学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A09-1 戦時期日本のアジア研究とアーカイブス(2009-2010年度)

 

構成員
代表研究員 武内房司
研究員 安藤正人
客員研究員 宮沢千尋 高津茂 牧野元紀 加藤聖人
(1)研究の目的・意義

本研究は学習院大学東洋文化研究所が所蔵ないしは寄託された種々のアーカイブズの整理と研究をつうじて戦時期日本のアジア研究のあり方を検討しようとするものである。戦前・戦中期にかけて、満鉄東亜経済調査局・満鉄調査部・東亜研究所・太平洋協会・南洋経済研究所・民族研究所など多くのアジア研究機関が設立された。これらの機関で行われた研究は確かに時局の要請に添ったものが少なくないが、近代日本のアジア認識のあり方を考えるうえで貴重な視座と資料とを提供しているといえよう。
これまでにも、満鉄調査部などこうしたアジア研究に対する研究が行われてきたが、雑誌や刊行物を利用した研究が中心であったといえる。これに対し、本研究においては、①諸研究機関で実際に調査研究活動に従事した人びとの日記や回想録、さらには書簡などの未公刊文書(アーカイブズ)を積極的に掘り起こし、②研究主体の中国・ヴェトナム等アジア社会への関わり方を具体的に解明していくことを目指すことにしたい。
戦前・戦中期の諸アジア研究機関で活躍した調査者たちの残したアーカイブズは、今日、系統的に収集・整理がなされないまま、散逸していく危機に瀕しているといえる。資料の整理・解題作成とともに、これらのアーカイブズを目録化し、多く閲覧者が利用可能な体制を構築していくことは、今後のアジア研究の深化に大きく寄与するものと期待される。

(2)研究内容・方法

学習院大学東洋文化研究所所蔵資料のなかで注目されるのは、満鉄東亜経済調査局にかかわるものである。そのなかには、大川周明によって設立された東亜経済調査局附属研究所の学生であった西川寛生氏旧蔵の関係文書が含まれる。西川氏は、1940年、同研究所を卒業した後、当時の「仏領インドシナ」に属していたヴェトナムのハノイにわたり、「仏印派遣軍」通訳として活動するかたわら、ヴェトナム社会の調査研究に従事した。
そこで、本プロジェクトにおいてはまず、
①ヴェトナム近現代史の専門家に協力を仰ぎ、当時のヴェトナムの民族運動や社会情況について貴重な記録を残している西川氏の日記資料に対して系統的な整理と解題を行うことで、なお十分には検討されていない戦時期日本の南方関与のあり方やその資料的意義を明らかにしていきたいと考える。
②西川文書の整理・分析にあたっては、東亜経済調査局をはじめ、関連する研究機関及びその関係者の残した関連資料の調査・収集が必要となる。現段階においては、同調査局のメンバーであった中村孝志氏の旧蔵資料を有する天理大学等における資料調査を予定している。
③戦時期日本のアジア研究において成果を挙げているのは満鉄調査部を中心とした滿洲・モンゴル研究である。そこで、本プロジェクトにおいては、ヴェトナム以外のこうした分野の研究者を招聘して年数回程度研究会を開き、アーカイブズ資料の利用法等を含めて知見を広め、研究を深化させていきたいと思う。

(3)研究の成果

P.ルファイエ(訳・松沼美穂他)「植民地期ベトナムに関する史料とアーカイブズ―史料の種類と社会科学における利用―」『東洋文化研究』14号 2012.3
高津茂「両大戦間期におけるカオダイ教と日本との関わり(上)」『東洋文化研究』15号 2013.3
高津茂「両大戦間期におけるカオダイ教と日本との関わり(下)」『東洋文化研究』16号 2014.3