一般研究プロジェクト
A13-2 東アジアの持続可能な社会を目指す初等中等教育の実態比較(2013-2014年度)
構成員 | |
---|---|
代表研究員 | 諏訪哲郎 |
研究員 | 佐藤学 斉藤利彦 飯沼慶一 |
客員研究員 | 元鐘彬 于莉莉 申智媛 |
(1)研究の目的・意義
様々な環境問題や資源・エネルギー問題など、人類が直面している難題は少なくない。これらの難題の解決なしには、平和で安定した持続可能な社会はありえない。今、人類がこれまで歩んできた便利さや豊かさを追求する姿勢は反省を迫られており、様々な分野で持続可能な社会を目指した、これまでとは違った方向性を模索する取り組みが始まっているが、現段階はいまだ試行錯誤の段階と言っても過言ではない。しかし、残された時間が潤沢にあるわけではないので、持続可能な社会の構築にとってより有効な教育内容と教育方法への転換は早ければ早いほどよい。
本研究は東アジア各国で進められている持続可能な社会の構築を目指した初等中等教育段階での取り組みの実態を教育内容と教育方法の両面で把握し、それぞれの特色ある教育内容と教育方法及びその組み合わせの有効性について検討し、初等教育段階と中等教育段階別に、最も有効な教育内容と教育方法の組み合わせを探ることを目的としている。
本研究による研究成果は、学習院大学東洋文化研究叢書として刊行することを目指すが、プロジエクト構成員がこれまでに構築してきた様々な日中韓の研究交流の場で発表し、最も有効な教育内容と教育方法の組み合わせを各国に浸透させることができれば、持続可能な社会の構築を目指す取り組みは、試行錯誤の段階から一歩足を踏み出し、その普及・浸透を目指す新たな段階に移行させることが可能である。
なお、本研究における「教育方法」は、「教室において児童生徒にどのように学ばせるか」だけでなく、「優れた教育方法を実践できる指導者をどのように養成していくか」にまで視野を広げた概念である。有効な教育方法であっても、指導者が十分にその有効性を引き出せない授業実践になってしまいかねない。そうならないためには、狭義の教育方法と教師教育をセットにする必要があると考えている。
(2)研究内容・方法
本研究の主要な内容は、東アジアにおいて持続可能な社会の構築を目指した優れた教育内容と教育方法を有する教育実践と目されるものを様々な情報源から洗い出す段階、次に、プロジェクト構成員が直接その実践が行われている場に出向いて観察・調査して実態を把握する段階、さらにその有効性を確認し、評価する段階、そして最後に研究成果を取りまとめる段階から構成される。
この研究内容を遂行する具体的な方法として、最初の情報収集段階では、インターネットも活用するが、プロジェクト構成員がこれまでに構築してきた様々な日中韓のネットワークにおける口コミを活用して有力候補を洗い出す。そして、絞り込まれた有力候補について信頼できる複数の証言を求めて実態調査を行う授業実践を決定する。
次の授業実践の実態調査の段階では、まず、調査許可を得ることが大きな課題となるが、プロジェクト構成員が構築してきた人脈と共に、客員研究員の本国における様々な「関係」を活用する。その際に、本研究の持つ意味をしっかりと相手方に伝える必要がある。実態調査にあたっては、ビデオ等での記録を取ることで、プロジェクト構成員の意見交換に資するようにする。また、実践した教員や学校の代表者にインタビューをして、持続可能な社会の構築を目指した教育実践に取り組むようになった経緯、そのための指導内容・指導方法を確立していった経緯(教員養成課程や研修等を含む)を聞き取る。(以上が、プロジェクト第1年目の研究活動となる予定)
次の授業実践の有効性の確認・評価の段階では、プロジェクト構成員の意見交換による評価も重視するが、授業実践の有効性に対するより客観的な評価をするために、持続可能な社会の構築への意識の程度を確認できるような評価のための調査票を開発し、実態調査を行った学校を再訪して、児童生徒に回答してもらう。これらを取りまとめて、再度プロジェクト構成員による意見交換会を持つ。なお、開発した調査票の有効性を確認するために、首都圏の小学校と中学または高校で試行実施を行う予定。
最後の研究成果を取りまとめる段階は、上記の意見交換会で報告書執筆に向けた役割分担も行い(以上が、プロジェクト第2年目の研究活動となる予定。)、プロジェクト終了後3か月以内に各構成員が分担した報告書を代表研究者に提出し、代表研究者が取りまとめて学習院大学東洋文化研究叢書として刊行する。
(3)研究の成果
飯沼慶一「韓国の小学校「理科(科学)」における探究型学習『自由探究』の意義―持続可能な社会を目指す教育の視点から―」(『東洋文化研究』18号、2016.3)
元鍾彬「持続可能な地域発展のための教育―韓国のプルム学校の教育力―」(『東洋文化研究』18号、2016.3)
佐藤学・木曽功・多田孝志・諏訪哲郎(編著)『持続可能性の教育—新たなビジョンへ』教育出版、2015年