部がコップの中に注がれたのだろうか、それとも噴水は単なるディスプレイだったのだろうか。
という、若者を置き去りにする、よりディープな話題が・・
そして、もう一つ。 Moore のやったことをきちんと知っているわけでもないのに、ああいうコメントをつけるのはいかがなものだろう、という真摯なご意見もいただきました。 たしかに、そうかもな。 ポップタッツの甘すぎる想い出に喚起されたプルースト的連想について書いたついでに、つい連想のもとになった Moore の文章にも何か言いかけたのが運の尽き。 書かない方がましなことを書いてしまったと思います。

こういう風に、これはダメだぞと思ったときそれを率直に言ってくれる友人がいるというのは、何よりありがたいことです。 まして、それが、かつての教え子だった方なので、無性にうれしく思います。

どうもありがとう。


11/12/2004(金)

跳ね返り係数の論文を修正する作業。 少し離れただけで、わからなくなってしまう。 不思議な仕事。


アメリカの朝食について、もう少しだけ。

ポップタッツは甘過ぎで、汚れた大人になってしまったオイラにはもう食べられなかったのだけれど、やはりケロッグ社が出している冷凍のワッフル(ブランド名 EGGO)はお手軽でおいしいと思う。

凍ったワッフルをトースターでこんがりと焼き、あつあつのところにバターをぬった上に、甘いシロップをかけて、食す。 食感もよいし、味も素直でおいしいよ。 (うちの母は、アメリカから取り寄せたワッフル焼き器で粉から焼いていたのだけれど、やはり冷凍庫から出して食べられる気楽さも含めてのワッフルかなあと。)

「なぜ日本でワッフルを売らないんだろう、あんなにおいしかったのに」と思いながら、ぼくは老人になっていくのでありましょう。


ついでに、書いておかないと忘れそうなことをメモ的に。
11/17/2004(水)

今日の FD (大学の FD 推進委員会とかいうのの委員にならされてしまった割には、最近は、このコーナーがなかったぞ。)

「いっしょうけんめいに教えてくれる先生の授業にでると、元気を分けてもらえる気がして、がんばろうっていう気になる」などと言ってもらえると、教員冥利に尽きます。 一時限目を教えるために苦労して早起きして(←規則正しく暮らせばいいはずなんだけれど、それ以外の日はつい、遅寝遅起きなので・・)気合いをいれてがんばっている甲斐がある。

とはいえ、ぼくらが根性を入れて講義を準備し、汗をかいて板書しまくってしゃべりまくっているのは、熱心に聴いてくれている学生さんたちがいるからなのだ。 若い人たのエネルギーに接して、彼らのやる気と元気を吸い取っているのは、ぼくら教員の方だと思うなあ。

などと思うとよけい元気が出て、講義のあとは、ひたすら金曜の講義で配る講義ノートの手直し。 このペースで行くと、学期末までに、物理学科用の数学の教科書の微分方程式とベクトル解析の章ができてしまいそう。冗談でなく。

お弁当を食べ、午後は大輪講(四年生の卒業研究の中間発表の論文紹介)。 これもまた若い人たちのエネルギーをもらえる場かも知れない。 「ほお、前に見せてもらった、あの装置で、今はこんな観察まで」「お、こいつ、いつの間にかここまで計算していたんだ」「ううむ、こいつ、本当に日々実験をしている人のしゃべり方になってるなあ」などなどの愉しい感想を抱く三時間。

部屋に戻れば、まだ四時過ぎ。 あとはたっぷりと仕事の時間がある。 ちょっとしたメールを読み書きし、それから、レフェリーの書いてきたことを子細に検討して、どこにどう反応し、どこをどう手直しするかを検討して・・・・

と、やりかけたところで、エネルギー切れ。

やはり、こっちも元気を吸い取られているのかも。(いや、普通に疲れただけです。)


11/18/2004(木)

Princeton の数理物理のグループの仲間だった C はアイルランドの出身だった。 あるとき、C はいずれ母国に帰るのだろうかと脳天気に尋ねたぼくに、アメリカ人の T が、アイルランドの現状を教えてくれた。 経済状態も悪く多くの人々は希望を失ってしまっているんだと。 それにつづく会話。

Hal: But they still have great rock bands.

