学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

東アジア諸国の高等教育における戦前・戦後の連続性についての比較研究(1996-1997年度)

 

構成員
代表研究員 斉藤利彦
研究員 佐藤喜久雄 川口幸宏 諏訪哲郎
客員研究員 桜井啓子 石川啓二 蔭山雅博 雨田英一 所澤潤
(1)研究の目的・意義

東アジア諸国の近代化において、高等教育のはたした役割はきわめて大きい。それは直接的には、近代化を担う主要な人材がそこで育成されたからであるが、同時に、後発的かつ外的な近代化を迫られたそれら諸国にとって、高等教育こそは近代化のための重要な橋頭堡であり、単なる教育機関という意味以上の文化的・社会的な大きな影響を及ぼしたからである。
ところで、具体的に台湾と韓国(朝鮮)における高等教育の展開を見た場合、そこにはきわめて特殊な歴史的経緯が存在していたことが明らかとなる。すなわち、最初の近代化的高等教育機関の設置が、日本による植民地統治時代に行われたということである。例えば、朝鮮における京城帝国大学、同大学予科、台湾における台北帝国大学、台北高等学校等がそれである。
ここで問われるべきは、これら日本の統治時代に設立された高等教育機関が、彼の地の近代化にいったいいかなる役割をはたしたのかということである。さらには、戦後の高等教育の展開にどのような影響を与えたのかも明らかにされるべきであろう。こうした主題の解明は、従来の研究ではほとんどなされてこなかったものであるが、東アジア諸国の近代化の態様を戦前・戦後の連続と非連続という視点から検討していく上で、重要な意味をもつ研究であるといえる。

(2)研究内容・方法

以上の研究関心に立って、本研究の内容は、これら諸国の高等教育の展開における戦前・前後の連続と非連続の形態について考察を行うことである。こうした課題の設定は、植民地時代の文化蓄積を、単なる被抑圧時代の遺制として一義的に断罪するのではなく、戦後の近代化と何らかの形で内在的に結びつくものとしてとらえようとする視点を前提としている。
また、それら諸国の高等教育の展開の歴史は、我が国の高等教育史を相対化する貴重な素材として活用できよう。
具体的には、以下の内容にそくして研究を進めていく。
第一に、植民地時代の高等教育の実際の運用の状況、そして教育・研究の実態を検討する。この点では、朝鮮における京城帝国大学、台湾における台北帝国大学、台北高等学校等が検討の対象となろう。
以上の点に関し、京城帝国大学当時の資料は国立ソウル大学に、台北帝国大学の資料は国立台湾大学に一部保存されている。こうした現地の資料、および日本に残された資料を収集し、考察を深めていく。
第二に、朝鮮と台湾における戦後の高等教育の制度や組織、あるいは施設と設備等に関して、戦前との連続と非連続という観点から検討を加える。この点では、人的構成の連続性を統計的に明らかにすることも課題となろう。
第三に、戦前期の高等機関に就学した学生たちの出自を、統計的かつ個別具体的に解明し、特に朝鮮と台湾の現地出身の青年たちがどれだけ就学可能であったのか、そして彼らが戦後いかなる社会的・文化的な役割を担ったのかについて検討を行う。
第四に、以上の諸点を明らかにする基礎作業として、中等教育と高等教育との接続の問題を解明する。

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