学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A07-5 日韓民主主義の展開と市民社会論の比較(2007-2008年度)

 

構成員
代表研究員 村松岐夫
研究員 野中尚人 磯﨑典世
客員研究員 大西裕 権寧周(2008)
(1)研究の目的・意義

 本研究の目的は、日本と韓国における民主主義の展開、とりわけ市民社会の相違点と類似点を明らかにし、それらの違いが、両国の政策過程のちがいとどのように関連しているかを解明しようとする。
 日本および世界の政治学の主要な関心事項の一つは、民主化であった。西欧諸国で近代社会において最初に民主化が生じた理由は何か、戦後独立した開発途上国がなかなか民主化できないのはなぜかといった問題は、多くの政治学者の関心を集め、様々な考察が加えられてきた。民主化がなぜ生じるのか、あるいは生じないのかは、政治学にとって依然として重要な問題であり続けているが、論点は、むしろ、民主主義体制が継続する理由や、政策の質や政策過程の円滑さに移行している。パットナムらSocial Capital論者が示す、「市民社会がmembership associationを基盤にしている地域ではそうでない地域に比べ、経済パフォーマンス、教育、治安、幸福感が高い」という仮説がアジア諸国の中でも安定した民主政治を続けている日本と韓国ではどうなっているかを研究の対象とする。大統領制や議院内閣制のような政策の最高機関と市民社会のタイプの関連も重要な分析の対象とすることになる。韓国の政策過程についてはこれまで日本語文献が少なく、本研究は意義あるものとなると思われる。

(2)研究内容・方法

市民社会の特徴という点で、日本と韓国は対照的な特徴を有していると指摘されることが多かった。日本の市民社会は、10年前の阪神・淡路大震災時のように、どちらかというと行政では対応できない領域で公共的サービスの提供を担う担い手であると認識されてきたが、韓国では、どちらかというと議会や政党の機能不全を補い、立法活動に関与する政策唱道者であると認識されてきた。今日、日本と韓国はアジアの先進民主主義国として、民主主義、市場経済、アメリカとの同盟関係など共通の価値観と政策基盤を有し、若年層での雇用の不安定化、少子高齢化などの類似した問題に直面しているにもかかわらず、市民社会に大きな違いが存在するのである。本研究は、こうした違いがどの程度のものであるかを明らかにし、その原因を探る。他方、我々の調査は、政策決定機関・政策アクターがどのような手続きや経過を経て政策決定にいたるかに目を向ける。
前者の市民社会論については、団体の量的調査が必要であるが、本研究ではレヴァイアサン・データバンクに登録されている辻中豊を中心としたグループの両国に関する基礎的団体調査を主として活用する。日本については70年代の住民運動から、韓国については87年の民主化運動から、両国がNPO法策定に至るまでのプロセス・トレーシングを行なう予定である。

(3)研究の成果

村松岐夫・権 寧周「韓国における高位公務員団制度の導入の政治過程」(『東洋文化研究』12号、2010)
大西 裕「政権移行チームという悪魔――韓国における制度記憶不活用の政治」(『東洋文化研究』13号、2011)