T: Well, only one.

たしかに。a great rock band と単数形で言うべきであったか。あるいは、最上級形で。

今日、妻のつよいリクエストもあり、How to Dismantle an Atomic Bomb を購入。 ううう。かっちょいい。


とある本の復刊のプランについて某出版社から相談のメール。

こればっかりは、時間が取れるかといったことを無視して、お手伝いしましょうと答えるしかないと思った。 具体化して、詳しく書けるといいな。


11/19/2004(金)

今日の FD

講義は肉体労働だ。

朝ご飯も普段よりいっぱい食べたが、講義のあとにはお腹ペコペコ。昼飯を食おう。


11/22/2004(月)

普通、「 (DVD付 初回限定盤)」とか言われても、ま、そんなのどうでもいいやと思うし、ともかく新譜を買ったら「おまけ DVD」なんて無視して。ひたすら CD の方を聴きまくるよね?  ぼくも、そうでした。

しっかし、今回にかぎり、この「おまけ DVD」は見る価値ありまっせ。 少なくとも Vertigo と Sometimes You Can't Make It On Your Own のアコスティックバージョン(Bono と Edge 二人でやっている)がはいっているというだけでも、この DVD は千金に値します。

まだ全部は見てないけど、インタビューも面白い。

それにしても、

This IS actually our first album.
って、Bono かっこよすぎ。(蛇足:もちろん、二十年くらいやってきたけれど、ようやく(彼の基準からして)まともなアルバムが作れたってこと。)

私も

This is my first paper.
とか言ってみたいところだが(←「ただの真似じゃん」と妻に言われたが・・)、なかなかタイミングが難しいのお。 あまり基準をあげていると、けっきょく first paper が出ないまま引退してしまうし。 かといって乱発すると重みがないし。 これあたりを my first paper と認定しておくか・・
ベクトル解析の講義ノートを構想していて気になっていた、ベクトルポテンシャルの存在証明(ポアンカレの補題の特殊な場合)の初等的なやり方について、井田さん、高麗さん、宮沢さんを次々とつかまえて質問し、いろいろと教わる。 微分形式の理論で標準的な円筒構成法というのを井田さんに教わり、それが、ぼくが考えていたやつと(ほぼ)同じであることを納得。 しかし、物理として自然なゲージでのベクトルポテンシャルを構成する簡単な方法がないなあ。 これはエレガントな解答待ち。

こういう気楽なテーマについてのプロどうしの議論っていうのは楽しいんだよね。

(気になる人のために、もう少しだけ詳しく:ただし、ベクトルを太字で書かないし、場の引数も省略。 rot V=0 を満たすベクトル場が V = grad phi と書けることを示すもっとも教育的な方法は、V の線積分が端点のみで決まることを示し、そこから phi を構成してしまうことだ。 同じことをベクトルポテンシャルについてやりたい。 つまり、div B=0 なら B = rot A と書けることを構成的に示したい。 とくに、div A = 0 となる A を線積分(=B の面積分の境界依存性から決まる)についての情報から初等的に作れるか、が問い。 微分方程式を解いたりせず、phi の構成のように直接的にやりたい。)

帰り道(考えるために遠回りした)で、ほぼ解決。 div A = 0 の解の表現は、全空間の積分を含む形にしかならないことを納得。 あまり、きれいではない。 けっきょく、初等的な構成的証明は井田さんがさっき黒板に書いてくれた円筒構成法に相当するものでやって、div A = 0 の解は高麗さんに教わったグリーン関数を使った表式を書くしかないようだ。 宮沢さんも、演習に出そうと思って同じ問題を考えたが、けっきょく単純な構成法はなかったと言っていたので、その結論とも一致。 三人寄れば文殊の知恵、ということであろう。 ←って、わしが入ってないぞ!


