学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A15-2 アジア諸国における生産性動向の比較研究(2015-2016年度)

 

構成員
代表研究員 宮川努
研究員 乾友彦
客員研究員 滝澤美帆
(1)研究の目的・意義

産業別生産性に関するデータベースを作成する作業については、日本と韓国の比較作業(2007年度本研究プロジェクト)以来、継続的にデータベースの延長を行ってきた。日本のデータベースに関しては、(独)経済産業研究所及び一橋大学経済研究所と共同でこの延長作業を行い、データベースについては、http://www.rieti.go.jp/jp/database/JIP2013/index.htmlで公表している。こうした産業別生産性データベースの作成作業は、世界各国で行われており、2010年にHarvard大学で開催されたWorld KLEMS Conferenceを機に、我々や韓国のデータベ―スも、Jorgenson Harvard大学教授が作成する米国のデータベースや、オランダ・フロニンゲン大学が中心となって作成しているEU諸国のEUKLEMSデータベースと整合性を保っている。このため、2011年にはWorld KLEMS projectのアジア版として、Asia KLEMS Proiectが発足し、日本や韓国だけでなく、より広くアジアの国々の産業別生産性に関するデータを、より統一的な視点から整備しようとする研究が進んでいる。
本研究は、このAsia KLEMS Projectに関連してアジア独特の産業構造も視野に入れ、生産要素としての土地を推計(標準的な経済学では資本、労働、中間投入を生産要素と考えている)する試みや、各国の産業別生産性の動向を裏付ける補完的な研究として、企業レベルでの生産性を計測し、アジア諸国間(特に、日中韓)で比較を行う作業をする。アジア諸国は、世界の成長センターでありながら、その成長要因についての定量的把握は十分でなかった。本研究は、こうしたデータベース推計作業を通して、アジア諸国の経済成長要因や、日本経済との比較を行う点で意義のある研究であると考える。

(2)研究内容・方法

日本の産業別生産性データベースについては、すでに世界レベルで標準的な推計手法が確立されており、作業自体としては、産業連関表を利用した産出量と中間投入の推計、国富調査などを用いた労働投入量の推計、固定資本マトリックスをベースにした資本投入量の推計によって、これまでのデータベースを延長推計する。ただし、アジア諸国と比較する際には、農業を中心に土地を生産要素として考慮しなくてはならない。日本でこの推計をするには土地利用や土地の評価額に関する統計を詳細に調べる必要がある。本研究では、特にこの作業に労力と研究時間を投入する。
またいくつかのアジア諸国については、すでに株式市場も整備されており、上場企業のデータを取得することも可能になっている。したがって、本研究では日中韓の上場企業レベルのデータから、産業別生産性データベースで蓄積した知見を活用し、企業レベルでの生産性の計測と、比較研究を行う。
産業レベルでの生産性データベースでは、日本と他のアジア諸国との産業構造の違いや、経済成長の要因を把握することができるが、企業レベルの生産性を計測し、これを比較することにより、これを企業レベルの国際競争力の問題にまで遡って分析することが可能となる。本研究の研究員の一人である乾教授は、かつて、深尾一橋大学教授と日韓の企業レベルの生産性比較を行った経験があるが、その際、すでに2000年代には、韓国の三星電子の生産性は、パナソニックやソニーの生産性を上回っていたことを確認している。その後2010年代に入ってからの日本の電機企業の苦境を考えると、こうした企業レベルでの生産性の比較作業は、産業別生産性データベースからの分析を補完するとともに、日本企業の近い将来の国際競争力を見通す上で重要な作業である。

(3)研究の成果

宮川努、乾友彦、滝澤美帆、フィリップ・ボーイング、金栄愨、張紅詠『東アジア諸国における経済成長と生産性―マクロ・産業・企業レベルにおける比較研究―(調査研究報告No.65)』(学習院大学東洋文化研究所、2019年)