リベラリズム(ロック的、便宜主義 [opportunism] )と理想主義(カント的、楽観主義[optimism] )が核兵器の削減・平和の実現を志向するのに対して、リアリズム(ホッブス的、悲観主義 [pessimism] )は世界をゼロサムゲーム的に捉えるため、核をはじめとする軍拡競争を促すことになる。
実際の主権国家体制もリアリズム的な秩序であるが、そのような状況にあっても、人類を絶滅に至らしめることが可能なほどの核兵器の潜在的脅威にどう対応するのかという課題は残る。
人類が種として破滅する危険性を理解しながら、その危険性の源泉である核兵器の問題に取り組まないという「否認」状態にある者は、精神障害の症状に陥っているとしか言いようが無い。
このような「否認」状態を生み出しているのは誰であろうか。
Pettman教授は、核の問題に関心がない(あるいは、核のリスクは認識していても自分とは関係ないとする)一般の人々、技術的・中立的に見える専門用語を駆使することによって、核の脅威に関する感性を麻痺させている軍事戦略家、そして、皆が相手よりも優位に立つために競い合っていると考え、強迫観念にとらわれ、他者への理解を欠如させている政策決定者の三者であるとする。
従って、「否認」状態を改善する処方箋としては、核の脅威についての教育の実施(一般の人々に対して)、現実に即した形での専門用語の変更(軍事戦略家に対して)、他者に対する寛容性の滋養(政策決定者に対して)が考えられることになる。