11/24/2004(水)

18 日の雑感に「とある本の復刊のプランについて某出版社から相談のメール」って書いたんだけど、これだけだと、あまりに何が何だかわからなくて感じが悪いですね。

話がでてきたのは、日本の有名な人の書いた本です。 ぼくらが学生の頃は普通に売っていて、みんな結構もっていたんだけど、今は絶版らしい。

それを別の出版社が復刊することを考えている。 ただし、そのまま出すのではなく、そこに書いてあることについての、その後の進展などについての補足的な解説を加えて、今の若い読者とのマッチングをよくしたいというプランのようだ。

こういうお話についてぼくがどう考えているかを説明するかわりに、18 日に編集者で速攻で送った返事のメールをそのままのっけてしまおう。

**さま、

メールありがとうございました。

「**」は、なかなか難しい本ではありますが、きわめて重要な本だと思います。物理の学生さんたちが(たとえ通読できなくても)持っているべき本の一つです。復刊されるなら、すばらしいことだと思います。

また、復刊に際して、私が何かお手伝いできるなら、それほど光栄なことはありません。

ただ、私は日本の「解説文化」とでもいうべきものが好きではありません。名著に便乗して偉そうなことを書いている翻訳や古典の解説の類は読んでいて嫌になるので、無視することにしております。そういう意味では、**の名著は、そのままの形で出したいという気持ちはないわけではありませんが、たしかに、読者にその後の進展の一端を伝える義務はあるのでしょう。

**についての最新の成果を的確に伝えるというのは、おそらく、私一人の手にはあまることだと思います。必要に応じて、どなかた適切な人を捜すお手伝いだけでもできればうれしいです。

何かとばたばたしておりまして仕事の時間はとれないのですが、ともかく、この復刊の企画については心から応援させていただきたいという意志表示をさせていただきます。

田崎

まだお手伝いするかどうかも決まっていないし、気をつかって一部を「**」にしました(字数はあってないです)。

これでも、やっぱり何だかわからなくて感じ悪いかも・・ すみません。


出版社とのメールコピペシリーズ、第二弾。

9/249/29の雑感に、物理学会の「科学セミナー」の解説を集めた本の著作権がらみの話がでてきました。 そいつの後日談です。 長いよ(メールソフトからのコピペだけだからすぐに終わると思ったら、ちょっと時間かかった)。

出版社に対して著作権についての問い合わせをしたところ、まとめ役の物理学会にその質問がまわされ、物理学会からは、全体の方針についてきわめて丁寧で誠実な回答が来た、というのが前回まで。 次は、出版社からも具体的な話が来て、それで原稿提出となるのが常識だと思ったのだけれど、次に出版社から来たのは、単に、

Date: November 11, 2004 3:05:43 PM JST(編集者 → 田崎)

「科学セミナー」ご執筆の先生方

どうもお世話になります.一応,先月末締切ということでお願いしておりまし て,今のところ何人かの方からまだいただいておりません.

大変ご多忙のおりとは思いますが,是非よろしくお願い致します.

という原稿催促メールだった(二つ来た)。

こっちは、ずっとさぼっていたのだが、エンジンをかけ直すにあたり、次のようなメールを書いた。

Date: November 22, 2004 12:33:48 PM JST(田崎 → 編集者)

**さま、

どうもお世話になります.一応,先月末締切ということでお願いしておりまし て,今のところ何人かの方からまだいただいておりません.
申し訳ありません。大変とりこんでおり、作業が延び延びになっておりました。今日の午後には原稿を送らせていただくつもりで最後の仕上げをしております。

ところで、著作権の質問についてその後のお話がないので、念のために確認させていただきます。

先日、物理学会理事の西森さんからご回答をいただき、
 1 個々の解説の著作権は著者のものである。
 2 本全体としての著作権は物理学会にある。
 3 出版社には出版権を設定する。
とのことを了承いたしました。

すると、著作権がある以上は、個々の著者は自分の解説に関しては、web 上での公開を含め、自由に扱うことができるということになります。ただ、これについては、
 4 出版社から個々の著者に対して、期間を限定して解説の公開を自粛してほしいという「お願い」があるかもしれない。
ということも西森さんから伺いました。

常識として、そういった「お願い」は原稿依頼の時点でおこなわれるべきものと理解します。よって、締め切りを過ぎた現時点で何のお話もないということは、けっきょく「お願い」はなく、私たちは個々の解説の著作権を自由に行使できるということだと了解しております。それで、よろしいでしょうか?

