一般研究プロジェクト
A15-3 日本近世から近代における〈国家〉意識の文化的諸問題とアジア(2015-2016年度)
構成員 | |
---|---|
代表研究員 | 遠藤薫 |
研究員 | 中田喜万 |
客員研究員 | 周東美材 |
(1)研究の目的・意義
グローバリゼーションの時代、日本ではとくに東日本大震災という未曾有の災禍を経て、いま改めて、「社会的なるもの」あるいは「国家」の意味と意義が問われている。
日本においては、「近代国家」の概念は、19世紀半ばから世界的に高まったグローバリズムの激しい潮流の中で、欧米で発展した「国家」モデルを範として、構成されたといえる。とはいうものの、それが日本社会に移植されるプロセスには、それ以前から近世日本で構想されてきた「国家」概念(意識)、あるいは、庶民レベルで潜在的もしくは顕在的にイメージされてきた「くに」感覚などの混入があることは当然である。
また、明治以降、欧米的「近代国家」形式の導入後も、それは、導入されたモデルをそのまま適用したわけではなく、当時の社会ヘの適応、また適用後の変容(ナショナライゼーションやローカライゼーション)をともなうものであったこともいうまでもない。
こうした雑種化(ハイブリダイゼーション)は、「近代国家」のグローバル化が、個別国家や個別地域の固有性(ナショナル・アイデンティティ、ローカル・アイデンティティ)の追求、あるいは、「国家」の再構成(ナショナリズム)、「地域」の再編成(ローカリズム)と並行して行われるものであるというパラドックスと、表裏の現象でもあった。
本研究では、このような日本社会の動向を、中国、韓国など近隣アジア諸国の動きと比較しつつ、また当時の来日欧米人の見方を検討しつつ、そのダイナミズムを分析、解明しようとするものである。
本研究は、21世紀グローバリゼーションの中で改めて「国家」を再検討するという現代喫緊の課題を、19世紀グローバリゼーションのプロセスから逆照射し、その本質を捉えることを目的とする。
(2)研究内容・方法
本研究では、上記目的を達成するため、とくに、「国家」を象徴的に表徴する文化的事象を対象に、研究を進めるものとする。その中には、以下のようなサブテーマが含まれる:
a.江戸期から明治・大正期にいたる「国家」思想の変容プロセスを解明する。
b.「近代国家」形成にかかわる音楽教育および音楽運動(民謡運動、童謡運動)に潜在する「国家」意識の多様なベクトルを明らかにする。
c.「近代国家」形成にかかわる文化的アイコン(国歌、国花、国旗など)の形成プロセスを解明し、「創造された伝統」としての国家象徴について検討する。
d.柳田国男、折口信夫、南方熊楠、野口雨情、北原白秋らによる「日本固有性」の追求を再検討する。
e.原胤昭、石井研堂、仮名書魯文ら、文明開化期に活躍した文化人の「国家」意識を検討する。
f.幕末から明治・大正期に日本を訪れた欧米人の視点から見た「日本」の変容を検討する。
g.幕末から明治・大正期における、日本と近隣アジア諸国との文化的交流と、各国における「国家」意識の比較を行う。
これらの研究には、当時の文献、史料を収集し、分析することや、先行研究の検討はもとより、近隣国への実地調査や、現代人の意識調査(質問紙調査)なども行うものとする。