学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

明清期士大夫層の宗教意識(2003-2004年度)

 

構成員
代表研究員 馬渕昌也
研究員 武内房司 大澤顯浩 高柳信夫
客員研究員 上田信 森由利亜 広瀬玲子 王瑞来 橘川智昭
(1)研究の目的・意義

近世以降の中国人の思想を構成する主要な要素は、「三教」と呼ばれる儒教・仏教・道教である。社会的なリーダーシップを有していた士大夫層においては、儒教的教養がその知的世界のバックボーンをなしていたが、同時に、彼等の多くは、仏教や道教といった、より宗教性の強い教義にも多大の関心を抱いていた。
しかしながら、現在の研究状況を顧みると、国内外を問わず、儒教・仏教・道教のそれぞれの専門家が、自らの専門の立場から、彼等の思想の一つの側面を切り取って論ずる傾向が強く、三教相互の関係がどのように意識されてきたかといった総合的な視点からの研究はあまり見られない。そこで、本プロジェクトでは、思想・歴史・文学等の諸分野の専門家を糾合し、明清期の士大夫層の宗教意識のあり方を様々な角度から研究し、メンバー相互の議論を通じて、彼等が三教の相互関係をどのように見ていたか、それが歴史の展開とともにいかなる変遷をとげたか、さらには、清末の西洋諸国の進入への対応(例えばキリスト教や近代科学に対する態度)のあり方において、彼等の宗教意識がどのような役割を果たしたか、といった問題を追究してゆきたいと考える。
従来、このような問題意識に基づいた研究は数少なく、その意味で、本プロジェクトは、中国近世の知識人研究において、一つの新たな可能性を開きうるものだと信ずるところである。

(2)研究内容・方法

本プロジェクトにおいては、第一に、上記の問題意識に基づいて、それぞれのメンバーが専門領域に即した研究を行い、随時、口頭発表を実施し、意見を交換する。具体的には、馬渕が明代、大澤が明末清初、王が宋代、武内が清代、高柳が清末について、各時期の時代の特質を示す人物や事象をケーススタディーとして取り上げ、客員研究員は、明清期全般について、それぞれの専門分野(上田:社会史、森:道教、広瀬:文学)の角度から分析を行う(なお、仏教関係については、馬渕、橘川が中心となって担当する)。
第二に、メンバー全員の共通テーマとして、福建省を中心に活動し、三教を合一した「三一教」を開いた林兆恩を取り上げる。林兆恩を取り上げる理由は、一つには、彼の思想が我々の問題意識からして興味深いものであるからに他ならないが、今一つの理由として、本学に林兆恩の著作集『林子全集』の特徴ある貴重な版本が所蔵されていることも挙げられる。林兆恩については、中国の宗教政策上の意味合いもあってか、未だに完全な全集は出版されておらず、その人物の全体像もなお完全には明らかにされていない。そこで、本プロジェクトでは、本学所蔵の『林子全集』の内容分析をメンバー全員で行うとともに、国内外におけるちょうさを実施して、林兆恩関係のものを中心として、関連資料の収集を行うことを予定している。