学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A20-5 日本とマレーシアの教育現場における熱中症に関する学校文化(2020年度)

 

構成員
代表研究員 山﨑泉
研究員 乾友彦
客員研究員 原口正彦 Rudzidatul AkmanDziyauddin Siti Haida Hamdan 豊田知世
(1)研究の目的・意義

本研究の目的は,日本とマレーシアの教育現場において生徒や教員の熱中症に対する意識や行動,生徒の熱中症の影響を調査し,日本とマレーシアの「熱中症に関する学校文化」を比較することである。熱中症は日本・マレー シア共にこの数十年間で増加しており、深刻な健康被害をもたらしている。しかし熱中症は日本,マレーシアでは洪水や地震よりも軽視されている。これは熱中症が目に見えず,その影響を自覚するのに時間がかかるためである。熱中症は世界的気候変動によって,都市部のヒートアイランド現象と同じように増加していくと予想されている。世界保健機関(2014)はアジア太平洋,中央,東アジアにおける気候変動によって引き起こされる死亡事故の理由の最も大きな原因は熱に関連すると推測している。また子どもは熱中症の被害を最も受けやすい年齢層の一つである。しかし,マレーシアには,労働者以外を対象とした学校の熱中症対策の適切なガイドラインが存在しない。さらに,学校での災害対策のカリキュラムは統一されていない。また,日本にはいくつかガイドラインが存在するものの,その実施にはいまだ課題が残されている。日本では学校の熱中症の多くが体育・スポーツ活動中に発生している。それに加え,運動部活動以外の部活動や,屋内の授業中にも発生している(文部科学省,n.d.)。一方で,日本の学校現場では必要以上に我慢や忍耐が重視される文化が依然存在し,エアコンの導入ができなかったり(親野,2018),水分摂取が適切に行えず深刻な被害を引き起こしたりしている(朝日新聞,2018年7月19日)。マレーシアでもまだ熱中症に対する意識が全般的に低く熱中症の被害が出ている(Ministry of Health, Malaysia, n.d.)とのことで,これらを踏まえ,日本とマレーシアの熱中症に関わる学校文化を調査し比較したい。

(2)研究内容・方法

本研究プロジェクトは日本とマレーシアの都市の中学校(Secondary School)を対象に実施される。日本では兵庫県尼崎市の中学校を対象に,マレーシアではクアラルンプールのSecondary Schoolを対象に実施される。
 フェーズ1では日本とマレーシアの熱中症に関する学校文化,熱中症の生徒への健康への影響等に関する先行文献研究を実施する。
 フェーズ2では,先行文献研究を基に,熱中症に関する学校文化,熱中症の生徒への影響に関して生徒と教員に対する質問票を作成し,日本の中学校とマレーシアのSecondarySchoolの生徒と教員の熱中症に関する認識や行動(文化),熱中症の知識や経験を調査する。調査対象は日本とマレーシア合わせて約200~400人である。また調査を基に生徒のtheHeat Strain Score Index( HSSI)も計算する。HSSIはどの程度熱中症の危険にさらされているか示した指数である(Dehghan et al.,2013)。フェーズ2での調査を基に,生徒や教員の熱中症に対する認識や行動(学校文化)を統計的に分析する。単純統計の集計と共に,生徒や教員の熱中症に対する認識や行動(学校文化)等を説明変数とし,HSSIを被説明変数とした重回帰分析を実施し,熱中症に関する学校文化がどのように生徒の行動やHSSIに影響しているかを分析する。
 フェーズ3では分析結果を,調査対象校と共有し,さらに教育関係等の学会で発表する。また東洋文化研究所で「調査研究報告」を刊行し研究成果を広く発信したい。