日々の雑感的なもの ― 田崎晴明

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茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。


2014/12/6(土)

さて、8 日の最終回を目前に集中講義の準備に時間をかける。 ノートはずっと前に一通りできあがっているわけだが、第二部が残っていて時間が圧迫されていることもあり、なんとか時間内(って何時までだろ??)におさめるべく、ストーリを崩さない範囲で除ける部分を除き、また、一部の話の進め方や説明のロジックを簡略化していくという作業を続ける。

思い返せば、やっぱり、この集中講義の準備には異様に長い時間とエネルギーを使っている。これだけ凝縮した話をしようと思うと普通の講義の完成度よりは二段階くらい上を目指さなくては行けないわけで、改良しても改良してもなかなかゴールに近づかないという感触がある。 別に凝縮して押し込めばいいというものではないからね。あくまで「一生懸命に聴いた人にはこれらの理論をめぐる大局的なストーリーと具体的な強い結果についてかなりの事が伝わり、後から学び直す際の基盤になる物の見方や考え方を自然に身につけてもらう」という大きな目標は忘れたくないのである。


そうやって時間とエネルギーを使った甲斐は確かにあって、特に 2 回目の 12 月 1 日には自分でもかなり満足のいく講義ができたと思っている。 教室の黒板の使い方にもかなり馴染んできたし、初回にはほとんど機能していなかった黒板消しクリーナーも(事務の人にお願いしておいたら)掃除されて使えるようになっていて、講義をするのが物理的に楽になったということもある。 それ以上に、Haldane gap を巡る理論に関する今回の --- 「隠れた反強磁性秩序」を垣間みてから理解するまでのストーリーと AKLTmodel を絡めながら様々な理論の展開を語るという --- 筋書きが、自分で言うのもなんだけど、このテーマの解説としてはほぼベストだったというのが大きいと思う。 当然ながら思い入れの深い話題であり、話していて本当に愉しかった。

聴いてくれている人たちから、素晴らしいタイミングでポンポンと実に的確な質問が出てくるのもうれしい。 まさに強調したいこと、強調すべきこと、次に強調するつもりだったことを質問してもらえるというのは(もちろん質問してくれた人たちが優秀で理解が的確ということなんだけど)解説のストーリー性が明確に出ているということでもあるから。


自分自身が関わった研究で後世に残す価値があると思うものについて解説し、それを若い人たちにも楽しんでもらえるというのは、やはり、とても喜ばしく、また報われることだと思う。 こういうことができるのは本当に幸運だ。

一方で、自分自身の体感とは全く異なる時間の流れをも痛感する。 Koma-Tasaki の定理を紹介していてこの仕事が 1994 年なのに自分で驚いてしまった。「20 年前じゃない、ひょっとして、生まれてない人もいる?」と聴いてしまったが、実際に、余裕で生まれていない若者も聴いてくれていた。 Affleck-Kennedy-Lieb-Tasaki に至っては 1987 年。生まれていない人のほうが多数派かもしれない。 考えてみれば、Princeton に行ってこのあたりを必死でやっていたのはちょうどドクター 3 年の冬に相当する時期だったのだ。今回の講義にも何人かの D3 の人たちが顔をだしてくれているが、ぼくが彼らの年齢だったのだから、そりゃ昔か・・・


集中講義に頭の多くの部分を取られていることもあって、他の多くの仕事がサスペンドされたままになっている。 こういうところが、やはり若い頃とは違うのかもしれない。 締め切りが間近に迫った論文投稿があり、以前の投稿論文の再投稿の(一度延長してもらった後の)締め切りも迫っている。重要なレフェリーレポートも書けないままで二度目の催促が来てしまった。集中講義が終わって、これらを本当に消化できるのか、かなり不安な気持ちになているのも事実だ。

あ、しかし、何にもやっていないわけじゃないよ。 ちょっと必要があり、高麗さんに手ほどきを受けて Lieb-Robinson bound について学び、自分でも簡単な場合は証明できるようになった。 また、教育方面では、通常の講義等の他にそれなりに気を使うことがあって、けっこう時間もかけて、がんばってなんとかやっているつもりだ(でしょ? 周囲のみなさん?)

