学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A19-1 帝国議会の制度遺産と韓国・台湾から見た日本の国会(2019-2020年度)

 

構成員
代表研究員 野中尚人
研究員 磯崎典世
客員研究員 坂本一登 林成蔚
(1)研究の目的・意義

本研究は、戦後日本の国会がなぜ特異なパターンを持つようになったかについて、そのルーツである戦前の帝国議会の分析を行うとともに、戦前日本の制度から影響をうけた韓国や台湾において、戦後の議会がどのような発展パターンをたどったかを、併せて比較検討しながら考察することを目指す。
研究の申請代表者である野中は、これまで数次にわたって日本の国会に関わる研究プロジェクトに関わってきた。2009年から2012年までは「21世紀型統治システムへの転換」(基盤研究A-21243009)、2014年から2018年までは「日本の議院内閣制統治の構造」(基盤研究A-26245017)である。そうした、統治システム全体としての特質を議論する中で、国会の役割やその特異性という問題が極めて重要であると考えるようになった。
ここ10年ほどの研究の結果、国会審議での様々な変則性が明らかになってきた。ヨーロッパでの議会・議院内閣制の運用とは相当に異なるパターンである。本会議の極端な形骸化や委員会システムの本会議代替、討論の消滅などであるが、その裏側には与党事前審査制度による影響がある。そして、これらの背景の一つに、戦前の帝国議会からの制度遺産の問題がある。それらを総合的に検討するのが本研究の基本的な目的であり、その際、戦前の日本の議会システムが韓国や台湾においてどのように継承され進化したのかというパターンと比較することによって、一層議論の幅を広げることが出来ると考える。

(2)研究内容・方法

全体としての研究目標は、戦後の日本の国会につながる帝国議会の制度遺産について、それを多角的に検討することである。方法論としては、3つのポイントがある。1つ目は、帝国議会の成立からその制度的展開を跡付けることであるが、その際、現在の比較議会論で論じられている論点を十分に参照しつつ、一定の比較理論的な発想の下に整理し直すことを行う。その時の1つの焦点は、戦後国会の最大の特質の1つである「交渉による合意・決定のしくみ」がどのようにして形成されたのか、その実態はどのようなものであったのか、またそれを比較理論的にどのように評価するのか、という点である。
第2のポイントは、帝国議会に関わるデータを出来る限り数量的に把握し、それを分析することによって実証的な比較研究へ糸口を見つけることである。これは現時点では実験的な段階であるが、テキスト解析の技術は急速に進みつつあるので、政治学研究におけるそうした新しい方法論とテクニックを導入することを試みる。
第3のポイントは、戦前に日本の植民地統治を受けた韓国と台湾において、戦後、議会・国会がどのように展開・発展したのか、というパターンを検討に加えることである。これら2つの国は、日本統治の後、権威主義的な政治体制から民主化へと進んでいくが、こうしたことが議会のあり方にどう影響したのか、逆に日本が残した経験や制度遺産がどのような影響を与えたのかを検討する。こうした検討は、旧宗主国のもたらした制度遺産の影響という観点から、比較政治的研究の1つの重要な問題設定となる。日本の独自性を考察する上で貴重な比較参照の事例を提供することになると考えられる。
従って、本研究は、研究対象としても、また方法論的にも幅のある形を特徴としている。それが逆に、これまでの議論で見落とされがちだった新しい知見の発見につながることを期待している。日本の国会はなぜ特殊なパターンのものへと制度化されていったのか、それを戦前からの継承の問題、そして比較の視点から考察を進めたい。さらにはデータ実証的な政治分析の可能性を、政治史研究の領域で試みるということにも学術的な価値があると考える。