学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A08-3 日本のソフト・パワー(2008-2009年度)

構成員
代表研究員 佐々木毅
研究員 坂本孝治郎 阪口功 福元健太郎
(1)研究の目的・意義

本研究の目的は、日本が対外関係において持つソフト・パワーを、特にアジアとの関係を重視しつつ、いくつかの切り口から分析することにある。
第1の側面は皇室「外交」である。外国要人の来訪や皇族の外国訪間といった形で展開される、皇室による「国際親善」の空間的・時間的な軌跡を辿ることによって、日本外交の「戦略性」の一端を析出することを試みる。それゆえ、中国・韓国の要人の来日に伴う皇室との接触や発言、天皇の中国訪問などの政治的演出も分析の対象となる。
第2の柱は世論外交である。アジアの中の日本ということが言われて久しいが、そうしたかけ声とは裏腹に、人々の中にアジア諸国に対する好感度はおろか関心すら高まっているとは言い難い。それは何故かを世論調査データの統計分析により明らかにする。
第3の視角は「緑の外交」である。冷戦終焉後の日本は多くの国際環境条約の締約国会議を招聘するなど積極的な緑の外交を展開するようになる。緑の外交自体は欧米については昔から見られたが、本研究は未だほとんど研究されていない日本の緑の外交の実態、日本が緑の外交を展開するようになった要因を明らかにすることを目的としている。
この研究は、憲法で武力行使を放棄した日本にとって、対外関係の重要な道具であるソフト・パワーを用いて「国際社会において名誉ある地位を占める」方途を探る意義がある。

(2)研究の内容・手法

 ①皇室「外交」
天皇(皇后)、皇太子(同妃)、秋篠官(同妃)、その他皇族の動静を丹念にフォローすることによって、それぞれがどのようなイベント出席・国際親善を期待され、また連携して分担しているか、それにパターン化された動静の年間配置はどうなっているか、等の構造的実態を総合的に把握する。天皇と三権の長とがどのような時間的文脈で顔を合わせるのか、いかなる行事に参集しているか、などにも着目する。
 ②世論外交
時事通信社の世論調査の中にある、中国・韓国・北朝鮮・インドが好きか嫌いかを尋ねる質問項目を用い、統計分析を行う。その際、現在開発中の、二重ベータ・モデルという新たな統計的手法を適用する。これは、集計レヴェルと個人レヴェル双方の好感度がベータ分布に従うと想定することにより、集計レヴェルでのデータから、個人レヴェルでの好感度や関心の高低を推定できるものである。
 ③緑の外交
ケースとしては、日本が冷戦終焉後に締約国会議を招致した国際条約(ワシントン条約締約国会議、ラムサール条約締約国会議、気候変動枠組み条約など)、また規制の強化に積極的に取り組むようになった国際環境条約(国際漁業管理関連条約)を取り上げる。資料としては、締約国会議議事録、日本政府公文書その他の内部資料、日本政府関係者および条約事務局関係者とのインタビュー、地球環境統計データ、新聞記事、などを用いる。

(3)研究の成果

福元健太郎・古田紘也「近隣諸国の好き嫌いに新聞報道が与える影響」『東洋文化研究』14号 2012.3
坂本孝治郎「象徴天皇制の儀礼構造―関係儀礼に見るソフトパワーの動態―」『東洋文化研究』14号 2012.3

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