わざわざ確認するまでもないこととは存じますが、「何も言ってこないのでこう考えていた」という話にしてしまうのは後味が悪いですから、だめ押しで、確認させていただこうと思います。早急に(こちらの原稿の提出の前に)お返事いただければ幸いです。

田崎晴明

「特別な条件や『お願い』があるなら、原稿依頼の時点でするべきだ」と言っているので、ごく常識的だと自分では思うのだ。

だが、だが、これに対する返事は、けっこうすごくて、びっくりした。

Date: November 22, 2004 1:25:18 PM JST(編集者 → 田崎)

田崎晴明先生

4 出版社から個々の著者に対して、期間を限定して解説の公開を自粛してほしいという「お願い」があるかもしれない。
「期間」などは,契約書を交す際の「特約」として決めて,刊行頃までにお知 らせするつもりでした.

ただ,原稿送付以前にはっきりさせたいということでしたら,(今日は決めら れる人間が不在ですので) 休みあけまでお待ちいただけますでしょうか.

「刊行頃までにお知らせ」って? まさか「出版の準備は整っているんだから、イヤとは言わせねえぜ」とか脅してくるわけでもなかろうし、いったいどういうことなんだろう? 要するに、こっちが「お願い」には従えないといえば、はいはいそうですか、と言ってくる、あるいは、やっぱり「お願い」など面倒なことをする気はないということ? いずれにせよ、不親切な話だ。「原稿送付以前にはっきりさせたいということでしたら」って、こっちが特別な要求をしてるんじゃなくて、むこうからの「お願い」について話してるんだけどなあ。

で、面倒なので、さっさとすませる。しかし、怒っているぞ、ということを示す。

Date: November 22, 2004 1:59:26 PM JST
「期間」などは,契約書を交す際の「特約」として決めて,刊行頃までにお知 らせするつもりでした.
なるほど。
それが出版界における良識的な慣習と貴兄が理解されているということですね。それで、あれば従うことにします。原稿は今日中に送らせていただきます。

こういった「暗黙の慣習」はなかなか興味深いものですので、今回のやりとりは、おりを見て公開させていただこうと思っています。(私が大学教員として大学のアドレスを用い、貴兄も出版社の社員として会社のアドレスを用いている以上、これは公のメールのやりとりなので、私信の公開とはちがって、公開する際にお断りする必要はないのですが、念のため。)

田崎

「まさか、最後まで『お願い』が何なのかを教えないのが良識的なはずがないだろう」とか「名の通った出版社の編集者がこんな対応をしていることを公開したらちょっとまずくないですか?」といった主張が読み取れるように書いたつもりなのだが。

しかし、 これには返事なし。

ぼくは真面目にはたらき、原稿の改訂版を送る。

Date: November 22, 2004 3:05:32 PM JST(田崎 → 編集者)

**さま、

原稿を送らせていただきます。 TeX のソースと図のファイル、および、全体のpdfをzipでまとめたものを送ります。 何か問題がありましたらご連絡ください。

よろしくお願いします。

田崎晴明

これを送ったのが月曜。

火曜日は休日で、今朝(水曜)メールが来た。 著作権関係はすべてみごとにスルーして、原稿のことのみ。

Date: November 24, 2004 10:30:50 AM JST(編集者 → 田崎)

田崎晴明先生

「科学セミナー」原稿ファイルありがとうございました.特に問題はなかったようです.

