学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A20-1 民間アーカイブズより見た近現代日本・ベトナム関係(2020-2021年度)

 

構成員
代表研究員 武内房司
研究員 千葉功
客員研究員 宮沢千尋 湯山英子
(1)研究の目的・意義

 本研究は,近現代の日本とベトナムとの関係及びそうした関係を反映しつつ今日に残された多くの関連文書,とりわけ民間アーカイブズに着目し,近現代の日本・ベトナム関係の歴史に新たな光を当てようとするものである。これまで,近現代の日本・ベトナム関係においては,外交史料や文書館所蔵史料の調査をつうじて,多くの成果が現れている。しかし,こうした公文書を中心とした歴史記録以外になお多くの民間史料が残されていることに注目する必要があるように思われる。とくにアーカイブズの整備がなお十分ではない我が国においては,日本とアジアに関する歴史記録が民間に埋もれている場合が少なくない。そこで,本プロジェクトにおいては,歴史学・ベトナム地域研究など各専門家をまじえた学際的共同研究を組織し,外交史料をはじめとする公文書史料の欠を補う可能性をもった民間アーカイブズを積極的に掘り起こし,日本・アジア間交流史とくに日本・ベトナム間関係史の解明の一助とすることをめざしたいと考える。
民間記録はともすれば散逸の可能性がたかく,その発掘と整理は喫緊の課題でもある。価値ある民間記録の整理とその刊行は,日本のベトナム研究者のみならず,ベトナムやフランス・アメリカのベトナム学研究者にとっても有益であり,広義のアジア学にも大きく貢献できるものと期待される。

(2)研究内容・方法

主として以下の作業をつうじて,上記課題に接近したいと考える。
1)近現代日本・ベトナム関係にかかわる重要史料として,学習院大学東洋文化研究所に寄託されている西川捨三郎コレクションに注目し,その整理と調査を実施する。本プロジェクトでは,寄託資料とは別に,近年新たに発掘された,西川捨三郎氏の戦時期の日記の整理と注釈作業をメインの作業として設定し,何らかの形で刊行することを目指したいと考える。戦時期西川日記は,日本・インドシナ関係やベトナムの民族運動に関する克明な記述が含み,氏の残した膨大な日記資料のなかでもその史料的価値からみて白眉ともいえるものである。日記史料はプライバシー等の面で扱いが難しい資料ではあるが,幸に,すでにご遺族より翻刻と註解,その出版への許諾を得ることができた。
2)西川戦時期日記に対する注釈作業を行うにあたっては国内外の公文書館やアーカイブズにおける資料調査が必要となる。近年,ベトナムのアーカイブズセンターにおいても資料の公開が進み,本格的な調査研究が可能となっている。本プロジェクトにおいても戦時期を中心に,ハノイとホーチミンにある文書館を訪問・調査し,関連資料にあたり,その成果を注釈作業に積極的に生かしていきたいと考える。
3)戦時期日本・ベトナム関係民間アーカイブズの調査と再評価をめざす。西川捨三郎氏が所属した大南公司以外にも,インドシナと関わりをもった企業は少ないが,現在そのトータルな把握は十分になされていない。こうした企業資料もまた,民間資料として重要であり,ベトナムの歴史研究者やアーキビストと連携し,企業資料をはじめ幅広く民間アーカイブズの発掘につとめていきたいと思う。ベトナム国家第1・第2アーカイブズセンターや,台湾・国史館に所蔵されている企業関係資料はそうした資料発掘への糸口となるものと期待される。