学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

朝鮮近代化の実相と東アジアの朝鮮観(1990-1991年度)

 

構成員
代表研究員 原島春雄
研究員 斉藤孝 坂本多加雄 深津行徳
客員研究員 姜徳相 武田幸男 小松原伴子 浜田耕策 松島光保 宮田節子
(1)研究の目的・意義

「朝鮮近代化の実相と東アジアの朝鮮観」と題した本研究は、近代化に向う朝鮮の社会経済構造、政治構造の解明を基礎とし、さらに当代の東アジア世界における朝鮮の評価を検討した上で、「近代朝鮮」を総合的に再検討しようとする、斬新な、学際的研究である。すなわち、韓国は近年の驚異的な経済成長によって世界的に注目されるようになったが、主要な関心は1960年代以降に限定されることが多い。しかし、かつての植民地でありながら欧米、日本以外で最初に資本主義工業国となったという、近代史史上特異な道を歩んできた韓国経済発展の真の要因を語るためには、朝鮮における自立、主体的な「近代」への胎動と、それを中断、変質させた日帝による植民地支配下の社会構造を解明することが必須の条件である。本研究が行う、『朝鮮戸籍大帳』という学習院大学図書館が世界で唯一所蔵する貴書の検討成果は、上記の重要な課題に対して、確実な回答の一部を提出することになる。また、現在に直接つながる朝鮮観の成立を、中国を含めた当代の国際関係の中で論じようとする本研究は、それの本質を解明することが期待される。さらに、現在声高に叫ばれている「国際化」のためには、確実な研究成果に裏打ちされた相互理解が前提されなければならず、その意味で、真の「国際化」への道筋を、具体的に指し示すことにもなろう。

(2)研究内容・方法

①(明治期の朝鮮認識)征韓論争と日鮮同祖論を中心に二、三の思想家をとりあげ、その学問的側面と政治的イデオロギーとしての側面の関連を明らかにする。東アジアの国際関係の変動、明治初年の国内状況の文脈にすえて分析することにより、従来不明確であった両論の性格付けに、新たな研究視角を提供することとなろう。
②(開化・啓蒙期の歴史認識)この期に刊行された国定歴史書を題材に、外圧に抗して構築された、朝鮮の自国史認識を明らかにする。この分野の研究蓄積はきわめて貧弱であり、その成果は、現在「非民主的「民族主義的」とされて大きな問題となっている、韓国の国定歴史教科書編纂問題を検討する素地をも、提供するであろう。
③(中国の朝鮮認識)かつての宗主国である中国が、自らの解放運動の中で朝鮮をどのように位置づけているのか。従来あまり顧みられることのなかったこの問題を、①②の問題と関連づけて検討する。
④(李朝末期の社会変動)本学図書館所蔵の『慶尚道戸籍大帳』を整理、分析し、近代化への胎動が始まる直前の朝鮮社会を明らかにする。この大帳は本学のみが所蔵する貴重な史料であり、その整理、分析をへた公開は、学界に多大な寄与をなすであろう。
⑤(朝鮮近代の政治構造)地域的世界の中の諸「国家」・「民族」の主体的発展、国際関係の相互性の基礎としての各「国家」・「民族」の自立・主体性を分析視角にいれ、朝鮮近代の政治構造を、以前のそれと比較・検討する。その過程で、現在声高に言われながらも実態が曖昧な「王権論」について、その理論的検討を行いたい。

(3)研究の成果

福士慈稔・嚴錫仁・古田幸三・深津行徳『朝鮮半島に流入した諸文化要素の研究(調査研究報告No.39)』(学習院大学東洋文化研究所、1993年9月)
武田幸男(編)『朝鮮後期の慶尚道丹城県における社会動態の研究(II)―学習院大学蔵朝鮮戸籍大帳の基礎的研究(3)―(調査研究報告No.33)』(学習院大学東洋文化研究所、1997年6月)

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