学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A25-1 東アジアのプラットフォーム労働(2025-26年度)

 

構成員
代表研究員 橋本陽子
研究員 大久保直樹
客員研究員 楊林凱 李鋌 王能君
(1)2025年度研究活動の概要

2025年度は、中国と韓国のプラットフォーム労働の法規制について検討を行った。2025年8月26~31日には中国調査を、同年12月23~25日には韓国調査を実施した。 ①中国のプラットフォーム労働  中国では、プラットフォーム労働の発展が著しく、例えば、フードデリバリーの配達員は500万人を超えるとされ、その3分の1が本業であるという。プラットフォーム就労者は、自営と扱われていることが多く、労働法・社会保障法の適用を求めて、労働者性を争う訴訟が世界中で多発しているが、中国では、労働者性の判断基準について、2023年4月24日、2024年12月20日および2025年4月30日と相次いで3つの最高人民法院の司法解釈が出され、基準の明確化が図られている(このうち、2023年4月24日の通知は、人力社会保障部と最高人民法院の連名で発出されている。中国では、労働事件はすべて仲裁前置手続に服しており、同通知は仲裁の裁定から重要なケースを典型事例として紹介したものである)。2024年12月20日の通知では、労働者性の判断基準である人格的従属性、経済的従属性および組織的従属性と並んで、「支配性労働管理」という概念が明記された。これは、アルゴリズムの管理による拘束性を意味し、かかる「支配性労働管理」からプラットフォーム就労者の労働者性が認められることが明らかにされた。 また、プラットフォーム就労者の労災補償を認めるための「職業障害保障制度」が導入され、順次、その適用される地域が拡大されている。同保障制度では、配送1件につき保険料が算出され、かかる保険料をプラットフォーム企業が負担する仕組みになっている。  さらに、プラットフォーム就労者の労働者性と並び、アルゴリズムの透明性確保も重要な課題であるが、2023年11月8日の「新たな雇用形態における労働者の休息および労働報酬権の保護に関するガイドライン」(人社発〔2023〕50号)において、プラットフォーム企業には、仕事の配分のルール、報酬の決定要因等のアルゴリズムを開示する義務が課されている。同ガイドラインでは、プラットフォーム就労者の工会加入も要請されている。 今回の調査では、これらの法規制について、研究者・弁護士らへのヒアリングおよび華東師範大学でのセミナーを通じて、実際の運用状況についてヒアリングを行い、また最新の理論動向を知ることができた。また、フードデリバリーの三大プラットフォーマー、「美团」、「京东」および「饿了么」の一つである「饿了么」を訪問することができ、配達員の労働条件と就業環境の整備がどのように進められているのかについて知ることができた。 ②韓国のプラットフォーム労働  韓国の労働法は、日本の労働法とよく似ており、労働者および使用者の定義も、ほぼ日本と同様に解されており、日本との比較法研究の対象国として最適であるといえる。韓国でも、中国と同様に、プラットフォーム労働の分野において、次々と重要な判例が出るなど、韓国におけるプラットフォーム労働の発展を反映して、日本よりも法的状況が進んでいる。すでにプラットフォームの労働者性を認める最上級審の判決が出されており、大法院2024年7月25日判決では、「タダ」のライドシェアのドライバーの勤労基準法上の労働者性が肯定された。本件では、「タダ」の子会社であるVCNC、さらに協力会社が「タダ」のライドシェアの運営に関わっていたが、本判決では、「タダ」が使用者であることも認められた点でも画期的である。さらに、大法院2024年9月27日判決では、代行運転手の労組法上の労働者性も肯定された。  立法面では、プラットフォーム労働者に限定されず、すべてのフリーランスを雇用保険の強制被保険者に含める法改正がコロナ禍後に進められ、特殊雇用形態労働従事者の雇用保険加入率は79.8%にまで増加した。特殊雇用形労働従事者(「特雇」)とは、労働者に近い自営業者を指す韓国独自の雇用形態であり、労災保険の適用が認められている。特雇の具体的な職種は、大統領令で定められており、保険設計士、クレジットカード会員募集員、学習誌教師、宅配運転手、浄水器設置技師、クイックサービス運転手(バイク便ライダー)などである。かかる特雇は、いわゆる「第3カテゴリー」(労働者と自営業者の中間に位置し、一部の労働法規が適用される)に当たると考えられるが、特雇のなかには勤労基準法上の労働者性が判例によって認められた業種もあるという(浄水器設置技師について、大法院2021年11月11日判決、クイックサービス運転手について、大法院2004年3月12日判決)。一般に、「第3カテゴリー」を有する国では(例えば、ドイツ)、「第3カテゴリー」に属する職業類型については、もはや労働者性は否定され、保護の水準が通常の労働者よりも劣ったまま固定化される傾向が認められるが、韓国法の動向はこれとは異なるといえ、更なる検討を行う必要があると考えている。  さらに、韓国では、以前からフリーランスを保護するための様々な議員立法の法案が提出されていたが(「働く人の基本法」案と総称されている)、現政権下では、労働者性の推定規定の導入に向けた検討が進められているという。今後の動向に注目したい。  韓国調査では、韓国のプラットフォーム企業およびプラットフォーム労働者を組織している労働組合である韓国サービス連盟のヒアリングを行うことができ、韓国におけるプラットフォーム労働の現状と課題について有益な情報を得ることができた。とくに特雇の多くが労働組合に加入しており、団体交渉も実施されている点は参考になった。  

(2)2026年度活動計画

2026年度は、8月に台湾調査を行い、10月の日本労働法学会では、「東アジアのプラットフォーム労働」というテーマで、本プロジェクトのメンバーでワークショップを開催する予定である。 台湾では、台湾最高行政裁判所2023年3月25日判決(110年度上字488號)において、フードデリバリー配達員の勤労基準法上の労働者性が肯定された。しかし、現在「配達員の権利保障およびプラットフォーム企業の管理のための法律」(外送員権益保障及外送平台管理法)案が国会で審議されているが、同法の内容は、アメリカのProposition22というプラットフォームを介した配送運転手に適用される法律とよく似ている。Proposition22は、アメリカでカリフォルニア最高裁が、2018年のDynamex事件(416F.3d1[Cal2018])においてABCテストと呼ばれる緩やかな労働者性の判断基準を明らかにして、宅配運転手の労働者性を認めたことを受けて、ABCテストを明文化した、2019年のカリフォルニア州の州法AB5の適用を、プラットフォームを介した配送運転手については除外するために制定された法律であり、同法では、配送運転手が自営業者であることを前提として、1日の最長就労時間および最低報酬の規制が定められている。同法は、「第3カテゴリー」を志向する立法であるといえるが、かかるアメリカの立法と類似した法律が制定されることにより、台湾では、配送員の労働者性が否定され、「第3カテゴリー」に位置づけられることになるのかが注目される。 台湾調査では、台湾の現状の把握を行い、10月の日本労働法学会(日時未定、同志社大学で開催予定)では、これまでの研究成果を報告することにより、本プロジェクトの最終的な成果のとりまとめに向けた課題を明らかにしたい。