学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A20-2 日本近代漢語表現の形成と明治期教科書資料の日本語(2020-2021年度)

 

構成員
代表研究員 前田直子
研究員 安部清哉
客員研究員 蓮井理恵 伊藤真梨子
(1)研究の目的・意義

●目的:幕末から近代にかけて新たに発生した日本漢語(新漢語)を,「語基」(基幹となる漢字部分,例えば「特色」の「特」や「色」等)に注目し,近代に求められた新漢語・和製漢語の拡大を通時的に解明しつつ,併せてそれに影響した近代教科書資料の日本語の変遷を調査することを目的とする。
 従来,単語単位だった研究視点と方法を,「語基」単位で見ることによって,時代が必要とした漢字概念およびその文化的特徴をも解明する方法を模索してみたい。新漢語を見ると「式,電,線,発,進,議,論」等,発展発達進化していく近代文化に相応しい漢字が多く使用されていく等の一定の傾向を見ことができる。それら新時代を創った漢字語基に注目して行きたい。
 併せてその新漢語の初期の用例を,構文と連語論的視点から分析することで,どのような文型や表現の中で受容されたかを明らかにし,近代的概念を受け入れていく構文的な特徴も解明したい。
 本PJでは上記に加えて,新たに近代科学教科書資料を資料として,その中の漢語の使用法を調査する。
中川重麗著の一連の「小学読本 博物学階梯」の教科書文・語彙集(字引・字解)・教授本(計6冊)を当面の対象にその漢語調査を行う。
●意義:幕末から近代にかけての日本漢語(和製漢語や翻訳漢語)の誕生から使用拡大・定着までの研究には既に相当の研究史的蓄積があるが,従来単語単位での調査であった。「語基」となった漢字に注目する研究は行われてこなかった。近代教科書の漢語も断片的利用に留まり索引や全体的調査も進んでいなかった。

(2)研究内容・方法

(ア)従来の研究が,漢語熟語それ自体や資料に着目した研究であった。本研究では基礎的には,熟語や資料から基礎データを得るが,分析の単位は漢語熟語の漢字「語基」に着目し,漢字単位で分析する。
(イ)資料研究として,近代教科書の1つ中川重麗著「小学読本博物学階梯」(計6冊)の語彙的調査を行う。
(ア)について。
 〇個々の語基についてその熟語一覧を作成する。
 〇同一語基の個々の熟語について用例の初出年によって,語基熟語年表を作成し変遷を把握する。
 〇語基の意味的分類と史的変遷について『日本国語大辞典』の語基記述(字音語素覧)を修正する。具体的には意味分類を見直し,熟語用例も初出年によって配列しなおす。
 〇個々の新漢語に関して,語基の意味変化後の漢語を選別し,その個々の語史を調査する。
(イ)について。「博物学階梯」後掲のBCDEF)について順次以下の作業を進める。
 〇本文の翻刻を行う。
 〇漢語を中心とした語彙リストを作成する。
 〇語彙リストをもとに漢語索引を作成する。
 〇個々の新漢語の類義語を収集する。
〇熟語について,歴史的に入れ替わっている語彙については類義語とも合わせた一覧を作成する。
 〇AB,DFについては順次可能な範囲で本文翻刻,索引,語彙分析,資料考察を付して刊行を目指す。
 (その他)
 〇「常用漢字表」の漢字について「語基」用法の意味記述と年代順用例付きでの史的辞書記述を行う。
 〇『吾輩は猫である』における1800年以降初出の新漢語および1850年以降の新漢語一覧を作成する。