Rose教授の報告の目的は、1990年代以降、日中両国で展開されている愛国心および道徳心の滋養を強調する教育改革を比較検討し、日中関係においてこれらの改革がどのような影響をおよぼすのかを解明することにある。
同教授は、両国が教育改革を進めた要因としては、対外的には、グローバル化に対応する能力のある市民を育成する必要性が、国内的には、社会変動による伝統的な価値観や倫理観の動揺を克服するために「よき国民」を再創出する必要性があったとする。
その上で、特に義務教育レベルの社会科における政府の方針とそれを反映した教科書を比較・分析することで、両国において改革のレトリックが実践に変換されているとは言い難く、むしろ従前の「国家観」と「国民像」を継承したいることを示す。
これは、現在の改革が1980・90年代の教科書問題の遠因に対処していないことを意味するとして、将来、教育政策が日中関係に再び負の影響を及ぼす可能性も考えられるとの結論を導く。
その一方で、両国の改革が環境・平和・エネルギーといった「グローバル」な論点に焦点を当てていることから、両国の学生が自他のアイデンティティについて「グローバル市民」としての共通性を見出す可能性も示唆する。