学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A14-2 東アジア各国における歴史認識とコンテンツ(2014年度)

 

構成員
代表研究員 辻大和
研究員 杉田善弘
客員研究員 木村拓 玉井建也 堀内淳一
(1)研究の目的・意義

本研究は、日本、中国、韓国を対象として、メディアコンテンツの状況を調査・比較する。
ただし、現代においてはメディアコンテンツといっても、テレビ、ゲーム、書籍などの媒体においても、ドラマ、バラエティ、アニメーションなどの表現方法においても、娯楽、教養、報道といった内容においても、非常に多岐にわたっており、一定の枠組みを設定しなくては、比較検討することすら困難な状況にある。そのため、数あるコンテンツの中から「歴史」を取り上げて検討する。
近年の東アジアでは、政治的緊張が高まっているが、その背景には(各国の経済的、軍事的思惑があるにせよ)基本的に「歴史認識」が問題とされてきている。
しかし、現代社会において、歴史研究の成果がダイレクトに歴史認識に影響を与えることは少ない。研究者によって明らかにされた歴史像は、書籍・テレビ・ネットなどのコンテンツを通じて、人々に届けられる。実証的、理論的な人文科学研究の成果と、人々の間で理解されている「歴史認識」との間には大きな断絶がある。
このような断絶がありながら、従来の研究では歴史認識における実証性、論理性を求めるのみで、それが一般の人にどのように伝えられているか、あるいは、どのようなイメージを持たれているのかという点について、十分な検討が行われてきたとは言い難い。
日本・中国・韓国のメディアや文化政策については、主に社会学やマーケティングの分野で重点的に研究が進められてきた。日本・中国での「韓流」についての分析や、日本のアニメーションの東アジアでの普及などは、すでに学術書・一般書を問わず、市場にあふれている。だが、それらが各国の歴史認識に多大な影響を与えていることが指摘されることは少なく、さらに、史実と認識の間の齟齬がどのように生み出されるかというプロセスにまで踏み込んだ研究は皆無である。この原因は、社会学・経済学が主に現在の状況を扱う学問であり、東アジアの前近代にさかのぼって歴史を研究するための準備がないことにある。
一方で、歴史研究の側から見ると、日本におけるいわゆる司馬史観や、中国における革命史観が史実に即したものではないことは、再三指摘されている。だが、その指摘が実際の歴史認識に影響を与えているかという検証は十分になされていない。歴史研究者が明らかにした「史実」が、どのような形で研究者以外の人々に認識されるか、という点を客観的に明らかにしようとする研究はほとんどみられない。
本研究では、科学的歴史研究と人々の「歴史認識」を結ぶプロセスとしての「歴史コンテンツ」に注目し、日本、中国、韓国で比較検討する。これは、単に東アジア各国の文化を明らかにするのみならず、「歴史認識問題」という現代的な課題にも応えうる意義をもつであろう。

(2)研究内容・方法

研究内容については、堀内が中国を担当し、木村が韓国、玉井が日本を担当する。
堀内は中国古代史を専門としているが、既に日本における史実とフィクションの関係について論文があり、また、実際に中国でTV制作会社や、IT企業でインターンシップをした経験がある。
木村は朝鮮王朝期の研究者であるが、同時に、韓国の歴史ドラマ(『大王の夢』)の日本語字幕の監修を行っているなど、韓流ドラマの中でも時代劇の日本での展開にかかわっている。
玉井は日本近世史を専門としており、中でも琉球通信使という、近世の東アジア交流に関連する研究を行っている。同時に、コンテンツ研究者として、いわゆる「聖地巡礼」を取り上げた論文も数多く執筆している。
以上三名はいずれも日本・韓国・中国を対象とする歴史研究者であり、コンテンツの分析もできる稀有な研究者ではあるが、社会学・経済学的視点からの分析については、専門家の補助が必要となる。そのため、マーケティング論を専門とする杉田の助言、補助によって、歴史学と経営学の両側面からのアプローチを試みる。

(3)研究の成果

辻大和編『東アジアの歴史イメージとコンテンツ(調査研究報告No.64)』(学習院大学東洋文化研究所、2018年)
玉井建也「物語文化と歴史イメージ、コンテンツツーリズム」(『東洋文化研究』18号、2016)
堀内淳一「中国人の歴史認識とテレビ歴史劇及びその周辺」(『東洋文化研究』18号、2016)
木村拓「朝鮮後期における「九義士」成立の経緯―対明義理論の展開に即して―」(『東洋文化研究』19号、2017)