学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A05-3 「中国台頭」と対外関係 (2005-2006年度)

 

構成員
代表研究員 中居良文
研究員 村主道美 辻弘範
客員研究員 田畑光永 岩下明裕 窪田新一 末澤恵美
(1)研究の目的・意義

いわゆる冷戦の終結後十数年を経た現在、中国をめぐる国際環境は大きく変化しつつある。変化の最大のものは中国の「台頭」である。中国は日本の総輸入に占めるシェアで2002年にはアメリカを抜き去った。日本の総輸出に占めるシェアでも中国は急速にアメリカを追い越しつつある。数年以内に中国は日本にとって最大の貿易相手国となることは確実である。中国の「台頭」は経済面だけではない。中国は北朝鮮との6カ国協議に積極的に関わり、ロシア・中央アジアとは上海協力機構を立ち上げ、ASEANプラススリーといった地域主義においても主導的な役割を果たしている。
こうした中国の「台頭」を、中国の周辺諸国はどのように受け止め、どのように対処しようとしているのか。本研究は政治的にも経済的にも「台頭」しつつある中国が、アジア及び世界に及ぼす影響を多角的に分析することを目的とする。中国及びアジア諸国が希求する地域の安定と発展のためには、中国本体が安定する他に、中国と周辺諸国とが非敵対的関係を維持することが必要である。そこで、中国の「台頭」という新たな現実に対し、日本やアメリカを含むアジア・太平洋諸国が直面する問題を客観的に指摘し、その解決への方策を考えておくことが必要となろう。現代中国は多様な問題を抱えた、巨大な存在である。中国が周辺諸国と抱える問題も多様で巨大なものであることが予想される。
そのような中国を見る眼は、一つであるよりは複数であったほうが良い。複数の異なった地域の研究者が、多様な角度から中国という「巨象」を撫でることから、新たな地平が開拓されるのではなかろうか。本研究はそうした実証的かつ学際的なアプローチをとることとする。

(2)研究内容・方法

各研究者はそれぞれ担当の地域の2国間関係につき、その歴史的背景の概要を整理し、現代的なイシューを指摘した上で、そのイシューにつき実証的な分析を行う。研究の具体的作業としては、歴史的資料の収集、文献分析に加え、可能な限りの現地調査を行う。現地調査には専門の異なる複数の研究者が同行する。
現時点での大まかな分担は以下のとおり。中居研究員が総論と中米関係を担当する。いわゆる「中国脅威論」の発生と展開、9・11事件以後の反テロ協力の意味、領土間題や市場開放問題における中米協力の可能性といった間題をとりあげる予定である。
村主研究員は東南アジアと中国、なかでもベトナムと中国との2国間関係の展開を担当する。辻研究員は朝鮮半島と中国との関係を、その歴史的背景も含めて、担当する。田畑研究員は中日関係を担当する。中日関係のイシューにはいわば「定番」といったものが多いが、田畑研究員は領海を巡る国際的取り決めと海底資源開発との関係といった、現代的かつ将来的に極めて重要なイシューに取り組む予定である。岩下研究員には中央アジアと中国との関係を担当していただく。そのようなイシューには例えば、国境確定問題や反中意識の間題、中央アジアにおける地域協力の間題点、エネルギー資源開発を巡る角逐といったものが含まれるであろう。窪田研究員と末澤研究員は、これまで中国との2国問関係でほとんどとりあげられてこなかった地域・国家を担当する。窪田研究員はモンゴルと中国との関係を、なかでもモンゴルと隣接する内蒙古自治区とモンゴルとの歴史的関係を含めて、担当する。末澤研究員はかってのソ連邦の重要な構成員であり、1991年のソ連崩壊においていち早く独立を宣言し、その後ロシアと中国の両国との関係構築を模索しているウクライナと中国との関係を担当する。

(3)研究の成果

中居良文『台頭中国の対外関係』(御茶の水書房、2009年)