日々の雑感的なもの ― 田崎晴明

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茶色の文字で書いてある部分は、相当に細かい仕事の話なので、ふつうの読者の方は読み飛ばしてください。


11/1/2002(金)

大学祭で講義がなくなったので、Raphael と慶応の青木さんを訪ねる。

「十時半に渋谷駅の山手線ホームのもっとも新宿よりで」との待ち合わせだが、時間にやや遅れ気味、かつ、後ろから4つ目くらいの車両に乗ってしまう。 待たせたり、さがさせたりすると悪いなとおもいつつ電車に乗っていると、新宿から同じ車両に Raphael が乗り込んでくる。 打ち合わせ通り(じゃない)

慶応の青木さんとぼくは実は旧知の仲なのである。 ぼくがポスドクとして Princeton に着任したとき、彼は Princeton の大学院生だった。 お互い Princeton を離れてからは、ずっと会わなかった。 去年の学会の時にばったりとお会いしたのは、実に十数年ぶりの再会であった。

今日の議論では、Raphael が進めている非線形振動子の格子についての理論を中心に、青木さんのこれまで研究の話をいろいろ聞く。 二人の話は(少なくとも精神的には)とてもよくかみ合って、非常に有益な議論になった。 ぼくは基本的にはちゃちゃを入れるだけだったが、かなりいろいろな事が見えてきた気がして、うれしい。 というか、難しいだろうと思っていたところは、やはり難しいとよくわかった。


教務のお仕事の方も忘れているわけではない。

と書くとやや嘘があって、物理に集中している間は忘れている。 物理から離れると、思い出す。

ぼく一人の手にはとうていおえないので、教室の他のメンバーからの暖かいサポートを受けつつ進めているのだが、道はまだ遠い。


11/2/2002(土)

けっこう年輩の物理学者らしき人が何人かいるが、ほとんど知らない顔。 状況からして、久保シンポジウムっぽいが、場所は大学のぼくの居室だ。

一人の年輩の「先生」らしき人が、「田崎さんがどのように統計力学を導入するのか是非知りたい」とおっしゃる。

ホワイトボードにでて説明をはじめる。

「少なくとも、今までの導入とは、根本的に異なる方針をとります。」
そこで、橋爪先生もすわっていらっしゃるのが目にはいる。
「橋爪先生のご本のように何もかも書いてあるものがあります。 橋爪先生の教科書や、久保・橋爪らの演習書の存在を前提に、現代的で見通しのいいアプローチを提示したいと思っています。」
夢のなかでまで、こびるかよ。 橋爪先生は、他人の夢のなかでも、いつもどおり謙虚で物静かに、照れくさそうな笑みを浮かべていらっしゃっる。

ともかく、本題に入ろうと、

「それで、出発点になるのは・・」
といいつつ、ホワイトボードにキーワードを大きく書く。
エルゴード仮説
が、その後の説明がつづかず、そのまま考えてしまうというところで夢がおわり。

それって、めちゃめちゃ普通のアプローチではないか!!

注:実際には、ぼくは統計力学の導入にエルゴード仮説はいっさい使いません。


進まない・方向が見えないと言いつつ、きわめて異方性の高い(外場中の)格子ガスについては、完璧な熱力学関数が定義できたわけで、あとは、高温展開をするなり、特殊な相互作用をとって可解なモデルをつくって計算するなり、ということもできるようになっている。 ただし、この「きわめて異方性の高い」というのがくせ者で、考えようによっては「やらせ」に近いと言えなくもない。 (ま、Ising model だって最初に見た人はインチキだと思っただろうし、なにを「やらせ」と見てなにをそうじゃないと見るかは微妙なんだけど。)

ここらへんをもう少し気分よくすべく、同じアイディアを異方性が高くない場合に拡張する、という自然なアイディアが、昨日の夜中、ベッドのなかで、うかび色々検討。 朝おきたときは忘れていて、その後、買い物に行く途中で思い出して、検討を再開。 頭のなかだけの式変形ではうまく行きそうな気配。

長い買い物から戻って夕方に紙に書いて検討。 少なくとも beta (rho^2) の最低次までの展開なら、熱力学関数を求める関係式を閉じた形で作れそうだと納得。

が、よく考えると、このオーダーでは非平衡効果はでてこないんだ!

