学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

アジアの社会変動と教育改革(2002-2003年度)

 

構成員
代表研究員 斉藤利彦
研究員 諏訪哲郎 山本政人 長沼豊 村松弘一
客員研究員 井澤直也 所澤潤 雨田英一
(1)研究の目的・意義

アジアの各国において、教育改革が急ピッチで進められている。90年代末に多くの国をおそった通貨危機と経済不況、そして「IT革命」を中心とした急激な社会変動の下で、従来とは大きく異なる教育改革の展開が始まっている。
日本でも同様に、昨年の「教育改革国民会議」の提言や、教育基本法改正問題、あるいは学習指導要領の全面改正等の動向に示される、これまでにない規模での「教育改革の時代」が訪れようとしている。
ところで、こうした教育改革の内実は、各国の状況によって実に多様である。一方でインドネシアのようにリテラシーの教育が重視されている国もあれば、他方で中国や台湾のように情報教育の振興が改革の鍵と目されている国もある。また、中産階級の育成を目ざし職業技術教育の改革を重視するフィリピンのような国もある。
いうまでもなく、そうした教育改革の動向は、決して日本と無縁ではない。例えば、台湾で今進められている教育改革は、いくつかの面で日本の教育制度に範をとっている。また、ODAやジャイカを通して、日本はアジアの教育関連施設に大規模な資金投入を行っている。あるいは、現在も進められている「アジア留学生十万人計画」の進展は、アジア各国の教育制度とのアーティキュレーションの整備なくしてあり得ない。
こうした日本の教育改革との連関という観点に立ち、各国ごとの状況を見すえながら、本研究では、それぞれの国の教育改革の歴史とその成果、そして新たに進められている教育改革の内容とその意義を探ることを目的とする。さらには、それらの分析をふまえて、日本を含めた21世紀型の教育改革の課題を考察しようとするものである。
なお、対象とする国は、主に東アジア(中国・台湾)であるが、日本との関連の深さ(ODA等)を考慮し、フィリピン、インドネシア等の、東南アジア諸国も視野におさめるものとしたい。

(2)研究内容・方法

先行研究および基本的な分析視角については、『東洋文化研究』第2号の拙稿「アジアの教育をとらえるために」で述べた。それをふまえ、本研究は、さらに以下の視点から東アジアの社会変動と教育改革を多元的にとらえようとする。
第一は、就学率の向上やliteracyの教育等の、最も基本的な義務教育レベルでの教育改革の進展を検討することである。周知のように、中国、フィリピン、インドネシア等は、いまだに義務教育の普遍化に課題を残しており、その改革なくして国民教育の確立はあり得ないといえる。
第二に、アジアの各国は、以上のような最もベーシックな教育課題の達成と並んで、「IT革命」や経済改革に対応する教育という、最も高度な教育課題をも同時に達成しなければならない状況に直面している。
これらの課題への具体的な教育政策のあり様を、カリキュラムや教育内容の具体的な視点から分析する。
第三に、アジア各国の教育は、一元的な国民教育制度の確立というだけではすまない、きわめて複雑かつ多様な教育課題を併せ持っている。その中心的課題となるのは、多民族、多言語、多宗教といった社会的現実への対処である。例えば中国は漢民族及び55の少数民族から成り立ち、仏教・イスラム教・キリスト教などの宗教を持つ。またインドネシアは、ジャワ、スンダ、アチェ、プギス、マカッサル等々の数多くの民族から構成され、250種類に及ぶ独自の言語が使用されている。こうしたマイノリティー問題を含む、複雑な多文化状況の下での教育政策の舵取りを、実証的に解明していく。
第四に、以上の点に関して、日本の教育改革との比較の軸を据えながら分析を進めていく。 

(3)研究の成果

諏訪哲郎・斉藤利彦(編著)『加速化するアジアの教育政策』(東方書店、2005)

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