学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A16-2 タイの若者に人気の日本の文学作品の潜在的意味の日タイ比較(2016-2017年度)

 

構成員
代表研究員 白田由香利
研究員 久保山哲二
客員研究員 橋本隆子
(1)研究の目的・意義

村上春樹及び江國香織、吉本ばなな、等の小説がタイ語に翻訳され、タイの若者に広く読まれている。こうした文学作品を通して形成される日本のイメージというものを、我々はテキストマイニングによって調査していきたい。
本研究では、タイの若者が読んでいる日本人作家による文学作品に対し、テキストマイニングの手法によりその潜在的意味解析を行なう。一つの作品に対して、タイ語と日本語の二か国語による潜在的意味解析を行ない、その文学作品に含まれている潜在的コンセプトの比較をする。
我々の実験前の仮説としては、日本の人々固有の国民的コンセプトの中には、タイの翻訳本では、表現しきれていないものがあるのではないか、ということである。例えば、現実と幻想の境界が判然としないような幻想性などのコンセプトは、タイの翻訳でどのような表現になっているか興味がある。実際にそうした表現の違いが発見できるかを二か国語のテキストマイニングを通して比較検証してみる。
若者の感想及び意見についても両国の比較を行いたい。そのため、タイと日本の若者の感想、特にこれらの作品の魅力について、両国のSNSの書き込みをマイニングして分析する。
また、我々は、40代以上のタイの壮年世代と現在のタイの若者世代(10代、20代)が読んできた日本文学には違いがあると考える。そこで壮年世代と若者世代が読んできた日本文学の潜在的意味を抽出し、その比較も行なう。例えば、三島由紀夫の「暁の寺」などが、壮年世代の読んだ日本文学ではないかと考える。こうした二か国語による潜在的意味解析比較は初めての試みであり、タイと日本の文学交流を盛んにする一助となると考える。

(2)研究内容・方法

研究のキーとなる点は、(1)人気の日本文学書の適切な選別、及び、(2)タイ語のテキストマイニング技術、である。(1)については、橋本のもつタイのネットワークを用いて、タイの文学者を探し選書を依頼する。(2)については、タイ語のテキストマイニングの権威であるタイ、サンマサート大のSornlertlamvanich先生に協力して頂く。Sornlertlamvanich先生は、京都大学で工学博士号をとっており、日本語が堪能である。そのため、タイ語を日本語に訳することが可能である。
普通、日本語とタイ語に対して行ったテキストマイニングの結果を比較するためには、研究者全員が理解可能な英語に訳して、その英訳によってディスカッションを行う。我々が前回2012年から2013年の東洋文化研究所のプロジェクトで行った方法でも英語を介してディスカッションした。しかし、今回はSornlertlamvanich先生の協力のおかげで、すべて日本語でディスカッションが行えるという利点がある。これにより、文学表現における繊細なニュアンスの違いも討論可能となると考える。

(3)研究の成果

白田由香利、久保山哲二、橋本隆子、Virach Sornlertlamvanich、Anak Agung Putri Ratna、矢野百合子『世界は村上春樹をどう読んでいるか―テキストマイニングによる潜在的意味解析―(調査研究報告No.66)』(学習院大学東洋文化研究所、2018年)