学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A06-1 東アジア比較私法(2006-2007年度)

 

構成員
代表研究員 沖野眞已(2006) 山下純司(2007)
研究員 野村豊弘 石川博康 山下純司(2006)
客員研究員 崔光日 銭偉栄 夏芸 沖野眞已(2007)
(1)研究の目的・意義

1980年の国連売買法(条約。1988年発効)以来、1990年代に入って、ヨーロッパ契約法原則(PECL)、ユニドロワ国際商事契約原則(PICC)などのモデル立法が相次いで公表され、国際的・地域的な契約法の統一の潮流がはっきりと認識できるようになった。その流れに即して、1999年には中国合同法(契約法)が制定・施行され、その後韓国でも財産法に関して改正試案が公表されるに至っている。一方、日本でも、2005年4月に、民法の現代語化がはかられて、現代的な表現に基づく(改正)民法典が施行されているが、これはあくまでも用語の現代語化を念頭においた改正法であって、上記国際的契約法統一の潮流には一顧だにしていない。今後は、内容的に見て、21世紀の日本民法にふさわしい改正を検討すべきであろう。
そのさい、契約法だけではなく、日本民法典では第1編民法総則と第4編親族に分属して規定されている「人の法」の再編(成年後見制度も含む)、民法総則に規定されている「法律行為」の内容の豊富化とともに契約総則への移行の可能性を始めとして、民法典の編纂形態の検討も必要になってくるであろう。このようなことをはじめとして、中国・韓国の研究者と協働しながら21世紀の市民法典にふさわしい内容を探求したい。そのことによって、中国の民法典編纂事業、韓国の民法改正事業に協力できるであろう。21世紀においては、一国内の内発的動機によって民法を改正したり、私法に関連する特別法を制定するという時代ではなく、隣国との協調のもとでそのようなことをおこなわなければならなくなってくるであろう。我々の研究は、その先駆けをなすものとして、将来の大規模な作業のためのパイロット事業として、意義があるものと確信している。

(2)研究内容・方法

(1)内容 
 私法のいくつかの制度を取り上げて、まず世界の現状を把握し、その上で、中国、韓国、台湾と日本との比較をおこない、日本法の解釈論に限界がある場合には、立法論の可能性をさぐる。そのさい、求められれば、中国や韓国、台湾に情報提供を惜しまない。取り上げるテーマとしては、現段階では、信託制度、成年後見制度、法律行為論(消費者契約法を含む)、履行障害法、役務提供契約論(委任、請負など)などを考えている。

(2)方法  
 イ)世界の現状の把握
テーマに応じて、フランス法なり英米法、ドイツ法などを中心に据えて、できるだけグローバルなルールを把握するように努める。
 ロ)中国法・韓国法などと日本法との比較
中国・韓国・台湾から研究者を招聘して研究会を開き、あるいは我々が現地でインタビューをおこなって、中国・韓国・台湾の現状なり立法論などの把握につとめる。そのうえで、日本法との比較をおこなう。

(3)研究の成果

岡孝・沖野眞已・山下純司『東アジア私法の諸相-東アジア比較私法学の構築のために-』(勁草書房、2009年)
岡孝「はじめに(特集:東アジアにおける成年後見制度)」(『東洋文化研究』12号、2010)
王仁越 (訳:銭偉栄)「台湾成年監護制度の新しい課題」(『東洋文化研究』12号、2010)
李昭彦 (訳:銭偉栄)「委任契約締結後の委任者の意思能力喪失─委任契約の効力に影響を及ぼすか─」(『東洋文化研究』12号、2010)
金文中 (訳:李妍淑)「韓国における任意後見制度の現状と立法的課題」(『東洋文化研究』12号、2010)
金亮完「韓国における法定後見の現状と課題」(『東洋文化研究』12号、2010)
王 麗萍 (訳:鄭芙蓉)「挑戦と対応―中国における成年後見制度について」(『東洋文化研究』12号、2010)
額田洋一「日本法における法定後見の若干の問題点─特に、成年後見人の権限を中心に─」(『東洋文化研究』12号、2010)
坂井靖「公証実務から見た任意後見制度の実情と問題点」(『東洋文化研究』12号、2010)