学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A13-3 第二次世界大戦期における占領下アジア地域の社会経済調査について(2013-2014年度)

 

構成員
代表研究員 眞嶋史叙
研究員 武内房司
客員研究員 グレッグ・ハフ 平山勉
(1)研究の目的・意義

当プロジェクトは、占領期の東アジア・東南アジアにおける社会経済調査資料を、国内外の研究者に紹介し、それぞれの視点から比較検討することを可能にすることにより、関係諸国・諸地域と日本との間に厳然としてある歴史認識の格差を縮小しようとする試みである。以前より当プロジェクト代表研究員(眞嶋)は、オクスフォード大学歴史学部グレッグ・ハフ教授(当プロジェクト客員研究員)と東南アジア6か国における占領期の経済政策に関して共同研究を進めてきたが、一次史料として用いた南方軍軍政総監部調査部報告書の社会経済調査資料としての価値の高さに感銘を受け、国内外の研究者に広く紹介すべきであると考えた。
占領期の東アジア・東南アジア研究を担った研究機関としては、南方軍政調査部のほか、満鉄調査部、東亜研究所、三菱経済研究所、太平洋協会などが知られるが、これらの研究機関による調査研究の成果を記録した報告書の詳細は、当該地域の専門家以外にはほとんど公表されておらず、ましてや海外の研究者にとってはほぼアクセス不可能な資料となってきた。これまで、東アジア・東南アジア史において、たとえばGDP等の長期時系列データの再構築作業を考えた場合に、占領期はしばしば資料欠如による空白の時代、もしくは断絶の時代として扱われてきた。しかしながら、日本に残存する研究調査報告書の断片から、もちろん限界はあるものの、こうした再構築作業に寄与することが可能になるかもしれない。そのような期待のもと、各調査部が試みた客観的データ収集の成果を、広く結集させて整理していくことを長期的な目標にしたいと考える。
当プロジェクト代表研究員はこれまで共同研究者のハフ教授とともに、イギリス経済史・英領帝国史の観点から、調査部史料の読解に取り組んできたが、まずは日本における当該地域研究の専門家らとの学術的な交流と意見交換を進め、また海外の研究者らとの交流の場を広く設けることで、少なくとも社会経済史の分野では、占領期の東アジア・東南アジア史における歴史認識の格差を縮めていく方向で、なんらかの貢献をしたいと願い、研究成果の普及に努めていきたいと考えている。研究成果普及の機会としては、終戦70周年の2015年の8月にちょうど日本(京都)で開催されることとなったWorld Economic History Congress(4年に一回開催の経済史学世界大会)を見据えつつ、2014年にはプレコンファレンスを学習院大学で開催していきたいと希望している。

(2)研究内容・方法

具体的な研究プロジェクトの内容として、各調査部・調査機関による豊富な調査資料の中で、どのテーマに焦点を当てていくかであるが、まずはプロジェクト代表研究員がこれまでイギリス史の文脈の中で進めてきた社会経済調査方法(主に家計調査方法)の発展史を軸に、日本の調査機関がどのような調査を現地で行ったか、残存する報告書および周辺史料を総点検し、もし発見されれば個票調査票の回収を目指す。プロジェクト代表研究員は、現在のマレーシアに属する地域を主な調査範囲とし、南方軍政調査部および三菱経済研究所、太平洋協会の資料点検を担当する。満鉄調査部史料に詳しい慶應義塾大学訪問准教授平山勉教授は満鉄調査部の資料点検を担当する。資料の整理、英訳については、研究協力者が担当し、ハフ教授との連携をはかる。本学文学部武内房司教授は現在のヴェトナム・ラオス・カンボジアとその周辺地域に関する資料や日本におけるアーカイヴズについてアドヴァイスを行う。さらに、プロジェクト代表研究員は、そのほか現在のインドネシアに属する地域など東アジア・東南アジア地域に関する調査報告資料について、それぞれの地域史の専門家から助言・指導を受ける。
資料収集から報告公開まで、3段階のステップを計画している。
 (1)まず資料内容の点検と公開史料の選定である。家計調査、労働力調査、市場価格調査などが、すでに南方軍政調査部資料の中にみつかっているので、それらに対応するものがあるか、他の調査機関の調査報告資料の内容を点検する。
 (2)当時の現地調査に基づき、どのような経済政策が導かれたかを資料から解読し、またその実現可能性および有効性について分析する。さらに占領期の政策と旧宗主国による植民地政策との類似点、相違点を文献調査によりあきらかにする。政策の有効性を評価する材料として、貿易統計も利用する。
 (3)経済史世界大会のプレ・コンファレンスとなる国際会議を開催し、「占領下の経済・社会・暮らし(仮題)」というテーマのもと、国内の専門家、東アジア・東南アジア在住の研究者、旧宗主国在住の研究者による報告と意見交換の場を設け、今後の学術交流・共同研究・資料英訳の可能性を模索する。

(3)研究の成果

平山勉「「国策会社」における社員団体の分析—満鉄のミドルマネジメントと満鉄社員会をめぐって」(『東洋文化研究』18号、2016)
Majima, Shinobu (2016). The Japanese Military Administration Department of Research Reports on Singapore's Wartime Economy. Journal of Asian Cultures, no.18 (眞嶋史叙「戦時期シンガポールの経済社会について—南方軍政総監部・馬来軍政監部調査部報告書からわかること—」『東洋文化研究』18号、2016)
Huff, Gregg & Huff, Gillian (2016). Substitution in a War-Affected Economy: Southeast Asia, 1941-1945. Journal of Asian Cultures, no.18(グレッグ・ハフ、ジリアン・ハフ「戦時経済における代替品生産—東南アジアの例を中心に—」『東洋文化研究』18号、2016)
武内房司「大南公司と戦時期ベトナムの民族運動:仏領インドシナに生まれたアジア主義企業」(『東洋文化研究』19号、2017)