学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

朝鮮総督府関係者録音記録の調査・分析と公開(昭和会館助成金によるプロジェクト)(2001-2002年度)

 

構成員
研究代表者 河合秀和
研究分担者 河かおる 宮田節子 岡本真希子 田中隆一 宮本正明
(1)研究の目的・意義

本研究の目的は、東洋文化研究所所蔵の未公開録音記録(以下、「録音記録」)を調査・分析の上、基礎的なデータベースを構築し、重要性の高いものを活字化して詳細な註と解説を付して公開することである。
「録音記録」は、財団法人友邦協会と社団法人中央日韓協会より昭和60年に学習院に寄託された「友邦協会・中央日韓協会文庫」の一部である。同文庫は朝鮮総督府の政務総監や各局長などの朝鮮統治政策決定上の枢要な位置にあった官僚が持ち寄った政策立案段階のメモ、手書きの報告書等をも含む稀少かつ資料的価値の極めて高い資料であり、国際的にも注目されてきている。中でも「録音記録」は、朝鮮総督府の諸政策の決定・実行過程に直接携わった人々の講演を、昭和33年以後数年にわたり収録した極めて貴重な記録である。
そのため、「録音記録」の利用を希望する国内外の研究者の声は高かったが、オープンリールであるため、今日まで全く埋もれた状態であった。この度、外部団体によって、一部の「録音記録」については音声がデジタル化され、それを収録したCDが新たに寄託される運びとなった。これを機に東洋文化研究所では、最も重要性の高い「録音記録」四本を活字化し、「十五年戦争下の朝鮮」というテーマのもとに詳細な参考資料、解説、註を付して、当研究所刊行の年報『東洋文化研究』2号(平成12年3月刊)に公開した。実に40年間も埋もれていた貴重な録音記録が、詳細な解説と註とともに公開されるに至った。
この第一回目の公開は試験的に行ったもので、経費・時間の関係上、今後継続的に公開していくための基礎的作業が行われていないのが現状である。貴会館の研究助成を受け、次の「研究計画・方法」に述べるように、「録音記録」の基礎的データベースを構築し、継続的に公開が推進される基盤をつくると共に、重要度の高いものから各年四本分程度を目安に、厳正な分析・考証の上、註・解説を付して公開することを目的とする。

(2)研究計画・方法

1、「録音記録」の調査・整理とデータベースの構築:「録音記録」の目録は、『友邦協会・中央日韓協会文庫資料目録』(学習院、1985年)に掲載されているが、未記載のものがある他、録音時間、出席者、収録年月日などの基礎的情報が含まれていないという点で不十分である。従ってまずはじめに、研究利用上必要となる基礎的情報を含むデータベースの構築を行う(主な分担者・河かおる)。
2、「録音記録」の分類・優先順位づけ、音声の素起こし:1の作業後、各「録音記録」をテーマ毎に大別し、重要性から見て優先的に活字化すべきものをテーマ別に選び出し、音声の素起こしを専門業者に委託する。
3、公開に向けた作業:素起こしに目を通し、公開に値するものを厳密に選定し、公開準備のため、以下の作業を行う。
①話者の確定:収録当時を記憶する数少ない一人である宮田節子氏があたる。
②用語の確定:朝鮮統治の当事者にしかわからないような専門用語(人名・地名を含む)を確定する。話されている内容の誤認などを注したり、文献資料との照合により曖昧な点を裏付ける(全員)。
③註・解説の執筆:一般研究者が利用しやすくするための詳細な註付け作業を、当該分野の専門家である岡本真希子氏、田中隆一氏、宮本正明氏等が中心となってあたる。解説を作成し、「録音記録」から明らかになった新事実を歴史研究の中に位置づける(主な分担者―宮田節子氏)。
4、公開:以上の作業を経て、一定のテーマのもとに厳選した約四本の「録音記録」を東洋文化研究所が刊行する年報『東洋文化研究』に毎年公開する。

(3)当研究により期待される効果

1、研究資源の提供
①「録音記録」のデータベースは、関連分野の研究資源として多くの研究者に活用される。
②重要性の高い「録音記録」を選定して専門業者に委託して素起こししておくことは、公開の準備作業にとどまらず、音声のみの状態よりも飛躍的に資料の活用を高めることにもなる。
③厳正な考証のもとに「録音記録」を正確に活字化することで、稀少で利用が困難な資料を多くの研究者に提供することができる。
2、朝鮮統治に関する歴史研究の進展
①選定された「録音記録」を厳密な考証の上で活字化し、一定のテーマのもとに公開することで、文献資料のみでは明らかにならなかった歴史の空白を埋め、国際的にも関心が高まっている「日本帝国」の朝鮮、台湾、「満洲」統治に関する歴史研究の進展に大きく寄与できる。
②註と解説を付すことで、内容は高度に専門的でありながら、その分野の研究初心者にとっては良き入門ともなる。
このように本研究により直接的に得られる成果はもちろん大きいが、優れた資料の価値が半永久的に持続することを考えるならば、1のように研究資源として整備し、提供することで二次的、長期的に得られる成果は計り知れない。「録音記録」は、朝鮮統治の重要な政策決定や実行過程の実際について、直接の関係者が語っている現下に無二の資料であり、そこから新たに明らかになる事実は多い。また、単にそれら新事実が歴史の空白を埋めるのみならず、「何が忘れられ、話されていないか」に注目することにより、後世の研究者にとっては重要と思われる事項が、当時の為政者の記憶にはほとんど残っていないというような発見ができるのも特徴である。このように、アプローチの仕方によっては無限の研究発展の可能性を秘めた「録音記録」を、調査・分析するだけでなく、より活用しやすい研究資源として提供することにより、学界に大きく寄与することが期待される。

(4)研究の成果

宮田節子(監修)、田中隆一(解説)「未公開資料 朝鮮総督府関係者 録音記録(2)朝鮮統治における「在満朝鮮人」問題」(『東洋文化研究』3号、2001)
宮田節子(監修)、岡本真希子(解説)「未公開資料 朝鮮総督府関係者 録音記録(3)朝鮮総督府・組織と人」(『東洋文化研究』4号、2002)

ページの先頭へ