学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

東アジア世界における朝鮮をめぐる国際関係の研究(1986-1987年度)

 

構成員
代表研究員 柳田節子
研究員 井上勲 斉藤孝 坂本多加雄 浜田耕策
客員研究員 姜徳相 武田幸男 宮田節子 中尾美智子
(1)研究の目的・意義

本研究チームは、朝鮮の全史的な国際関係および国際関係のもたらす国内的な政治・社会変動の解明を目的とする。この分野の理論的な把握では、歴史学の方法から「冊封体制」論が提出されている。前近代の東アジア世界においては、中国の皇帝に対して周辺諸国の王が臣下の礼をとり、皇帝から爵位を受けることで国際的な秩序が形成・維持されているとする見方である。この見方には中国周辺の諸国の相互・対抗関係が軽視される面があるが、朝鮮については古代の三国から高麗、李氏朝鮮の諸王朝がこの国際秩序の中で成立・崩壊したと見られるのである。次いで、近代に至って、ヨーロッパ勢力が東アジアの国際秩序に動揺をもたらすや、中国、朝鮮、日本では名分論と現実的対応論との抗争がおこり、相互に密接する複雑な国際関係を展開することになる。以上の朝鮮をめぐる国際関係の構図のもとで、数多い朝鮮史、朝鮮論の研究を総合し、以下の諸問題を考察することは、日本と朝鮮の関係についての認識をいっそう深化させることになるであろう。

(2)研究内容・方法

(1)〔高麗と宋および北方民族との関係〕10~11世紀は、中国史上の変革期であったが、同時に東アジア世界の国際関係にも大きな転換をもたらした時代である。遼・金・元の所謂征服王朝が出現するが、その中にあって、高麗は非公式に宋に対し朝貢を続け、文化的にも友好関係を維持した。北方諸民族が宋との間に対立関係を深めている中で、何故に、かかる宋と高麗の関係が成立し得たかを明らかにする。
(2)〔李朝末期の社会変動〕本学図書館が所蔵する「慶尚道戸籍大帳」151冊のうち、戸籍調査の式年が連続する丹城県の部につき、これを整理、分析して近代化への胎動が始まる前夜の朝鮮の社会変動を明らかにする。この作業と研究過程では、朝鮮の伝統的な社会と身分に関する歴史的用語と中国のそれとの比較検討も進められる。
(3)〔明治期の朝鮮認識―征韓論と日鮮同祖論〕明治6年10月の所謂征韓論争は、士族反乱と自由民権運動、ならびに日本の朝鮮侵略の契機をなす事象として、すでに多くの研究が重ねられているが、その性格づけは未整理のまま放置され、その上、単なる権力闘争として考えられる傾向すら深めている。ここに日本近代と東アジア(特に朝鮮)についての認識を深める為に、征韓論争を東アジアの国際関係の変動という文脈に、次いで、明治初年の国内状況の文脈にすえて考察する。また、明治期のもう一つの朝鮮認識である日鮮同祖論を二、三の思想家をとりあげて、その学問的側面と政治的イデオロギーとしての側面の関連を明らかにする。
(4)〔第2次世界大戦期の朝鮮をめぐる国際関係〕1943年のカイロ会談の前後におけるアメリカ、イギリス、中華民国の対朝鮮政策の構想と戦後におけるその展開・挫折の過程を考察する。

(3)研究の成果

武田幸男(編)『朝鮮後期の慶尚道丹城県における社会動態の研究(I)―学習院大学蔵朝鮮戸籍大帳の基礎的研究(2)―(調査研究報告No.27)』(学習院大学東洋文化研究所、1991年3月)

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