学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A18-3 日中韓の輸出企業のダイナミクスの比較(2018-2019年度)

 

構成員
代表研究員 乾友彦
研究員 伊藤匡
客員研究員 金榮愨 張紅詠
(1)研究の目的・意義

企業の輸出市場への参入・退出、輸出額の成長の決定要因分析―特に為替レートの変化が与える影響について―を日本、韓国、中国の各企業のデータを使用して比較分析を行う。既存の研究では(例えば、Berman, Martin and Mayer, 2012)、為替レートの効果が企業の規模、産業、生産性により参入・退出、成長に与える効果がそれぞれ異なることが知られている。本研究では、企業の様々な特性(生産性、研究開発、アウトソーシング、海外生産)に加えてInui, Ito and Miyakawa(2017)で検討したような過去の国際市場での経験も考慮に入れながら、為替レートの変化による影響がどのように企業、国によって異なるかを検証する。近年、急速にグローバルサプライチェーンの深化が進展しているなか、為替レートが企業の国際競争力に与える効果、すなわち、為替レートの減価は価格競争力の向上をもたらすと同時に、海外からの調達コストの上昇をもたらす。このプラスとマイナスの効果を同時に評価することが重要であるため、グローバルチェーンの深化が輸出企業のダイナミクスに与える要因を分析する。
国際市場において、日本、韓国、中国の各国企業による国際競争が激化している。特に日本の電気機械産業の国際競争力の落ち込みが顕著である。国連のデータベースを用いて、世界全体の電気機械産業の輸出総額に占める日本のシェアの推移をみると、2000年には12.2%だったが、14年には4.4%まで低下した。一方、シェアを伸ばしているのは韓国と中国で、2000年には両国とも4.7%にすぎなかったが、14年にはそれぞれ5.8%、24.3%となった。本研究では、日本、韓国、中国の輸出企業のダイナミクスを比較することで、日本企業の国際競争力低下の背景についても考察する。
(参考文献)
①Berman, N., Martin, P., and Mayer, T., 2012 "How Do Differrent Exporters React to Exchange Rate Changes?" The Quarterly Journal of Economics, 127 (1):437-492.
②Inui, T., Ito, K., and Miyakawa, D., 2017 "Export Experience, Product Differentiation and Firm Survival in Export Markets" The Japanese Economic Review 68 (2):217-231.

(2)研究内容・方法

日本、韓国、中国の企業レベルのデータを使用して、輸出企業の参入、退出、輸出額の成長の要因を分析する。3ヵ国とも企業レベルの輸出に関連する詳細なデータが必要なため、日本は経済産業省による「企業活動基本調査」、韓国は韓国統計庁による「企業活動基本調査」、中国は中国国家統計局による「工業統計」を使用する。それぞれの統計は政府の公式統計であるため各国政府に対してデータ申請を行う。日本の「企業活動基本調査」は乾が、韓国の「企業活動基本調査」は金(客員研究員)が、中国の「工業統計」は張(客員研究員)がそれぞれ申請手続きを行う。ただし、韓国は西江大学Jung hur教授(研究協力者)、中国は北京師範大学Mi Dai准教授(研究協力者)が共同の申請者となる。
3ヵ国とも企業レベルのパネルデータを作成し、推計式の被説明変数として企業の輸出市場への参入、退出および輸出金額を採用する。被説明変数は3ヵ国で出来るだけ共通な変数を採用する。企業の輸出競争力の源泉となるのは、研究開発やマーケティングを通じた製品の差別化、海外からの中間投入の調達によるコスト競争力であることが既存研究から知られているため、各国企業の推計式に、研究開発、海外市場での経験、周辺企業からの情報等のスピルオーバー効果、中間投入の調達の割合、海外との分業体制に関連する変数を説明変数として加える。