学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A22-1 一帯一路の中国と西 (2022年度)

 

構成員
代表研究員 江藤名保子
研究員 村主道美
客員研究員 中居良文 稲垣文昭
(1)研究の目的・意義

本プロジェクトは、過去の東文研で実施されたプロジェクト「台頭中国の国際関係」「中国の韓半島政策」「中国の南向政策」に続く,中国とその西方についての研究調査であり,中国の「一帯一路」という巨大国家事業の根幹部分を扱う。
ここではその「西方」の意味を,意図的な曖昧さを含め,三重の意味で用いたい。 
ひとつは,国家としての中国に隣接する中央アジア地域である。第二は,さらにその先にあるロシア中心部,東欧,西欧,である。第三は,中国の一部でありながら,固有のIdentityを持ち,深刻な民族問題を抱える中国国内の新疆,チベット地域である。 
核心的な問題意識は,(1)中央アジア諸国は,一帯一路をどのような意味で歓迎し,どのような意味で警戒しているか。(2)中央アジア諸国の中でも,タリバンのアフガニスタンと中国とは,どのような関係になるだろうか。(3)中央アジアがロシアに近接した地域であることは,一帯一路政策にどのような影響を与えるか。(4)中央アジアの諸国は,国家として関係する中国の中心部と,文化的,宗教的に近い中国の西域との間で,どのような立ち位置を取ろうとしているか。(5)ロシアは中国の西方への影響力の拡大を,どのように自身の利害に関わると計算しているか。(6)西欧とロシアの中間地帯にある東欧において,中国はどのように役割を果たしつつあるか。(7)上記に対して、米中対立はどう影響するか。
など多岐にわたるが、根幹的共通は,①中国の経済的・政治的利益の遠方での追求が,その遠方においてどの程度受け入れられているか,という問題がある。例えば,モンテネグロなどのように,中国の支援による公共事業によりいわゆるdebt trapに陥り始めている国家がある。例えばリトアニアのように,期待したほどのメリットが,中国との協力関係から得られていないと考える国家もある。一方で経済発展のためには中国との協力関係が有用であることを知りつつ,他方で,それによって中国人人口が増え,一種の「黄禍」の認識も起こりうる。
そして②この西方への拡大が,中国自体の民族圏,文化圏としての意味をどう変えてゆくかである。より頻繁な人と物の従来,資源の開発,異民族の移住等により,これらの地域の住民の意識がどう将来の中国に影響を与えるか。「中国」というものが、国家であるとともに,ビッグバンで始まったひとつの宇宙であると考えると,その範囲の将来における膨張とその次に来る縮小について,現在何が言えるかを考えることは価値がある。このように問題は政治と社会,開発とIdentity,地域とグローバリズムに関わる。

(2)研究内容・方法

1 現地調査――訪問先は①中央アジア(カザフスタン,タジキスタン,ウズベキスタン等)と②中国西部(新彊,チベット)③東欧(セルビア,モンテネグロ等)を予定している。現地において,わが国の在外機関,現地の研究所,大学,研究者,経済機構,対外貿易担当部署等での聞き取り調査を実施する。英語,中国語では通訳・翻訳作業補助を原則つけないが,中央アジアで現地語の通訳は必要となる。
2 上記の研究趣旨に沿ったケースライティング及びケースアナリシスを行う。ここでは,ケースライティングとは,上記の趣旨に関連する事例を選び,そこに発生する政治学的,経済学的,社会学的な問題点が浮き彫りになるような,諸アクターの政策および状況の変化を叙述することである。ここでは,ケースアナリシスとは,この叙述に基づき,傾向,共通項等があるかを分析することである。
3 問題自身が巨大であり,体系的な縮め方を拒んでいると思われるので,むしろ「真理は細部に宿る」ことを信じ,細部についての資料を収集して一貫性を持った議論をすることで,全体に迫ろうとする。 
本研究のチームのメンバーは,中国研究者(江藤,中居)と中央アジア研究者(稲垣―特にタジキスタンについて経験が豊富である)と国際関係研究者(村主)と分類できるが,それぞれの地域あるいは問題関心に沿い研究を進め,お互いの問題関心および全体像と細部との間の関連性についてコミュニケーションを取る。2024年度に,「東洋文化研究」に二編以上の論文を発表する。