学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A18-2 日本近代漢語表現の形成とアジア漢語圏近代漢語との比較研究(2018年度)

 

構成員
代表研究員 安部清哉
研究員 前田直子
客員研究員 新居田純野
(1)研究の目的・意義

○目的:幕末から近代にかけて新たに発生した日本漢語を、「語基」(熟語の基幹となった漢字部分、例えば「活躍」の「活」や「躍」等)に注目することで、近代に求められた新漢語・和製漢語の特徴を、特に文化的意味的側面から解明することを目的とする。
従来、単語単位だった研究視点と方法を、「語基」単位で見ることによって、時代が必要とした漢字概念およびその文化的特徴をも解明する方法を模索してみたい。新漢語を見ると「活、躍、開、発、進、興、行」等、発展発達進化していく近代文化に相応しい漢字が多く使用されていく等の一定の傾向を見出すことができる。それら新時代を創った漢字語基に注目して行きたい。
併せてその新漢語の初期の用例を、構文と連語論的視点から分析することで、どのような文型や表現の中で受容され浸透してきたかを明らかにし、近代的概念を受け入れていく文型、表現という構文的な特徴も解明してみたい。
また、それらの抽象的新漢語の少なくない数が(活動、開発ほか)、その後中国語にも受容され、現代の中国語の基本語として日本語同様に機能している。さらに、同様の傾向が見られる台湾語・韓国語での受容史も比較調査することで、近代日本新漢語がアジア漢字圏の近代語形成史に及ぼした範囲とその影響を解明する必要がある。
○意義:幕末から近代にかけての日本漢語(和製漢語)の誕生から使用拡大・定着までの研究には既に相当の研究史的蓄積があるが、これまでは単語単位、資料単位での調査が中心であった。「語基」となった漢字1つ1つに注目することはあまり行われてこなかった。文字単位にすることで漢字1字毎の意味的特徴をも考察していくことができ、その文化的傾向をも分析することが出来ることに、方法的独創性と新しい可能性がある。またアジア漢字圏での日本近代新漢語抽象名詞の受容の文化史的側面を解明できる。

(2)研究内容・方法

○従来の研究は、漢語熟語それ自体や資料に着目した研究であったが、本研究では基礎的には、熟語や資料から基礎データを得つつも、分析の単位は漢語熟語の漢字「語基」に着目し、漢字単位で分析する。
○新漢語、和製漢語を生み出した熟語の1つ1つの漢語に注目する。例えば「活躍」の「活」なら、
 活火 活気 活境 活況 活写 活発 活版 活水 活劇 活用 活動
などの新語はその多くが幕末明治から発生し、増加した派生語彙群である。1漢字が流行るとその熟語が、関連して多く派生してくる傾向が顕著に見られ、特に、文化的抽象概念にそれが顕著な傾向である。
○それは特に、経済用語や法律用語、文化芸術用語のジャンルに少なくない。それらを多く収集して、その文化的特徴を解明していく。
○併せてそれらの新漢語を多く使用し掲載する資料や辞書の特徴も解明していきたい。
○上記のような漢語語基は例えば、活のほか、躍動、躍進、勇躍、跳躍などの躍、発展の発達、発表類、発展の展開、展望、展示などであり、活、躍、展、開、ほか、進行の進、行など、近代国家文化の発展、躍進、活動、活発化を象徴するような漢字文字が、特にそのような派生に好まれたという傾向を見出すことができるのもその一例である。そのような漢字1字の文化的傾向があるという仮説を検証していきたい。

(3)成果報告の計画

叢書として『中川重麗著『小学読本 博物学階梯』(明治10年刊)の日本語学的研究』を刊行する予定である。
そのほか、以下の論文を発表予定である(2019年3月刊行を含む)。
伊藤真梨子(2019)「語基『特』を含む漢語の幕末・近代における拡大」『人文』17(学習院大学人文科学研究所)、pp.115~152
伊藤真梨子(2019)「『改正増補 博物学階梯教授本』(1880)の語彙」『国語国文学会誌』62(学習院大学文学部国語国文学会)、pp.38~25(87~100)
伊藤真梨子(20190307)「近代の『特徴』『特長』『特色』語彙の変遷について」第212回青葉ことばの会口頭発表、2019年3月7日(土)、八王子学園都市センター第2セミナー室(東急スクエア12階)
蓮井理恵(2019)「近代漢語『自然物』『天然物』『天産物』『天造物』類の変遷と意味分析」『人文』17(学習院大学人文科学研究所)、pp.153~185
蓮井理恵(予定稿)「近代漢語『人工物』『人造物』の変遷」(仮題)
渡辺陽子(2019)「『生』『活』を造語成分とし共通語基をもつ近代的類義二字漢語――『生計―活計』『生気―活気』等10組――」『学習院大学人文科学論集』28