学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A18-1 戦中・戦後における〈日本〉意識の文化的諸問題とアジア(2018-2019年度)

 

構成員
代表研究員 遠藤薫
研究員 中田喜万
客員研究員 周東美材 木本玲一
(1)研究の目的・意義

戦後の冷戦時代から1990年代の激動の時代を経て、いま世界とアジアは新たな段階に入りつつある。
第二次世界大戦後、自由と民主主義、多民族主義を掲げてきたアメリカは、新自由主義とグローバリゼーションの時代を経て、過剰な格差拡大、移民の大量流入、世界的テロとの闘いを経て、かつての国家アイデンティティを否定するかのような発言をいとわないトランプ大統領を誕生させた。このトランプ大統領に対して、非合理ともいえるチキンゲームを挑んでいるのが、第二次世界大戦によって国家を分断された北朝鮮である。東アジアを舞台に展開される「日本―韓国―アメリカ―北朝鮮―中国」の相互関係は、全世界に対する大きなリスクとして発現している。
こうしたなか、いま改めて「社会的なるもの」あるいは「国家」の意味と意義が問われている。
戦後日本においては、「国家」の概念は、戦前・戦中との断裂を経て、戦勝国であるアメリカの「民主主義」モデルを範として、構成されたといえる。
とはいうものの、それが日本社会に移植されるプロセスには、近世から近代にかけて日本で構想されてきた「民主主義」概念(意識)、あるいは、庶民レベルで潜在的もしくは顕在的にイメージされてきた。それは、導入されたモデルをそのまま適用したわけではなく、戦後社会への適応、また適用後の変容(ナショナライゼーションやローカライゼーション)をともなうものであった。そしてそれは、日本のみならず、アジア諸地域において、国ごとの違いをもちつつ、共通して起こった現象でもあった。
こうした雑種化(ハイブリダイゼーション)は、戦後世界体制の生成と崩壊、1990年代以降の新自由主義およびグローバリゼーションが、個別国家や個別地域の固有性(ナショナル・アイデンティティ、ローカル・アイデンティティ)の追求、あるいは、「国家」の再構成(ナショナリズム)、「地域」の再編成(ローカリズム)と並行して行われるものであるというパラドックスと、表裏の現象でもあった。
このパラドックスは、グローバリゼーションの進行に伴って過激な排外主義・不寛容主義を生み出し、また前近代的社会の特徴とされてきたクローニーキャピタリズム(縁故資本主義)を再生させつつある。
本研究では、このような世界体制の変動の視点ともいうべき「戦後日本」社会の動向を、中国、韓国など近隣アジア諸国の動きと相互比較しつつ、アジア全体におよぶダイナミズムとして分析、解明しようとするものである。
本研究は、第二次世界大戦後の世界体制が二度目の転換期を迎えている状況において、「国家」を再検討するという現代喫緊の課題を、第二次世界大戦後の世界体制形成のプロセスから逆照射し、とくに東アジア地域の相互関係に着目しつつ、その本質を捉えることを目的とする。

(2)研究内容・方法

本研究では、上記目的を達成するため、とくに、「戦後日本」を象徴的に表徴する文化的事象を対象に、研究を進めるものとする。その中には、以下のようなサブテーマが含まれる:
 a. 戦前・戦中・戦後における「日本」イメージの変容を東アジアとの関係性から資料分析する。
 b. 「戦後日本」音楽教育および音楽運動(民謡運動、童謡運動、うたごえ運動)に潜在する「日本」意識の多様なベクトルと、東アジア諸国との関係を、各国の楽曲分析から明らかにする。
 c. 「戦後日本」を象徴する大衆文化的アイコン(映画スター、スポーツ選手など)生成プロセスを解明し、「日本的なるもの」としての国家象徴とアジア諸国との関係を雑誌記事分析から解明する。
 d. 戦後における「沖縄」と「本土」との「アメリカ」を媒介とした緊張関係の推移の中から、第二次世界大戦後の「日本国家―沖縄―アジア」関係に関する社会意識の変化をインタビュー調査および質問紙調査から明らかにする。
 e. 「東京オリンピック」「大阪万国博覧会」などの世界イベントに対する熱中と記憶にみる「日本」意識と、「北京五輪」「上海万博」「平昌五輪」におけるそれとを報道資料から比較分析する。
 f. 戦中・戦後期における、日本と近隣アジア諸国との文化的交流(もしくは文化的遮断)と、各国における「国家」意識の変容を、特に若者文化の交流史を通じて分析する。
これらの研究には、当時の文献、史料を収集し、分析することや、先行研究の検討はもとより、近隣国への実地調査や、現代人の意識調査(質問紙調査)なども行うものとする。