あと,(最初の依頼状に書いたのですが) (1) 冒頭に 200 字ぐらいのアブスト ラクト,(2) 文末に参考文献リスト,をお願いできればと思っています.

最初の節 (の一部または全部) をアブストラクトにまわすという手もあるので すが,先生の原稿だとそれは難しそうなので,新規にお願いできますでしょう か.

よろしくお願い致します.

かなり露骨に無視されたので、ちゃんと仕事をした上で、こちらの思っていることをちゃんと書く。
Date: November 24, 2004 11:37:39 AM JST(田崎 → 編集者)

**さま、

お手数をかけます。

アブストラクトと参考文献をつけ(さらに、若干の手直しをした)バージョンを送ります。 今度は TeX のソースのみ送りますので、差し替えてください。

よろしくお願いします。

田崎

なお、以前のメールに書いたことからもおわかりでしょうが、著作権関連の質問への貴兄のご対応にはかなりの不満を感じております。
そちらから何の情報もありませんし、まだ正式の契約はいっさい交わしておりませんから、最終的な判断はそちらからの対応が明確になってからにしようと思っています。

さすがに反応しないわけにはいかないと思ったのか、午後に以下の返事が。
Date: November 24, 2004 1:53:49 PM JST(編集者 → 田崎)

田崎晴明先生

修正版ファイルをありがとうございました.

それから,いろいろとご返事が疎かになっていたかもしれません.

契約の取り扱い等について (こちらの考えも含めて) ご説明させていただけれ ばと思いますので,もしよろしければ,一度研究室にうかがえればと思います.

(今週は不在にしますので) 来週あたりで…と思いますが,ご都合のほどはい かがでしょうか.

意図的にスルーしといて「かも」って言うかなあ?

応援したい復刊を担当している編集者の方と会うスケジュールを決めるのもやっとなのに。 こういう生産性のないことでお互いの時間をつぶすのは無駄だと素直に思うので、以下の返事を送る。

Date: November 24, 2004 4:21:30 PM JST(田崎 → 編集者)
それから,いろいろとご返事が疎かになっていたかもしれません.
「かも」ですか? ずいぶんと解釈が違いますね。
契約の取り扱い等について (こちらの考えも含めて) ご説明させていただけれ ばと思いますので,もしよろしければ,一度研究室にうかがえればと思います.
いえ、貴重なお時間を割いていただくには値しないと思います。
物理学会は事前にていねいなご説明をしてくだっさったけれど、そちらは一貫して説明を後回しにされ原稿の催促や注文だけをされてきた、というのが事実だと考えています。ともかく原稿も出したことですから、そちらのご予定の
「期間」などは,契約書を交す際の「特約」として決めて,刊行頃までにお知 らせするつもりでした.
に従って文書をいただき、それからこちらの態度を決めたいと思います。

よろしくお願いします。

田崎

ま、これは、大したことにならないと思いますので、刮目して待たないでください。

けっきょく、学術系出版社のなかには、大学教員の著作権などについてこういう風に反応するところがあるのだ(「契約・著作権・ネット公開などなどについては最後の最後に連絡することにして、最初はそういうややこしい話はいっさいせずに、ともかく原稿を集める」というのが一貫した、そして意図された姿勢だったと思う)、という事実をみなさんに知っていただければと。 しかし、この出版社にはそれなりに好感をもっていただけにちょっと残念。


11/25/2004(木)

今日は、朝から物理学会に行って、領域代表委員会とかいうのに出てきた。 学会の中の十七だかの領域の代表者が集まっていろいろと決める(主に学会でのシンポジウムとか招待講演とか領域のあり方とかを決めるみたいだ。規程があった)という会議だ。 ほぼ一日つぶれてしまった。

なんで田崎がそんな会議に出るんじゃい、とお思いだろう。

おれもそう思う・・・(いろいろな意味で)


