学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A17-2 日本と韓国における人的資源管理の国際比較—収斂・拡散理論の観点から—(2017-2018年度)

 

構成員
代表研究員 鄭有希
研究員 竹内倫和
客員研究員 竹内規彦
(1)研究の目的・意義

本研究では、異文化組織行動論の観点から、日本と韓国両国において、企業が実施する採用・教育・評価・報酬などの人的資源管理(Human Resource Management:以下、HRM)施策が従業員態度・行動に与える影響を比較検討する。
近年、急速なグローバリゼーションの進展により、東アジアの多くの企業がいわゆる「米国モデル」のHRM諸施策を積極的に導入する傾向がみられる(e.g., Zhu et al. 2007)。HRM施策とは、採用・教育・評価・報酬などの企業の諸施策を指すが、その手法は様々である。いわゆる米国モデルには、(個人及び組織の)業績連動型インセンティブ施策や目標管理制度に加え、従業員参加プログラム、職務ベースの育成施策などが含まれる。
しかしながら、これらの施策の導入・実施企業が日本及び韓国の企業において増加する一方、他方でこれらが必ずしも十分な効果を発揮せず導入を取りやめるケースも数多く報告されている。このことは、「国」、「産業」、企業の「戦略」など文脈の違いに関わらず、効果的な普遍モデルヘと各国・企業のHRM施策が同質化していくとする収斂理論(convergence theory)に依拠したHRMの考え方に限界がある点を示唆している。一方で、日本や韓国において、あらゆる米国型のHRM施策が効果的ではないという完全な拡散理論(divergence theory)を支持する研究も少なく、むしろ東アジアの各国企業において米国型HRMのどの部分が有効性が高いか(ないしは低いか)について、個別の施策単位での収斂要素と拡散要素を丁寧に検証する実証研究が不可欠である。

(2)研究内容・方法

先述の通り、本研究では、日本と韓国での人的資源管理(HRM)諸施策について、米国モデルの東アジア地域での適用可能性という観点から、いかなる個別施策が従業員の仕事や組織に対する積極的態度・行動につながるかを比較検討することを目的としている。具体的には、2017年度から2年間にわたり、以下の3つのフェーズを含む研究を実施する計画である。
①文献レビュー及び仮説設定のフェーズ:研究着手の初期段階として、本研究でベンチマークとして採用する米国型HRM施策のリストアップと日本及び韓国での有効性に関する仮説構築のために必要な文献レビューを実施する。本研究で米国型モデルを理論的な「レンズ」として採用する理由は、HRM施策の有効性に関する研究蓄積の豊富さ及び本研究がグローバルな研究貢献を意識していることによる。
本研究が依拠する学術的な専門領域(「戦略的人的資源管理」)は、1990年代以降米国にて萌芽し、急速に発展してきた。したがって、一定の研究蓄積がある米国型のHRMモデルを通じて、東アジア、とりわけ日本と韓国双方の文脈に適合的な個別施策を模索する作業が不可欠である。
②調査実施フェーズ:本研究は実証研究であり、定性・定量の両調査を実施する。本研究の検証で収集すべきデータは、大別すると、(1)企業レベルでのHRM施策の実施度、(2)従業員レベルでのHRM施策の知覚及び従業員態度(組織コミットメント・ワークエンゲイジメントなど)及び行動(プロアクティブ行動、離職行動)である。このうち前者は日本と韓国それぞれの個別企業のヒアリング調査により、また後者は当該企業の従業員を対象とした質問紙調査により収集予定である。なお、いずれも日本、韓国において複数の企業とその従業員を対象とした調査を行う。また、因果関係を明確にするため、(2)については時系列での調査デザイン(3回程度)を採用する。
③分析及び報告フェーズ:分析に際し、HRM施策の実施状況はヒアリングに基づく質的データであるためテキストマイニングを活用した数量化を試みる。さらに、企業レベルの施策が従業員の知覚及び行動に与える影響については、マルチレベル分析により精査を行う。特に、潜在構造方程式モデルを多階層で検証可能なMSEMなどの分析手法を用いる予定である。なお、研究成果は随時、英文で論文化し、米国経営学会などの海外主要学会での成果発表や国際的に評価の高い学術誌に積極的に論文投稿する。

(3)成果報告の計画

(1)2020年3月『東洋文化研究』第22号(掲載予定)
-論文名:「日本と韓国における高業績HRM施策の因子構造―従業員の知覚から」
-概要:本研究では、日本と韓国から収集した調査データを用いて、高業績HRM施策(採用・選抜、配置、教育・研修、評価、報酬、昇進・昇給)の因子構造分析を行い、その結果から、日本と韓国の従業員がどのように高業績HRM施策を知覚しているのかを理論的かつ実証的に検討する。
-執筆者:鄭有希・竹内規彦・竹内倫和

(2)2020年3月『東洋文化研究』第22号(掲載予定)
-論文名:「日本と韓国における高業績HRM施策と従業員態度―比較分析」
-概要:本研究では、日本と韓国における高業績HRM施策と従業員態度との関係について比較分析を行い、その結果について収斂・拡散理論の観点から考察を行う。
-執筆者:鄭有希・竹内規彦・竹内倫和