とすると、beta^2 (rho^3) のオーダーまでを拾えばなんとか非自明な効果が見えるだろうか?

というところで、待て次号。


11/3/2002(日)

弟の一家が訪問。 昼間は、家族や親戚とすごす普通のお父さん、時々、計算をする。

夜は、やろうとしていた計算をごぞごそとやる普通でないお父さん。 やはり論文書きや計算をしている普通でないお父さんの佐々さんとメールをたくさんやりとり。


11/4/2002(月)

遅くおきた上に、なんとなくごたごたして仕事をする時間がない。

とはいえ、dirven lattice gas の熱力学のおおざっぱな計算はだいたいできた。 次元が大きいとして、高温低密度の領域で、操作的に定義した種々の非平衡熱力学関数の最低次のあからさまな計算ができそうである。 (相互作用を g とすると、g rho^3 のオーダーまでしか拾わないことにすると、計算がすごく楽になることが今し方わかった。)

半年前にはこんなことができるとは思ってもいなかったわけで、うれしい進展ではある。 ただ、自由エネルギーの凸性については当初のもっとも素朴で単純な予想を裏切る結果になりそうなのが悲しい。 事実は事実だから、それを受け入れて、さらに考えるしかないのですが、もちろん。

計算の概略が見えてしまうと、佐々さんがやっている熱伝導系の話の方が気になってしまうという、いつもの悪い癖。


11/8/2002(金)

火曜日;各種雑用をこなすなか、午後はやく教務の難題の救世主となると期待されている方から、待ちに待ったメール。 だが、結果は期待はずれ。体調も悪く眠い。

水曜日;朝起きようとするが猛烈な頭痛と吐き気のためおきることができない。昼まで寝ていて、薬をのみ、原因不明の頭痛と吐き気にたえて出勤。大輪講の会場が寒い。(しかし、前の晩から悩んでいた DLG の平均場+摂動の規格化のしかたが完全にわかった。これですべてのネタはでたので、後は式をまとめ上げるだけ。(つまんない。))おまけに、忘れていた重要な会議。宿題いっぱい。忘れていた重要な書類。ひいい。(←ちょっと、H さんの日記みたいだな、ここら)

木曜日;やはり昼まで寝ている。薬をのんでなんとか出勤。 未完成の書類を頭を下げて事務に提出。 S 君との議論で少し元気になるが、さいごの方では体温調整がおかしくなってくる。 夜は、翌日の講義、週明けの講義や会議のことを思い、暗澹たる気持ちになる。 主要部分が完成した Hubbard 論文も、もっとイントロを充実させなければ読めないと思うと、永遠にかけないような気持ちになってしまう。


金曜日=今日;

早めに家を自転車で出て、小学生たちをおいこしながらさわやかに出勤。

体調を気にして講義では体力を消耗しないように、などと思っていたが、「熱力学」ではじめて「熱」を論じるあたりから乗りまくってしゃべっている。 なんか、けっこう、元気じゃん、おれ。

ヨーロッパよりファックス。 手書きの日本語で、来年度の非常勤講師の候補がみつかったとの連絡。 別に外国の方ではない、江戸の仇を長崎で、ではないが、あちらで候補の方と会った○○さんが交渉してくださったのだ。 う、う、うれしい。 なんか、元気でてくる。

妻の作ってくれたお弁当を食べつつ、週末にやるはずだった同僚の原稿の直しも一気にやってしまう。 短い時間に、けっこうちゃんとできるじゃん。 ますます元気でてくる。

四年生のゼミ。 ちょっと短めだけど、本の不完全な計算をちゃんと遂行して補完して、よろしい。 気分が、いい。 かなり元気。

なんか知らないけど、働いていたら、元気になって来たぞ!

いくつかの教務の雑用も、この機会に片づけようと、メールをばしばし書く。事務にも行く。人にも会う。

月曜の講義のネタを確認すると、すでに十分に準備があるではないか。よしよし。

さらにいくつか雑用をしたあと、昔つくった Hubbard model のバンド構造を描く Mathematica のファイルを発掘。 昔書いた OHP も発掘。 よーし、これを参照すれば、いよいよ世紀の大論文も完成するぞ! わくわく。

DLG についても、新しい視点から、systematic で具体的な理論計算ができたんだから、胸を張ってもいいはずだ。 よっしゃ。

田中さんとメールで S 君の仕事についていろいろ議論。 いい形が見えてきた。よしよし。

月曜日は、学習院で量子情報の面白そうな会議があるから、駒場からあわててかえって出席しよう。 わくわく。

なんか、なんでもできそうな気になってくる。

わーい、めちゃめちゃ元気になってしまった!!

