学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A15-4 ベトナム・阮朝アーカイブズに関する基礎的研究(2015-2016年度)

 

構成員
代表研究員 武内房司
研究員 高柳信夫
客員研究員 嶋尾稔 北川香子
(1)研究の目的・意義

ベトナム最後の王朝である阮朝は歴代王朝のなかでもとりわけ効率的な行政組織と記録管理システムを発展させていたことで知られる。とりわけ「硃本」(チャウバン)と呼ばれる上奏文の原本は、その中核をなす記録資料群であり、中国清朝時代の奏摺とならんで東アジアの重要史料の一つをなし、今後の活用が期待されている。「硃本」はベトナム戦争などの影響を受け、その管理及び整理事業の主体は幾多の変遷を辿ったが、今日、第一ベトナム国家アーカイブズセンターにおいて保管ならびに研究が進められている。
本プロジェクトにおいては、上記第一ベトナム国家アーカイブズセンター及び阮朝アーカイブズ研究に多くの蓄積を有するハノイ国家大学人文社会科学院アーカイブズ学・記録管理専攻と交流を深めながら、東アジア記録史料としての阮朝アーカイブズの可能性を、国外残存阮朝アーカイブズや「硃本」以外の地方アーカイブズ、さらにまた、中国や朝鮮の事例を参考にしつつ検討することを目的とする。
これらの作業をつうじて、阮朝時代に発展した記録システムやそれを支えたベトナム官僚制の特質や植民地期におけるその変容過程が明らかになるものと期待される。

(2)研究内容・方法

阮朝は、1802年に成立し1945年8月にバオダイ帝が退位するまで、140年以上の長きにわたって存続し、その間、フランスの植民地体制下におかれつつも、阮朝の文書行政はながく維持された。本プロジェクトにおいては、ベトナム第一アーカイブズセンターに保管されている「硃本」等の史料の意義を明らかにするために、以下の活動を行う。
①ベトナム以外に散在する阮朝漢文行政文書の掘り起こしと「硃本」史料との比較を行う。具体的には、フランスのギメー図書館にまとまって残されている阮朝地方行政文書を取り上げ、地方から中央から地方に至る文書行政の実態を検討する。
②ベトナム第一国家アーカイブズセンター等の研究機関からベトナム研究者を招聘し、阮朝アーカイブズに関するワークショップを開催する。
③ベトナムの第一国家アーカイブズセンター(在ハノイ)、第二国家アーカイブズセンター(在ホーチミン)を訪問し、阮朝期漢文アーカイブズの整理情況や最後の皇帝バオダイ帝に至る歴代皇帝期の基本文書モデル等を調査するとともに、ベトナムの阮朝アーカイブズ専門家との学術交流を行う。

(3)研究の成果

武内房司編『阮朝アーカイブズの世界:ギメ美術館所蔵阮朝地方行政文書を中心に(調査研究報告No.67)』(学習院大学東洋文化研究所、2019年)