学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A10-3 中国の対韓半島政策(2010-2011年度)

 

構成員
代表研究員 中居良文
研究員 村主道美 李正勲
客員研究員 深川由起子 益尾知佐子 渡辺紫乃
(1)研究の目的・意義

中国の対韓半島政策を国際政治の文脈から分析するのが本研究の目的である。ここでいう国際政治の文脈とは、国民国家を単位とした勢力均衡論や、民族を単位とした地域文化論からの離脱を意味する。ロバート・クーパーやステファン・クランズナーが指摘するように、アジアには多様な国家のありようや、主権の考え方が混在している。そこでは、地域研究者が自己の担当地域を固定し、その枠の中でだけ緻密な論理を展開するのはあまり意味がない。特定の二国間で通用する論理が他の国家・地域間で通用するとは限らないからである。
本研究では中国研究者たちと、韓半島研究者たちの共同作業を試みる。その対象は中国の対韓半島政策、なかでも安全保障政策と経済政策である。中国は韓半島の二つの対照的な国、北朝鮮と韓国、をどのように位置づけ、どのような目的を持ち、どのように取り扱おうとしているのか。そして、それらの中国の政策にたいし、韓半島の二つの国はどのように反応し、どのような対応をとろうとし、実際にとっているのか。これらの問題に中国と韓国の双方から近寄り、より立体的な説明を提供したい。
従来、中国研究者たちと、韓半島研究者たちの共同作業は極めて限定的にしか行われてこなかった。それは、日本の研究者の間に言語の壁と暗黙の分業体制が存在しているからである。本研究所のプロジェクトは、そうした既存の「仕切り」を乗り越えることを可能にする。そうした共同作業は代表者の前回のプロジェクト、「台頭中国の対外関係」が既に部分的に試みたものである。今回は、対象を韓半島に絞り、若手の研究者を交えて、共同作業の一層の充実をはかる所存である。

(2)研究内容・方法

研究員たちはいずれもその分野で実績を上げているので、それらの研究業績を有機的に繋ぐ場として研究会を組織する。まず、研究員をいくつかのサブグループに分ける。先ず、中国と韓国という仕分けでは、中居と益尾が中国、深川と李が韓国を担当する。二国間関係という仕分けでは、中居と益尾が中朝、深川と李が中韓、そして村主と中居が米韓、米朝関係担当となる。更に、研究分野別の仕分けでは、深川、益尾が経済、村主、李、中居が安全保障となる。
次に、これらのサブグループの作業を共通のテーマに従って組み合わせる。例えば、韓半島の国際的安全保障環境といったいわゆるグローバルな問題に対しては、中居、村主、益尾といった組み合わせが考えられ、アジア経済における韓半島と中国の位置づけといったリージョナルな問題については、深川、李、中居といったチームが考えられる。
初年度の研究会において、安全保障と経済問題について、各研究員がテーマ設定をし、研究会での報告をする中で、共通の問題設定を行う。次に、訪問チームを組織し、中国と韓国を訪問し、現地取材と意見交換を行う。研究旅行は年1回とし、原則的に夏休み中に行う。中国側の訪問先の決定あるいは、訪問チームの組織は中国研究者が中心となって行い、韓国側は韓国研究者がアレンジするようにする。
現在の代表者の問題関心は、例えば中国の対アジア政策の中で、韓半島はどのような位置を占めているか、なかでもいわゆる北朝鮮問題を中国はどのように扱おうとしているのか、というものである。この問題については、中国の視点だけでは不十分で、韓国の視点、日本の視点、地域経済の展開という地域的視点、更には北東アジアの安全保障というグローバルな視点が不可欠である。
研究のために現地調査は極めて有効な手段であるが、経費の有効活用にも注意する必要がある。福岡在住の益尾研究員の利便性を考慮し、韓国人研究者との交流集会を福岡で開催すること、また韓国への研究旅行は福岡経由で海路・陸路で行うことも考慮する。調査旅行は極力映像・画像で記録し、報告書類の公開性を高めるようにする。
年2回以上、在京あるいは東京訪間中の中国人・台湾人・韓国人等の研究者を研究会に招聘し、拡大研究会あるいは講演会を行い、研究会の報告は順次ウェブで公開した。

(3)研究の成果

中居良文編著『中国の対韓半島政策』(御茶の水書房、2013年12月)