学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A07-1 東アジア前近代における文化交流の展開(2007-2008年度)

 

構成員
代表研究員 鐘江宏之
研究員 鶴間和幸 家永遵嗣 下田誠(2007) 畑中彩子(2008)
客員研究員 益満義裕 黄暁芬 木村誠(2008) 下田誠(2008)
(1)研究の目的・意義

近年、歴史学の分野では、東アジア全体を包括する視野でのとらえ方が盛んになってきている。ことに、一国史では把握できない文化交流の軌跡を、他国での現象の中に求めつつ、自国史での中にも位置づけるといったように、国際的な視点から各国史をとらえ直そうという動きができつつある。このように、各地域で認められるさまざまな文化現象を、交流の視点から再評価し、東アジア史という広い視野の中でとらえ直す試みは、各国の中における研究にとどまらず、隣国の研究者どうしで、視点や認識についての意見をお互いに出し合う中から、理解を深め、あるいは補足していくという試みが必要である。
ことに、前近代の歴史を、事実の面で共有し、相互の立場を理解しながらその事実への認識を深めていくことは、東アジア史の発展のために不可欠の過程であり、そのためにさまざまな試みがなされるべき状況になってきていると言ってよいだろう。これまでは、日本・中国・韓国のそれぞれの研究者が史跡や文化財についてこうした視点を共有し、自国史を超えて史跡や文化財への認識を深めて理解する機会が少なすぎたと言っても過言ではない。日本国内の史跡や文化財に関しても、年々進化する東アジアの視点からの歴史認識の変化によって、すでに調査や報告がなされているものであっても、新たに評価し直されるものが次々と出てきているのが、東アジア前近代史の現状である。本研究課題では、こうした現在の研究動向と将来的展望とを踏まえながら、東アジアにおける前近代の文化交流の軌跡を調査し、またその様相をあらためて認識し直すことによって、中国・韓国の研究者との交流の中で、ともにその状況への認識を深め、日本から両国へ向けて、文化交流のあり方とその意義についての情報を発信することを目的とする。
本研究課題で直接の研究対象としているのは、文化交流の軌跡をとどめている日本国内の史跡と文化財とである。史跡の調査については、中国・韓国から別資金によって招聘する予定の研究者とともに行うことによって、複数の視点からの評価の可能性を模索し、東アジア文化交流の歴史像をより豊かに構築していきたいと考える。また、文化財に関しては、漢鏡を取り上げていくが、この考察を通してこれまでの交流史の成果をさらに進化させていきたい。
以上のように、長期的な観点から、中国・韓国との研究交流に益するよう、研究を進めていきたいと考えている。

(2)研究内容・方法

日本国内の環日本海交流に関わる前近代の史跡を調査する。この調査にあたっては、別資金で招聘される中国・韓国の研究者とともに共同で行うことにより、3カ国の研究者の視点で、しかも同時に調査行程をたどることによって、さまざまな意見交換を行うことが可能であり、前近代の文化交流についてより有意義な見通しを得られると考える。3カ国の研究者がそれぞれの認識する問題点を出し合って、調査成果を活かしながら、具体的な歴史像の構築へとまとめていくことにしたい。
また、日本海沿岸における文化交流の基盤と背景をさぐるため、人間の移動をとらえる目的から、古代における日本海沿岸に分布する諸氏族の活動状況について、基本的な資料整理を行っていくことにしたい。
さらにこれとは別に、漢代の銅鏡のコレクションについて、調査を行い、データを整理して公開する準備を進めたい。まだ全貌が公開されていないコレクションであるため、これらが資料として利用できるように整理し、このデータを発信することは、中国・韓国との研究交流の上でも意義がある。これらの銅鏡の分析を通して、古代の文化交流の一面を明らかにし、当該資料の今後の利用への道を開きたい。

(3)研究の成果

鐘江宏之・鶴間和幸(編著)『東アジア海をめぐる交流の歴史的展開』(東方書店、2010年)