学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

アジア諸国における国民統合過程の分析(1986-1987年度)

 

構成員
代表研究員 大石慎三郎
研究員 川嶋辰彦 飯坂良明 田村愛理
客員研究員 萩原宜之 蔭山雅博 小松原伴子 斎藤洋一 三谷博 R. Rickards
(1)研究の目的・意義

現代の国際秩序において、最も強力な政治集団は、Nation-Stateにおかれている。今日の我々日本人にとって、ほとんど所与としてさえ考えられているこのNation-Stateシステムの出現は、ヨーロッパにとってもたかだか二百年の歴史を持つものでしかない。その植民地になった国々において国民国家形成が政治議題にのぼったのはさらに遅れて19世紀後半以降である。アジア諸国は前近代においてはそのほとんどが多様なエスニック・グループの併存を許容する複合社会であった。この社会構造は、19世紀以降のヨーロッパの軍事・経済的進出という事態への対応として、近代化の名のもとに国民国家へと変質を余儀なくされていったのである。すなわちアジア諸国の国民国家形成はほとんど成立と同時に国家分裂、つまり単一国家の内部にせめぎあう二個もしくはそれ以上の民族が存在するという状況を出現せしめたのであり、アジアにおいて、ナショナリズム(国民国家形成)はそれを認める認めないに関わらず、今日依然として最も重要な政治問題の一つである。
本研究の目的は、この社会変容期におけるアジア諸国の国民国家形成過程の比較政治・経済学的分析である。すなわちアジア諸国の現存の枠組みとして設定するのではなく、複合社会から国民国家がいかなる政治的・経済的条件によって形成されたのか、アジア諸国の社会構造を政治学、歴史学、経済学の観点から分析することであり、学際的比較研究を通して、これら複合社会における国民統合/分離のメカニズムを明確にすることにある。このような観点からアジアの社会構造を比較研究した例は未だ少なく、本研究は従来の固定化したアジア研究にダイナミックな視点をあたえよう。

(2)研究内容・方法

本研究はアジア四地域を対象に以下のテーマにそって進められる。
イ.日本―従来単一国家といわれ未だ未開拓な日本自身の国民統合過程の研究、具体的には幕藩体制がゆるぎ始めた江戸末期における蝦夷地支配および新田開発と被差別部落の問題。
ロ.中国―中華帝国から国民国家への変遷の政治史とその具体的側面として教育制度の国民統合にたいする対応と変遷過程。
ハ.東南アジア―植民地から国民統合への政治基盤形成の分析およびその実証的側面として複合社会の経済構造におけるTransportationとCommunicationの発達と変化。
ニ.中東―オスマン帝国の崩壊に伴う社会構造変化の分析。EmpireがNationに変質する過程で従来のミレット・システムがいかなる条件の下にNation-Stateに統合/分離されたか。具体的にはアルメニア、コプト、クルドのマイノリティ・コミュニティのナショナリズム運動の分析。
ホ.以上の個別ケース・スタディを統括し、未発達な複合社会におけるナショナリズムの政治理論の検討と再構築を共同討議を通して行う。

(3)研究の成果

川嶋辰彦・R.Rickards・田村愛理・三谷博『アジア諸国における国民統合過程の分析(調査研究報告No.28)』(学習院大学東洋文化研究所、1991年9月)

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