こんな波があって、だいじょうぶか?夜更かししてるし。


11/9/2002(土)

Pervez Hoodbhoy 氏による文章」に筑波大の首藤さんが訳された「核抑止の失敗に向かう印パ紛争」を追加しました。 両国の間の紛争の現状を分析したなかなか長い論説です。 首藤さんは翻訳についてのコメント等をいただければ幸いだとおっしゃっていますので、お時間のある方はよろしくお願いします。


二、三日前から、家のネットワークから野尻さんの掲示板に入れなくなってしまった。 致命的とは言わないが、なんとなく、不便で寂しい。(最近、書き込んだばっかりだし。) ページではなく、ホストそのものがみつからないみたいに見える。

東京電話のプロバイダーでは、SF 関係は悪しきものとして除外されるのかいな?

というか、こういうとき、ユーザーとしては何か打つ手はあるんでしょうかね?

↑ と書いて、二、三時間したら、なぜかつながるようになってら。 これを読まれている東京電話関係の方の迅速な対応に感謝いたします。


11/10/2002(日)

「なんでもできそうな気に」なったりすると、そのあとに揺り戻しが来てがっくりしがちなんだけど、今回は、けっこうそういう高揚感が穏やかにつづいていて、よい感じである。

息子の友達が来たので、その送り迎えをするアッシー父さんでもあったが、多くの時間は、Hubbard 強磁性の論文の仕上げに使った。 今日一日で、かなり論文が形になってきた。

それなりに充実感あり。

明日の講義の準備をしながら水割りを飲んで寝よう。


11/11/2002(月)

昼に駒場からあわてて目白に戻り、研究会へ。 学習院の裏のなじみのおそばやさんに行けばおいしい中華そばが食べられるところを、寸暇をおしんで久々にどうでもいいラーメンをあわてて食すという大犠牲を払ったのだから、頼んだぞ、講演する人たちよ! (←と、こんなところで、異分野の人に頼まれても困るだろうが。)

ま、こちらにあまり知識がないから大きいことはいえないが、インパクトのある話とない話の落差がちょっと大きすぎないかな?  いずこでもそうなのかもしれないけれど、境界分野では真に優れた人と、かなり駄目な人のギャップが激しいのかもしれない。 お目当てだった理研の林さんの話は、やっぱり、インパクトがあったし、彼とも個人的に話せて有意義だったので、顔を出した甲斐はありましたが。

あと、内容以前の問題で、講演の前にプレゼン用のコンピューターを起動してないとか、コンピューターがトラブったときのための予備の OHP が出てこないとか、ろくに準備してなくてプレプリの一部を OHP に映して式を適当に示すとか、そういうおじさんたちがいらっしゃったのはいかがなものかと。 数式だらけの OHP を出すのは話の性格上しかたないのかもしれないけど、一言も説明なく「こんなものです」ってのはなんですか?  いくらなんでも、内容を手短に直感的に説明するくらいのことはしなきゃねえ。 「大輪講の発表について」でもお読みになってはいかがだろう?


11/12/2002(火)

午前中、すこし研究会へ。 くだらない講演と立派な講演のギャップは、昨日にも増して大きい。 流行の分野であり、かつ、いろいろな分野の人が参入しているので、口頭発表を厳選するのはむずかしいのであろうとは思うが、もうちょっと、セレクションをおこなってもいいのではないかな? 主催者の方々。(←ふつうは、ここで、「読んでるわけないか」とかオチをつけるのだが、少なくともお一人は読んで下さっていると思われる。)