どの領域にも属さない「領域外委員」とかいう枠があり、なんの因果か、ぼくはそれをやっているのだった。 今回が初仕事だけど。 で、次が最後の仕事、のはず。 これをやっておけば、もう物理学会へのご奉仕は十分で、今後は何もしないでいいだろう --- という考えに基づいて引き受けました。
で、まあ、どの領域の利害とも無関係に委員会に出席している以上、 などという感じの「憎まれ役的発言」を期待されているのでしょうが、ま、さすがにこの手の会議に初出席でまわりは年上の偉い先生ばかりではそんなことは言えませんでした、というのはもちろん嘘で、いつもどおり、そういうことを好き勝手に言ってきました(かっこの中は露骨には言いませんでしたが)。

ちょっと面白かったですが、でも、面白さは中くらいか。 けんきゅうや、じゅぎょうのほうが、ぼくは、ずっとずっとおもしろいなあ、とぼくはおもいました。

しかし、物理学会って財政的に割と厳しいらしいんだってね。知ってた?

行き帰りの電車はずっと「教育」。 曲は違いますが「ギタア」のリクエストが通じたようで、うれしいです。


11/26/2004(金)

今日の FD

物理数学の講義で面積分の枕で「いろいろな曲面」について軽く話すつもりが、ついクラインの壺の作り方なんかにまで話がおよんで、長くなってしまった。 さらに、トーラスと正方形の周期境界条件の関連を話したところで、一番前にいた(二年だから、この講義はとっていない)○○君の顔を久々に見たせいか、つい「FF の世界での地表面がトーラスになっている」というゲームネタをアドリブでやってしまう。 実はこのあと、曲面を平らな面の集まりで近似するところでポリゴン表示にからんだゲームネタを言おうかなと(これは前から)考えていて、そっちも言ってしまったので、けっきょく、一回の講義で二つもゲームネタが出てしまった。 これはゲームをやらない学生さんには意味不明だろうし、いささかバランスを欠いたかもしれない。 反省して FD の一環としたい。 まあ、ドラクエ発売直前ということで許してもらおう(やりませんけど)。


11/27/2004(土)

[My hand written poster] 少しだけ時間ができてきたので(とはいっても、何だかやりかけのことが山積み)久々に部屋の掃除をする。


それから、ハイテクリサーチセンター研究中間報告会というのでポスター発表をせよということなので、その準備。 ぼく自身はお金をほとんど使わないで仕事をしているわけだけど、この研究プロジェクトのおかげで学習院の理学部に五億だか十億だかのお金が入ってきているらしいから、ポスターの一つや二つを作るくらいはお安いご用だ。

というわけで、歩いて池袋に行き、土曜日の人混みをくぐって東急ハンズまで到達し、模造紙(150円だから、たしかに、お安い)を買ってきて、少しきれいになった部屋で、「教育」をローテーションで聴きつつ、ポスターを気合いで作成。

右の写真のようなものが、完成しました。

ええと、これが、昨今、みなさんが学術発表用のポスターといって思い浮かべるものとは違っているだろうことはよくわかっています。 でも、別にネタでやっているわけじゃなくて、今のぼくの技術の範囲で、もっとも生き生きと研究について伝えられるポスターってのは、こういうのしかないわけですよ。


11/29/2004(月)

名著復刊の計画について、編集者の方からお話を伺う。 ぼくの意見を言い、ぼくにはきちんとした注釈をしたり文献をきちんとあげたりするのは荷が重いことも言い、そして、最適と思う人を紹介。

ついでに、ここなんかに書いているようなことを軸に一般の読者向けの本が書けないだろうか、とのお話。 それは、ときどき描く夢。 ただし、研究ができて、ぼくにしか書けない専門書が書けるあいだは、なかなか・・・  「お互いの停年までに実現できれば」と答えたけれど、それでも、早すぎるか。


11/30/2004(火)

今年もオムニバス形式の全学向けの科目「現代科学」で話します。

今週は、去年のネタの使い回しで、不可逆性の起源の話を。

次回は年があけて、2005 年なので、「奇跡の年から百年」を記念して、アインシュタインのブラウン運動の話をする予定。

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田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
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