一般研究プロジェクト
A26-1 日印の文化的補完性に基づく日印文化交流の新たな展開
| 構成員 | |
|---|---|
| 代表研究員 | 白田由香利 |
| 研究員 | 久保山哲二 |
(1)研究目的および意義
本研究は、日本とインドというアジアにおける異なる歴史的・文化的背景を持つ国々の間で、特にDX人材の育成と協業に焦点を当て、文化的相互補完関係の可能性とその教育的・組織的展開を明らかにすることを目的とする。とりわけ、スズキ株式会社とインド現地資本(政府など)の合弁により設立されたMaruti Suzuki India Limited(MSIL)の実例を通じて、両国の人材がいかに異文化を乗り越えて協業し、成果を上げてきたかを検証する。 日本人とインド人は、性格傾向、価値観、教育観において顕著な違いを持つ。日本人は調和と規律、段取りの良さ、完璧主義、そして失敗を避ける文化を重視し、これは製造業における品質管理や安全志向といった分野で高く評価されてきた。一方、インド人は、論理的思考、数学的素養、自己主張、柔軟な対応力、失敗を受容する姿勢に強みを持つ。特にIT・DX分野においては、世界的に高く評価されており、シリコンバレーや欧州企業における幹部登用も進んでいる。こうした日印の国民性の違いは、必ずしも対立や障壁とは限らない。むしろ、互いに補完し合う可能性を持つ文化的特徴である。たとえば、計画性と即興性、慎重さと積極性、調和志向と論理志向が融合することで、変化の激しい現代の国際社会において持続可能なDX推進体制を築くヒントとなりうる。本研究は、まさにその補完性に注目する。特に注目されるのが、インドにおける女性のSTEM分野への進出である。近年、理工系教育における女性の活躍が顕著であり、MSILにおいても女性人材の登用が進んでいる。申請者は、日本におけるDX教育の文脈において、こうしたインド人女性教育者の活用が極めて効果的であると考える。高度なスキルに加え、柔らかな対人能力や文化的包摂力が、異文化教育における重要な触媒となりうる。 現在、スズキ・イノベーション・センター(SIC)がインド工科大学ハイデラバード校(IITH)内に設置され、日本の経営・文化をインド人学生に学ばせる制度が整備されている。本研究ではこの構造を逆転させ、「インド人がDXを教え、日本人が学ぶ」新しい教育モデルを提案する。両国の文化的補完性に着目しつつ、教育的・組織的インパクトを実証的に明らかにする点に、本研究の新規性と学術的意義がある。指すのは、その構造を反転させる試みである。すなわち、「インド人がDXを教え、日本人が学ぶ」という構造へ転換し、そこから生じる教育的・文化的相互向上が起こることを期待する。インパクトを明らかにする点に、研究の新規性と学術的意義がある。
(2)研究内容および方法
本研究は、以下の3つの柱からなる複合的アプローチにより、日印間の異文化協働とDX人材育成の可能性を「実証的に明らかにする。 (1)MSILにおける現地調査と異文化協働の実態把握:申請者らは既に、SDGs達成度調査の一環としてMaruti Suzuki India Limited(MSIL)のマネサール工場を訪問しており、今後も現地調査および関係者へのヒアリングを継続して行う予定である。特に、製造現場におけるIoTによるリアルタイム監視やAIを用いた予防保全体制など、日本式の規律とインド人材のITスキルが融合した事例に注目し、こうした技術運用の成立過程を文化的視点から分析する。また、導入期における文化的摩擦の事例と、それに対する教育的対応についても質的データを収集・整理する。 (2)日印の価値観および教育観に関する比較文化的分析:技術者・教育者間における価値観や教育観の「相違に焦点を当て、新技術の学習プロセス、時間感覚、上下関係の捉え方、積極性、失敗への態度などの側面について、比較文化的に分析する。また、近年インドにおいて顕著な女性STEM人材の台頭とその社会的役割の変容についても、文献調査および現地関係者へのインタビューを通じて明らかにする。 (3)「教える立場の反転」による教育的実験「片岡教授もモデル講義」の実施:本研究の中心的取り組みとして、インド工科大学ハイデラバード校(IITH)からインド人女性若手研究者2名を日本に招聘し、学習院大学および千葉商科大学の学生を対象に、英語によるプログラミング講義を短期的に実施する。通常、日本においては、日本人が教える立場に立つ構造が一般的だが、本実験ではその役割構造をあえて反転し、文化的背景の異なる教育者からの学びが、受講学生にどのような心理的・認知的・文化的変化をもたらすかを観察・記録する。授業後には、受講学生に対してアンケートとインタビューを実施し、学びの質、異文化への理解、コミュニケーション態度の変化、将来的な留学・国際協働への関心等を多角的に調査する。また、招聘されたインド若手研究者のかたにも教育者としての視点からフィードバックを求め、教える側・学ぶ側双方の知見を抽出する。さらに、IITHの片岡広太郎教授によるオンラインモデル講義および指導(Zoom)も実施し、インドの教育者が日本人学生に直接教える場を設けることで、異文化理解の触媒としての機能を果たすことを期待する。このような教育的実験を通じて、インド人女性DX教育者を日本社会に迎え入れる文化的土壌を醸成し、日印間における持続可能なDX人材育成と国際協働の先行モデルを提示することが狙いである。



