学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

中国史上における「民族」の問題(1997-1998年度)

 

構成員
代表研究員 原島春雄
研究員 鶴間和幸 武内房司 市来弘志 王瑞来
客員研究員 末成道男 上田信 川上哲正 菊池秀明
(1)研究の目的・意義

周知のように中国は現在50以上の民族をかかえる多民族国家であり、また、中国の歴史も、諸民族間の衝突と融合を一つの主旋律として展開してきたといっても過言ではない。
しかし、中国史を論ずるに当たって、我々が現在仮に「民族」と呼びならわしている諸集団は、決して近代的な意味でのナショナリティー、エスニシティーといった概念によって完全にとらえうるものではない。例えば、中国人は伝統的に自らを「華」、異族を「夷」と呼び自他を区別してきたが、その場合の「華」という観念の内実は、我々が通常いだく「民族」のイメージとは極めて異質なものといってよく、しかも、この「華」という観念自体も、中国史の展開とともに、その意味内容を様々に変化させている。
確かに、中国においても、19世紀後半以降、西洋諸国との接触を経て、近代的な意味での「民族」観が移入されるとともに、伝統的な中国の自己イメージとは異なる新たな「民族の神話」が、様々な形で生み出されることになったが、それとても完全に過去の「華」観念と断絶したものではありえず、両者は極めて錯綜した形で絡み合っている。そして、そのことは、現代中国における「民族問題」が、欧米的な文脈とはかなり異質なものとして立ち現れることとなる一因ともなっているのである。
以上の諸点を勘案し、本プロジェクトは、中国古代・中世・近世・近代の各時期の歴史研究、さらには、中国の少数民族研究、文化人類学的研究、思想研究の専門家の方々の参加を得て、中国史における「民族」の問題の全体像を、可能な限り実態に即して描き出すことを目指すものであり、また、このような形での総合的研究は、中国史研究の分野においてはもとより、現代中国を理解する上でも、大きな意義を持つものであると信ずる。

(2)研究内容・方法

1)東アジア地域において「中国」と呼ばれる社会集団が、歴史的にいかなる形で形成されてきたか、また、「華」としての中国を中心とする一つの国際関係のシステムとしての「華=夷」世界がいかにして成立し、さらにそのシステムの内実が中国史の展開の中でどのように変化していったか?
2)中国史上の各時期における、中国人の自己のイメージ、他者(「内なる他者」をも含めて)イメージ、さらには自=他関係のイメージの特質は何か?また、それらの中で、各時期を通じて一貫して見られる要素、および、それぞれの時代において特徴的に見られる要素は何か?
3)特に近代以降、西洋的な意味での「民族」観念が導入されるとともに、中国人の「自己が所属する集団」に対する観念がいかに変質したか、あるいは、しなかったか?
研究の方法としては、歴史学的な手法を中心としつつ、思想的、文化人類学的な面からのアプローチによってそれを補完するものとする。

(3)研究の成果

(訳)鶴間和幸(代表)・市来弘志・上田信・王瑞来・川上哲正・武内房司『郷土中国(調査研究報告No.49)』(学習院大学東洋文化研究所、2001年3月)

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