学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A14-1 東アジアの家族・地域社会による高齢者の保護(2014-2015年度)

 

構成員
代表研究員 岡孝
研究員 原恵美
客員研究員 崔光日
(1)研究の目的・意義

これまで、研究代表者の岡は、科研費(基盤研究C)や「東アジア高齢社会の法的問題解決に向けた共同研究拠点の形成」事業で、高齢社会の法的問題、特に成年後見制度の比較研究を行ってきた。日本は2000年4月施行の成年後見制度で配偶者後見人制(旧840条)をいとも簡単に廃止してしまった。
しかし、目をヨーロッパに転じてみると、ドイツはもとより、スイスでも成年後見制度のかなめに家族が据えられているのである。2013年1月からスタートしたスイスの新成年者保護法(スイス民法典の改正)によれば、医療行為の代諾権者として「成年者事前支援委託」(または「事前医療行為指示」)による受託者、補佐人についで、第3番目に配偶者、第4番目に定期的にかつ個人的に要保護者(親)を介護している子が挙げられている(スイス民法378条1項3号、4号)。日本でも、第三者後見が2012年には後見人全体の半数を占めるに至っており、もはや家族が要保護者を支えるという時代は終わったような印象があるが、現実に後見人が活動する際にはつねに要保護者の家族(配偶者・成年の子など)との意思疎通を密にしなければ、十分な活動ができないといわれている。台湾、韓国でもすでに新成年後見制度が施行されているが、そこでは家族の役割はどうなっているのであろうか。
さらに、地域社会は高齢者をどのように支えているのであろうか。家族のいない独居老人などを支えるのは地域社会ではないのか。これは中国で第三者による支援の方法として最も可能性のある形のようである。
そこで、本研究では、高齢者を支えるシステムとして家族と地域社会の役割を検討することとする。

(2)研究内容・方法

① 東アジアにおいて、高齢者を支えるシステムとして家族・地域社会はいかなる役割を果たしているのかを調査する。
これまでの海外拠点の研究者の協力を得て、まずは中国(山東大学・申政武教授、吉林大学・馬新彦教授など)、台湾(中央警察大学・鄭学仁教授、台湾大学・黄詩淳助理教授)、韓国(仁荷大学・朴仁煥教授、全南大学・鄭鍾休教授)の家族制度の現状を調査する。
② 東アジアで、地域社会が高齢者をどのように支えているのかを①の研究者の協力を得て調査する。
③ 日本の家族制度(成年後見の問題に絡めて)の調査
専門職後見人(司法書士、弁護士、社会福祉士など)や各地の成年後見センター(多治見、坂出、下田、札幌など)で、家族の介入の実態を調査したい。家族関係が崩れているからこそ成年後見人の活動に家族が介入し、妨害するのであろう。それをどのようにして克服しているのかを知ることがポイントである。
他方で、家族や地域社会が高齢者を支援しているケースも数多くあると思われるが、それはどのような分野なのか、そして十分に支援できている理由は何かを調査したい。このような調査のために、成年後見業務に詳しい司法書士の田沼浩氏の協力をお願いしている(承諾済)。
④ ちなみに、地域社会の役割を重視していることには2つ理由がある。第1に、中国では近未来もまた家族以外に高齢者を支えるのが地域社会であろうと推測される。第2に、高齢者を支援する体制として家族が当てにならない場合に、日本では市民後見人を当然視しているが、この発想には限界があり、早晩行き詰まるであろうと予測されるのである。地域社会ということでなにを意味するかは問題であるが、単に隣組という発想ではない。例えば、市町村レベルにもある社会福祉協議会や行政(市町村)などを中心としてそのネットワークなどを活用しようと考えている。③の調査により、その実態と他の自治体への応用可能性を検証しようと考えている。

(3)成果報告の計画

原は、予定通り、フランスの成年後見制度の現状を予定通りまとめることになっている。岡は、主としてオーストリアの近親者代理権を検討し、現実にどの程度機能しているのかを分析した上で、国連障害者権利条約との関係で法定代理が否定されるとすると、せめて要保護者の本人が近親者に契約で代理権を与えるという方法で、近親者による保護を今後とも図れないか、検討したいと考えている。