学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A22-2 現代日本における<国家意識>とアジアの諸問題―二つの東京オリンピックの間で(2022年度)

 

構成員
代表研究員 遠藤薫
研究員 中田喜万
客員研究員 木本玲一 周東美材
(1)研究の目的・意義

2020年東京オリンピックの最初のスタートは,当時の石原都知事の発案だった。しかし,当初の2016年開発案は,2009年10月のROE総会でリオデジャネイロに大差で敗退した。しかし、2011年6月,石原元都知事は改めて2020年五輪への立候補を表明し,「東日本大震災からの復興を世界に示す」と宣言した。
それは1964年の東京オリンピックが,「戦後復興」を世界に示そうとしたことを,ある意味リトライするコンセプトだった。
だが,1964年東京オリンピックが,1954年から始まる高度経済成長の途上で,まさしく「戦後復興」を示威するものであったのに対して,2020年東京オリンピックは,1990年代から始まった「失われた30年」のさらなる延長線上で開催された。東日本大震災からの「復興」という意味づけは途中で曖昧になり,2020年に始まったコロナ禍で1年延期されて開催されたオリ・パラは,「コロナに対する勝利」と改訂された目標とはほど遠い「緊急事態宣言」下で開催されたのだった。
この二つに東京オリンピックに挟まれた期間,日本社会もアジア社会も,グローバル社会も,大きく変化した。本研究では、このような日本,中国,韓国など東アジア諸国の相互関係のダイナミズムを,<国家意識>,社会構造,価値観,サブカルチャー,メディアなどから多面的に分析,解明しようとするものである。
またそれは、本研究チームが東洋文化研究所の研究プロジェクトとして遂行してきた『近代日本の<国家意識>形成とアジアの諸問題』(2019年刊行,勁草書房),『戦間・戦後期日本の<国家意識>とアジア』(2021年刊行予定,勁草書房)を,いままさにここにある現代と接続し,未来を展望することを目標とするものである。

(2)研究内容・方法

本研究では,上記目的を達成するため,「国家」を象徴的に表徴する社会的イベントとしての「オリンピック」,とくに「東京オリンピック」を対象に,研究を進めるものとする。その中には,以下のようなサプテーマが含まれる:
a.前史としての1940年東京オリンピック(と1940年日本万国博覧会)――「アジア初」の呪縛
b.1964年・2020年東京オリンピックと「国威発揚」――成長と衰退
c.1964年・2020年東京オリンピックに関わる文化的なアイコン(国家,国花,国旗など)を比較検討し,「創造された伝統」としての国家象徴の変容について考察する。
d.1964年・2020年東京オリンピックの間に生じた,経済・社会・文化変容
e.1940年・2020年東京オリンピックと災禍からの「復興」
f.1964年・2020年東京オリンピックと1970年・2025年大阪万博
g.日本と近隣アジア諸国との文化的交流の諸相――サプカルチャーはソフトパワーとなるのか
h.日本と近隣アジア諸国の各国における「国家」意識の相互性とナショナリズム
i.アジア諸国と「オリンピック」の今後これらの研究には,当時の文献,資料を収集し,分析することや,先行研究の検討はもとより,近隣国への実地調査や,現代人の意識調査(質問紙調査)なども行うものとする。