学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A05-2 近代中国知識人の「中国」認識 (2005-2006年度)

 

構成員
代表研究員 高柳信夫
研究員 大澤顯浩
客員研究員 中島隆博 廣瀬玲子
研究分担者 吉川次郎
研究補助員 竹元規人 原正人
(1)研究の目的・意義

近代中国は、中国思想の歴史において、春秋~戦国、唐~宋の変革期と並ぶ大変動期に当たる。
そうした近代における思想変動の大きな要素として、中国人の世界認識の変化があげられる。例えば、西洋との接触を通じ、国際社会についてのイメージが、従来の「中華-夷狄」の枠組みに基づくものから、諸国家が並立して競争を展開する場へと、イメージが転換していった。
さらに、このような世界認識の変化と並行して、中国人自身の「中国」認識にも大きな変化が生じ、「中華」としての中国から「国家」としての中国へ、という形で認識枠組みの組換えが行われた。
そして、このような新しい「中国」認識の発生とともに、思想・歴史・文学等のあらゆる分野で、従来とは全く異なる形での言説編制が行われてゆくこととなった。
こうした事象については、近年、ポストコロニアリズムやジェンダー論といった視点からの分析が盛んに行われており、それらが一定の成果をあげているのも事実であるが、同時に、多くの論者の「研究」が、中国近代の歴史的事象に対して、予め定められた「お決まり」の枠組みを押しつけるのみにとどまるものであることも否定できない。また、他方で、当該時期についてのオーソドックスな思想史的研究は、特に近年においては思いのほか少なく、現在の研究状況はかなり偏ったものだといわねばならない。
このような問題意識の下、本プロジェクトでは、あえて方法上の「新しさ」を求めることをせず、主として思想史的な研究手法を用いて、近代中国における思想変革の様相を明らかにすることを目指す。その際特に、共通のテーマとして「近代中国知識人の『中国』認識」、即ち、近代という時代を通じ、中国人知識人の自己認識がいかなる変化を遂げ、彼らは自らをいかなる存在として意識するようになったか、という問いを設定する。この問題は、単に中国思想史上の重要なテーマというのみならず、現代中国のあり方にも直接つながるものであり、その意味で、本プロジェクトの研究は、今日的な意義をも持ちうると信ずるところである。

(2)研究内容・方法

本プロジェクトでは、近代中国知識人が、近代という社会的変革期にあたり、「中国」をいかなる存在として定置しなおしていったかということを、主に中国の過去の歴史・思想・文学に関する彼らの言説を材料として、解明してゆくことを目指す。例えば、近代中国(特に1900年代以降)においては、過去の文化遺産について、従来の王朝中心・学派中心・個人中心の叙述スタイルに代わり、「中国史」「中国思想」「中国文学」といった視点が初めて成立してくるが、このような言説編制のあり方の持つ思想的な意味がいかなるものであるか、といったことなどが、重要なテーマの一つとなるであろう。
思想史研究は、基本的には各研究者の個別的な研究活動が基本となるが、プロジェクトによる共同の活動としては、プロジェクトのメンバー、さらに外部から近代中国を専門とする研究者による研究発表を行い、相互に討論を積み重ねてゆくことを中心とする。その際、特に、気鋭の若手研究者に広く参加を求めていくように留意したい。

(3)研究の成果

高柳信夫(編著)『中国における「近代知」の生成』(東方書店、2007年)