幸い、体力も戻ってきたし、年末年始がどうのこうの言わずに、がんばろう。 尻切れトンボの日記だけど、ま、いいや。


2014/12/11(木)

ぼくたちにとって「11 日」が特別の日付になってしまってから 3 年と 9 ヶ月か・・


ふう。

集中講義のおしらせ
11 月 17 日、12 月 1 日, 8 日に東大(本郷のほうです)で集中講義をします。 多体問題の数理物理についての本格的な講義を目指しています。ご興味のある方は是非ともご参加ください。

の集中講義は無事に終わった(上のページでは(手書きのスキャンだけど)講義ノートもすべて公開しています)。 ともかく風邪も引かずに三回の日程を元気にこなせて本当にほっとしている。 三回とも、6 時間近くアホのように板書してしゃべりまくったわけだが、最後まで百人近い人たちに一生懸命に聴いてもらえたのは本当にありがたいことだ。 ほんと、これだけの量の講義になると聴く方も「いい災難」というレベルで、全部聴いてくれた人からも「目の前でしゃべっているから寝ずについて行けるので、テレビ中継だったら集中が続かず確実に寝ていただろう」との感想が出た。 また、把握しているだけでも、京都からお二人、仙台からお一人、全日程に参加してくださったし、バークレーの渡辺さんはスカイプの中継で講義を聴いて質問もしてくれた。三日間、仕事を休んできてくれた人もいた。 お世話になった、そして参加してくださったみなさん全員に心から感謝します。

学問的にも、「量子多体系での長距離秩序と対称性の自発的破れ」、「低次元量子スピン系における量子液体」、「ハバード模型と強磁性の起源」という三つの重要なテーマについて自分自身の仕事も含めて今日の視点からストーリーを作り直すのは愉しくそれなりに実りのある仕事だった。ちょっとあれだが、胸を張って後に残せる仕事を過去の自分が手がけたという事実を再認識するのはやっぱりうれしい。一方で、こんな若造(←かつての俺のことね)に負けないようにがんばらねばという気にもなるんだけどね。がんばろ。


さあて、集中講義が終わったところで、これまでお留守になっていた様々なことを再開しなくてはいけないのじゃ。

しかし、これがよくできたもので、これまで水面下に沈んでいた感じで意識にもあまり昇らなかったいくつかの研究トピックや論文のテーマたちがごく自然に水面に向かって浮き上がってくる感じで、最初は朧げに見えて思い出し来て、次第にくっきりと浮き上がってきつつある。 これは強く意識してやっているわけでもないし何か苦労して習得した技でもない。 何を最優先すべきかを判断して決定すると、わりと自然に「面白い」と思う対象が上手に絞られる機能がぼくの脳にはあるみたいだね(ただし、本当に研究がばりばりに進んでしまっているときにはもうそっちに集中してしまってどうしようもなくなるけど)。

まずはあれを片付けて、それから、あれ。そして、ちょっと大きめのあいつだ。 年末は容赦なく迫るけど、そんなことを気にせずにやろう。


2014/12/31(水)

や、大晦日になってしまった。 早い。


今年は 29 日にきんとんを作ったので、今日はけっこう気楽。 適当に掃除や妻の料理の手伝いをしながら、昨夜から考えていた証明の仕上げをしていた。 夕食前に極限の順番なんかのデリケートなところもすべてクリアーして、ちゃんと定理になった。 まあ、ごくささやかな定理だけれど、昔の Koma-Tasaki の論文で構成した対称性を破る基底状態が ergodic であるという予想を裏付けるきれいな結果だ。

技術的には Koma-Tasaki の諸定理よりもずっと簡単で、あの頃にできていてもおかしくはなかったんだけど、なかなかそこまでの動機が盛り上がらなかったのだと思う。 今年になって、東大の集中講義のために Koma-Tasaki を復習したこと、そして、(バークレーの大学院生の)渡辺さんがこのあたりに興味をもって色々と質問して議論してくれたことで、物理的に何がおきているかの理解が深まり、結果として、ちょっとだけ数学的な結果も進んだというわけだ。

やっぱり、ちょっとずつでも自分の理解が進んでしっかりしたものになっていくのが何よりもうれしいな。


さて、今年は色々と時間をとられることが多い一年だった。

だんだん、残りの人生でどれだけのものを後に残せるのかということを真面目に考えるべき年齢になっている気もするし、何に時間を使うかについては厳しく吟味せねば。


というわけで、大したことない日記でしたけれど、これで今年は終わり。

みなさま、どうかよいお年を。

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田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ

hal.tasaki@gakushuin.ac.jp