学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A15-1 親族法・相続法における当事者間の合意の効カ—東アジアの比較家族法研究—(2015-2016年度)

 

構成員
代表研究員 稲田龍樹
研究員 岡孝
客員研究員 若林昌子
(1)研究の目的・意義

民法には、協議の文言を含む規定が多数あるが、その意義は、契約の一種であると説明するにとどまる(通説)。協議の成立とは、当事者間の合意があることを意味するところ、明文には、「協議が調う」または「調わないとき」とあるように、民法典制定過程を調べると、独特の立法過程の状況がある。
この協議文言を切り口にして、協議離婚、協議離縁そして遺産分割協議という親族法および相続法の中核的な制度を考察することにより、当事者間の合意の意味は、1948年(昭和23年)1月の家事審判法施行から約半世紀を経て、実務的には、独特の法効果が付与される運用が家事調停・審判の実務において定着した(当事者主義的運用)。2013年(平成25年)1月から施行された家事事件手続法においては当事者主義的運用の一部が立法されたが、同運用のうち、当事者間の合意の要件効果についての立法措置は先送りされた。
この残された論点を条文に即して調べることの意義は、以下のとおりである。
第1に、わが国の「協議」概念は、東アジアの中国、韓国、台湾においては、日本の近代法の翻訳語が漢字圏文化地域であることから、法学輸出により協議の語はほぼそのままの形で各国法制度に定着した。そこで、「協議」概念が、各国においていかに変容されているかを比較検討する必要のあることは疑いがない。第2に、当事者間の合意は、とりわけ「協議」が親族法および相続法の分野において実務的な重要性が増しているが、鈴木禄彌・東海法学3号登載論文を除いて、本格的な検討が不十分である。理論的な検討を深める必要がある。第3に、「協議」は西洋法には直接対応する法条のない概念ではあるが、明治初年に法継受の際に創案されたこの概念の特色を明らかにするためには、欧米との比較を避けて通れない。第4に、現在、韓国、台湾では日本型の家庭裁判所の導入を意欲的に進め、また、中国も親族法、相続法の制定を模索している。以上の次第から、東アジア諸国法制下において急速な少子高齢社会の扉を開かざるを得ない中で家族法における「協議」概念について多面的に検討研究することの意義はきわめて大きいものがある。

(2)研究内容・方法

研究内容は、要約すると、「協議」概念の現代における変容を明らかにすること、その理論的な意味を究明すること、ヨーロッパ法制と比較すること、である。その方法は、以下のとおりである。
第1は、東アジア諸国の民法典などの「協議」あるいはこれと同義と解される文言に係る条文の検討、実務上の問題点を調べる。韓国については、仁荷大学法学専門大学院・朴仁煥教授、中国については松山大学・銭偉栄教授、台湾については中央警察大学・鄭学仁教授、台湾大学・黄詩淳助理教授の協力を得ることを予定する。韓国、台湾の家庭裁判所を訪問し、理論的および実務的な状況を調査する。
第2は、欧米諸国における類似の制度と対比し、その特徴を調べる。ヨーロッパ、とりわけ、フランスの法実務(公証実務を含む。)に現れた協議に相当するものを現地で調査したい。
第3は、明治初年から明治民法典家族法の編纂過程、明治民法およびその改正論議の調査を行う。山形大学の高橋良彰教授などを「民事法(家族法)における協議(当事者間の合意)問題研究会(仮称)」に招聘して論議を深めたい。この点は、文献の調査についてはある程度進んでいるが、対象が広範でもあり文献の渉猟も併せ進めたい。
第4は、日本の裁判所実務における当事者主義的運用の現状を、若林昌子元判事(公益法人家庭問題情報センター理事長、この点の専門実務家)の協力を得るほか、家裁調停委員経験者や弁護士の意見を聴取したい。
第5に、上記東アジア諸国は、早晩、総合的な家族法制の改革を避けて通れないが、協議による当事者間の合意の法的研究は、理論的解明に加えて、国家財政負担の最小化の要請への配慮を求められる。この観点からの立法動向をも併せ調査したい。

(3)研究の成果

稲田龍樹編『東アジア家族法における当事者間の合意を考える—歴史的背景から子の最善の利益をめざす家事調停まで』(勁草書房、2017年)