一般研究プロジェクト
A25-2 ギメ美術館所蔵地方行政文書より見た阮朝期ベトナム南部社会に関する基礎的研究
| 構成員 | |
|---|---|
| 代表研究員 | 武内房司 |
| 研究員 | 保坂裕興 |
| 客員研究員 | 嶋尾稔 |
(1)2025年度研究活動の概要
2025年度、本プロジェクトは主に以下の3点を中心に進めた。 1)フランスのギメ美術館所蔵行政文書アーカイブズ(以下、ギメ文書と略称)の講読会をZoomを用いたオンライン形式で実施した。今年度は、村落レベルから上級機関に提出された「察」形式の文書を中心に読み進め、地方レベルにおける文書処理システムについての知見を深めることができた。 2)ベトナムにおいて阮朝アーカイブズの調査を実施した。2025年8月末、約1週間の日程で、武内(学習院大学)並びに吉川和希(関西大学)の両名はホーチミン市にあるベトナム国家第2アーカイブズセンターに所蔵されている旧コーチシナ総督府文書のうち、漢文行政文書を中心に閲覧・調査にあたった。この中にはギメ文書と地域的に重なり、阮朝期から植民地にかけての地方社会の変容を考察する上で重要な文書も含まれていることが明らかになった。また、多賀良寛(大阪大学)はダラットにある同第4アーカイブズセンターにおいて、阮朝並びに植民地期ベトナム中南部関係資料の調査にあたった。 3)広く東アジアの文書制度と比較するために、2025年12月6日、中央教育研究棟508号室において、「台湾とベトナムの歴史アーカイブズ:台湾「淡新檔案」と阮朝「永隆(ギメ文書)』の世界」を開催した。清朝時代の地方行政文書を代表する淡新檔案の専門家である呉密察教授(元故宮博物院院長)が「地方行政とアーカイブズ:「淡新檔案」に見る義倉運営の実際」、また本プロジェクトの客員研究員である嶋尾稔教授(慶應義塾大学)が「フランス植民地行政官リュロの阮朝アーカイブズ研究とギメ文書」と題して報告を行った。 呉密察教授はギメ文書に村民名簿まで含む詳細な記録が含まれていることなど、中国の地方行政文書(檔案)には見られない阮朝期ベトナムの文書行政の独自性を指摘され、嶋尾教授は、仏領初期のフランス植民地官僚の阮朝地方行政文書研究を、ギメ文書と比較しながら、阮朝文書システムに対するフランス植民地官僚の研究成果とその限界を明らかにし、いずれの報告も前近代から植民地期に至る東アジアの文書制度の連続と非連続とを考える上で示唆に富む内容であった。 上記以外に、本プロジェクトにおいては、東洋文化研究所に寄託されている西川捨三郎コレクションについても調査を進め、西川氏が将来した戦時期ベトナムを撮影した写真資料、ベトナム滞在時に蒐集した地図資料についても整理を行った。
(2)2026年度活動計画
2026年度は本年度の活動を踏まえ、ギメ文書の講読を進めるとともに、ホーチミンのペトナム第2国家アーカイブズセンター所蔵の漢文文書を継続的に調査し、あわせてハノイの同第1国家アーカイブズセンターにおいて阮朝中央政府の殊本(チャウバン)文書の調査を実施することを予定している。もともとフエの王宮に所蔵されていた珠本文書はベトナム戦争の戦禍をくぐりぬけて今日に伝わり、ユネスコの世界記録遺産にも指定されている文書群であるが、ギメ文書に現れる地方行政府レベルの諸問題がどのように中央官僚や皇帝によって認識・処理されていったかを知る上でも貴重な資料である。こうした作業をつうじて、記録・アーカイブズの世界から見える阮朝期の中央と南部社会との関係も明らかになると期待される。 また2025年には実現できなかったベトナム・アーカイブズ学の専門家を招聘し、伝統東アジアにおけるアーカイブズ制度とベトナムの事例に関して簡単なワークショップを開催することをめざしたい。



