学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A13-1 東アジアにおける指示代名詞(現場用法)の言語地理学的調査研究(2013年度)

 

構成員
代表研究員 安部清哉
研究員 鷲尾龍一
客員研究員 晋萍 熊鶯
(1)研究の目的・意義

研究目的:日本語・中国語・韓国語を含む東アジア言語における指示代名詞(コソアド言葉)の用法について、その基礎となっている現場指示の用法に焦点を当て、当該地域の2分法・3分法の用法の実態について、現地調査・文献調査・アンケート調査などを行い、歴史的言語地理学的考察を加えることによって、当該地域の特に3分法の詳細を具体的に明らかにし、2分法との史的関係を解明することを目的とする。

研究意義:東アジアにおける指示代名詞は、日本語(こそあ)や韓国語(イグチョ)のような3分法か、中国語、アルタイ語のような2分法かの2種類に限られる。それら2分法と3分法の偏在実態と理由、史的前後関係、その間での影響関係については未解明である。それらの解明は、アジアの言語の指示代名詞の、以下のような研究課題を明らかにする上で、有意義な研究であると考えられる。
・日本語は2分法から3分法に途中で変化し、かつ、地域的な用法の差があるが、それはなぜか。
・中国語方言には、3分法があるという説とすべて2分法であるという説が議論されているが、実態はどうか?3分法が起源でアルタイ語の影響で2分法になったという説があるが妥当か?
・ヴェトナム語は2分法から3分法が派生しつつあるが、どのようにして3分法が派生しているか?
・チベット語アムド方言には、3分法があるが、それはどのようなものか?
・オーストロネシア語は3分法と言われるが地域ごとの詳細な実態はどうなっているか? など

(2)研究内容・方法

①準備状況:指示代名詞とアジアの中の方言研究について、以下の安部、晋の研究がある(一部)。
・安部清哉・黄子榕(協力)、2011.3「チュワン語の指示代名詞における3語形による二分法と日本語—『近称・遠称・他称』による三語用法—」『学習院大学国語国文学会誌』54、pp.(59)-(77)
・安部清哉・晋萍(共著)、2010.3「指示代名詞の中国語四川方言における三分法(現場指示)の存在とその類型」『東洋文化研究』12、 pp.511-548
・安部清哉、2009.3「指示代名詞のアジアにおける地理言語学的研究課題—小川環樹1981「蘇州方言的指示代詞(安部・晋萍訳)付載—」『東洋文化研究』11、pp.(1)-(50)
・安部清哉、2009.3「指示代名詞の現場指示の領域—高橋調査法による2008年若者のコソアド—」『学習院大学文学部研究年報』55、pp.73-112
・安部清哉、2008.3「アジアの中の日本語方言」『方言の形成(シリーズ方言学1)』pp.123-167、岩波書店
・晋萍・安部清哉、2011.9「四川方言指示代詞三分現象初探」『西南民族大学学報』外国語言文学与文化研究32
※上記のように、すでに以下の方法などによってアジア言語・方言の調査を開始している。

②方法:以下のような調査を行い、それらの分析とその総合的考察によって1)の問題を考察する。
A 先行研究による現場指示の用法の用例収集とその分析(論文等の用例を資料とした分析考察)
B 母語話者(留学生)を対象とした個別聞き取り調査(絵を見せての調査、用法の聞き取り調査など)
C 現地での現場指示のシミュレーション調査
 C-1 個別実地調査—1名毎に、複数指示物を距離別に部屋などに配置しての指示調査
 C-2 多人数実地調査—15名前後以上による教室などでの現場指示用法のシミュレーション調査
D 話し手・聞き手同一視点の状況によるシミュレーション調査(検討案)—タクシーの運転手(操作者)と乗客(操作者の背後から指示する人)を仮設し、ビデオ撮影してその指示詞用法を分析する。

(3)研究の成果

安部清哉(著) 高木愛子(協力)「指示代名詞の中国語陝西方言における2分法(現場指示用法)」(『学習院大学文学部研究年報』61、2014年)
安部清哉「指示代名詞の中国語陝西方言における3 分法とその地理言語学的特徴(現場指示用法)」(『東洋文化研究』17号、2015.3)