学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A19-2 インドネシアの家族・地域社会に対する意識動向の州間格差の長期的な分析(2019-2020年度)

 

構成員
代表研究員 白田由香利
研究員 久保山哲二
客員研究員 橋本隆子 山口健二 佐倉環
(1)研究の目的・意義

日本は資源小国であり資源供給国としてインドネシアは重要国である。2014年のデータでは、液化天然ガス19.9%、原油14.1%、石炭12.4%をインドネシアから輸入している。また、資源は価格が安いため船舶で輸送するしかなく、インドネシアは日本にとって最重要海上交通路上にあると言える。しかし、インドネシアは多数の島から構成され文化的にも州ごとの多様性が深いため、日本人はその国民性に対して知識が乏しいことも確かである。日本にとって非常に重要な国インドネシアの家族・地域社会にに対する意識動向の州間格差を分析することは、インドネシアを知る上で非常に有意義と考える。インドネシアはD.K.I.JakartaやYogyakartaのような都市部と、Papuaなどの農村部の間でGDP及び生活習慣などの格差が大きい。本研究の分析対象は、GDPや識字率などの経済学的なデータではなく、主にインドネシアの家族・地域社会に対する意識動向を探究していきたい。こうした意識調査は国勢調査項目にはなく分析の手段がないことが多いという課題があった。代表者白田は、2018年9月からインドネシア国立大学経済学部人口問題研究所(Lembaga Demografi)に半年間所属し人口問題に関するデータ分析を行うが、2018年8月の訪問の際に、Indonesia Family Life Survey[1](以下IFLSと略す)の存在と、そのデータが膨大である割には分析が進んでいないことを研究員のかたから教えて頂いた。
IFLSデータの特徴は、(1)長期に渡る追跡調査を行っていること(1993年から2015年にかけて5回の調査)、(2)個人の感情に関する質問項目があること、である。IFLSは主要13州に住む30,000人以上の人のデータを調査している。IFLS#1は、Lembaga Demografiと協力してRAND(国の依頼で調査を行う調査会社)によって1993/94年に実施、IFLS#2とIFLS#2+は、それぞれ1997年と1998年にUCLAとLembaga Demografiと協力してRANDによって実施された。IFLS#3は、Gadjah Mada大学の人口研究センターと協力してRANDによって実施された。上記(2)の特長を示す論文例として、Lembaga Demografi現所長であるDr.Turroによる[2]がある:ここでTurroはIFLSデータ分析から「インドネシアのジャワのイスラム教徒の間では長男が親の財産を中心的に受け継ぐ、特別な地位を占めるという影響を示した[2]。
このように信頼性の高い貴重なデータである割に分析が進んでいない理由としては、インドネシアの専門家と共同研究しない限り、州の事情は理解しがたい点があるからと推測する。本研究では、白田のLembaga Demografiの以下の研究員の方々とのコネクション及び、橋本のインドネシア国立大学のIEEE Women in Engineering組織との協力関係などを駆使し、インドネシア研究者と共同研究を行う:Director:Turro Selrits Wongkaren, Ph.D., Associate Director:I Dewa Gede Karma Wisana, Ph.D., Diahhadi Setyonaluri, Ph.D., and Diana Stojanovic, Ph.D.
[1]Rand, "Indonesia Family Life Survey" https://www.rand.org/labor/FLS/IFLS.html#section-navigation
[2]Worgkaren, T.S. (2012). "Cultural model as an alternative approach to analyze familial transfers", Doctoral dissertation, University of Hawaii at Manoa, December 2012.

(2)研究内容・方法

以下の4フェーズを繰り返し行ない、州間の格差を探求する。(1)データ項目の選択、(2)データ分析と結果の可視化、(3)分析結果の評価と解釈、(4)過去のIFLSで同じ分析を行い、時系列変化を探る。適宜、学会で発表を行う。データ分析手法としては、機械学習を使う。現時点では最も精度に関して高い評価を受けているGBDT(Gradient boosted decision tree)タイプのアルゴリズムを使う予定である。GBDTでは、複数の予測変数からひとつの応答変数を教師ありの学習としてモデルを作成する。例えば、「自分が幸福と思えるか」を応答変数とし、予測変数を収入、家の広さ、水道施設、トイレの形態、結婚の状況などとして入力する。出力として、予測変数ごとの応答変数への相対的重要度が算出できる。これにより何が決め手となる要因であるのか分かる。また、変数間の依存性や、州ごとの格差なども計算する。それを例えば、図のように地図上に可視化する。
データ項目の選択は、日本チーム(久保山以外)で行う。データ分析は白田と佐倉、山口が行う。可視化は白田と山口がMathematicaで行う。分析結果の評価は、始め日本側で行い、次はインドネシアチームで行う。インドネシアチームとの共同作業は、白田・橋本がLembaga Demografiに行く、及び、Dr.Diahhadi SetyonaluriとDr.Diana Stojanovicを目白に招聘する。久保山には機械学習などの最新アルゴリズム及び分析システム環境構築についての助言を頂く。発表場所は、Lembaga Demografiでのセミナーなどや、他のインドネシア研究者からの意見を得るためインドネシアで開かれる国際会議とする。