学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A07-2 日本語とチベット語の対照研究(2007-2008年度)

 

構成員
代表研究員 前田直子
研究員 長嶋善郎
客員研究員 周毛吉 更蔵 旦木正
研究補助員 タシツリン(2007)
(1)研究の目的・意義

チベット語は、シナ・チベット語族に属する言語であり、ブータン、インドの一部の州、ネパールの一部の州で用いられるとともに、中国の少数民族言語の一つでもある。本研究は、中国青海省で用いられているチベット語を中心に、日本語との対照研究を行い、両言語にとって有意義な研究成果をあげることを目指す。チベットにおけるチベット語は3つの大方言があるが、これまでの研究はその中で最も有力であるラサ方言の研究が中心であった。本研究はラサ方言ではなく、東北地域で用いられているアムド方言を取り上げる。アムド方言の研究は世界的にもほとんど例がなく、大変貴重であることが指摘されており、日本においてチベット語アムド方言の研究が進展することは、価値あることと考えられる。更には、日本語にとってもチベット語は大変興味深い言語であると言える。これまで言語学的に研究が進んでいる多くの言語は類型論的に対格言語であり、日本語もそうである。だがチベット語は能格言語であり、格関係の在り方が異なっている。本研究は特にこの点に注目し、日本語とチベット語の格関係に関わる現象、具体的にはボイス(受動態・使役態)を中心に研究を進めることを目的とする。日本語は、受動態においては自動詞による間接受動態を持ち、使役態においてはその使用制約に大きな特徴を持つが、こうした特徴を深く探求するためには、他言語との対照が有効であり、ことに能格言語との比較はこれまであまり成されてこなかった。本研究は日本語そのものにも有益な示唆を与えることができ、また類型論的なボイス研究に対しても成果を示せるものと考える。

(2)研究内容・方法

日本語とチベット語を対象とし、日本語学および一般言語学における枠組みを基本として、ボイス現象を分析する。まずは、両言語のデータ、特にチベット語のデータを中心に収集し、日本語はこれまでの豊富な研究成果を整理して、チベット語との対照の中で新たな現象を抽出していくという手順で研究を進める。具体的には、前田は研究全般の統括と推進、および日本語のボイス現象(受動態・使役態)についての分析を行う。長嶋は両語のボイス現象(主に動詞の類型)を一般言語学の立場から分析する。周毛吉はチベット語のボイスに関わる研究をとりまとめる。更蔵は、チベット語のデータベース(コーパス)試作・作成を行う。旦木正は伝統的チベット研究におけるボイスについてとりまとめる。

(3)研究の成果

前田直子「現代日本語の使役表現――「拡大文型」の試み」(『東洋文化研究』13号、2011)
扎西才譲(タシツリン)「間接関与型使役表現のアスペクト的な意味 ―日本語とアムド・チベット語を対照して―」(『東洋文化研究』13号、2011)