学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

近代化過程における朝鮮の思想と社会の研究(1988-1989年度)

 

構成員
代表研究員 井上勲
研究員 高田淳 斉藤孝 坂本多加雄
客員研究員 武田幸男 姜徳尚 宮田節子 松島光保 小松原伴子 浜田耕策
(1)研究の目的・意義

東アジア諸国は、中国の歴代王朝の政治的、社会的、思想的の圧倒的な影響を受け続けてきた。漢字、律令法、儒学、いずれもその例にもれない。だが一口に影響を受けたといっても、その内容はそれぞれの社会で異なっている。そしてこの異質性、中国文化からの自立の程度が、それぞれの社会の近代化を方向づけた面が少なくないと考えられる。
朝鮮において、強力な自国意識が派生する契機となったのは17世紀の明清革命であった。それと同時に、実事求是を発想の基底におく、実学思想が誕生した。これは、宋学の「合理主義」からの解放でもある。
第二の契機は西洋の衝撃であった。これへの対応をめぐって、朝鮮では開化思想と衛正斥邪論が激昂した。もとより、それぞれの思想の背景には、それを担う社会層と社会構造がある。中国の士大夫と朝鮮の両班と日本の武士と、それぞれの社会構造とを比較の視野におきながら、本プロジェクトでは近代朝鮮の思想と社会を考えたい。

(2)研究内容・方法

(イ)朝鮮における実学思想と日本古学派―これまで、日本の儒学研究は、日中の比較の面から研究されることが多かった。これに朝鮮という視角を加えることにより、朝鮮儒学の研究をすすめ、あわせて日本の儒学の考察を深めたい。
(ロ)李朝末期の社会変動―本学図書館が所蔵する「慶尚道戸籍大帳」151冊のうち、戸籍の調査年が連続する丹城県の部につき、これを整理・分析し近代化への胎動を社会変動の側面から考察する。この過程で新式戸籍を分析する視角を得たい。
(ハ)開化・啓蒙期の歴史意識―韓国の今日的な問題に国定歴史教科書の編纂問題がある。現政権と在野史学の圧力で、民族主義的で非科学的な編纂方針が進行している。実証主義史学が反民族的というレッテルを貼られて押え込まれる傾向が生まれている。しかしこの傾向は、外圧に抗して自国史認識を構築した19世紀末~20世紀の開化・啓蒙期に既に現れていた。この期に刊行された国定教科書の自国史認識を分析し、その問題点を今日的視角から考えたい。
(ニ)韓国併合過程の朝鮮ナショナリズム―清国、西欧列強、そして日本への対応の中で、開化思想と衛正斥邪論を中心に、朝鮮ナショナリズムの諸相を考える。

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