いずれにせよ、午前の最後の小澤さんの講演は、(量子コンピューターという設定抜きでも)きわめて面白かった。 まったく予備知識なく聞いたので、久々に、二十分の間にくらくらするような知的刺激を味わった私であった。 そのくせ、講演後の質疑応答にずけずけと介入する図々しい私であった。 (これは内緒だが、しかも、ぼくは本質的なところで一カ所ひっかかったままだったのである。 あとで質問して、一応の答はもらいましたが。) 小澤講演を聞けただけで十分満足だし(本当は、これを招待講演で聞きたかったです。主催者の方々)、くだらないと言っている講演からも、周辺の知識を耳学問的に吸収することができたので、(拾い食い的にわがままに)参加した意義は大いにあった。 主催者のみなさま、会議の運営を支えて下さった学生さんたち、どうもありがとうございました。

午後はずっと教室会議と教授会。


いま、ここで知ったのだけど、昨日、11 月 11 日は、
配線器具の日
であったらしい。(だからどうした?! 捨ててしまった配線器具への供養でもするのかな?)

単に、1111 がコンセントの差込に似ているから、ということらしいが、そういう路線で許されるものならば、

11 
 月
11 日
と書いてみて
両側コンセントの日
8/12, 8/13, 8/14, 10/22 を参照)だぞという方が、こじつけ度は3くらい低いのではないか? (「両側コンセントの日」に何をするのかは、興味をもった読者がお考えください。)

あれ? ここをさらに読むと、「電池の日」でもあるらしい。 どっちかにしてくれよ。


11/13/2002(水)

事情通のみなさんなら、今や、ナウいヤングの間では、 web 日記なんてのはルーズソックス並の時代遅れで、かっちょいいのは、なんといっても blog らしいってことは前々からご存じだと思います。 ぼくは、事情通ではないので、一昨日かそれくらいにはじめて知りました。

朝日新聞とかで「linux 文化はすばらしい」とか知りもせず書くような頭のいい人たち(←反語です)が、そのうちこぞって「blog はコミュニケーションの新しいパラダイム」とか書き出すにちがいないので、わたしも先手をとり、この「日々の雑感」の blog 化に踏み切ることにしました。

どうです? 新しくなった「日々の雑感的なもの」は?


とか書いておいて、

じつは、変わったのは、ウィンドウの一番上のタイトルバーにでているはずの

Hal Tasaki's Zakkan 0211
というタイトルを、
Hal Tasaki's blog 0211
と書き換えただけでした、ちゃんちゃん、あーくだらね、要は中身だよね --- とかいう小ネタをやるため、昨日の夜中に、タイトルだけを変えた私でした。 (ただし、ぼくらに身近なところで TeX (数式だらけの論文を書くためのプログラム。流儀に則ってテキストファイルを作れば、それをかっこいい論文にしてくれる。テキストファイルなら、コンピューターの機種を気にずせメールなんかでやりとりできるので便利。)の例をみればわかるように、真に優れた道具によってコミュニケーションの形が変わるってことはありうるよね。 研究の内容までは変わらないけど。)

しかしながら --- 嗚呼、これくらいのことは考えれば当然だったのだが --- ただちに、同じ様なネタをやった web 日記サイトは既にたくさんありますよとのご指摘を受けてしまった! 人と同じようなことを書くのがきらいな私としては、これは致命的ではないか。

このまま blog とか書いているのもなんかかっこわるいし、かといって、また Zakkan に戻すのもしゃくだし、悩んだ末に(って、別に真剣に悩んじゃいないが)現行のようなタイトルにいたしました。

log on the Web の略であると同時に、ミクロ世界とマクロ世界の単純にして精妙な関連性をはじめて一行に凝縮した Boltzman によるエントロピーの表式になっていて(ただし、Boltzmann 定数が 1 となるようにエネルギーと温度の単位をとった)、この「雑感」の真の主題を秘かにほのめかすという、なかなかに趣のある命名ではございませんか。


夜に、用事がひとつやっと終わったので、そのまま Hubbard 論文の仕上げ作業を続行。

とおさんは、よなべーをしてー、ついに図もすべて完成。 公開できる日も遠くなかろう。

ぼくにとっては数年間の宿題であったこの論文を仕上げさえすれば、やるべきなのにまだやっていない諸々のこと --- ○○君の論文に手を入れること、原との共著の本を書くこと、数学辞典の担当項目を書くこと、非平衡関連の結果を論文にすること、などなどなど --- が一気にスムーズにできるような気がしてならない。 なんというか、この一つの、しかし、ぼくにとってはとても大きな論文がぼくの中につかえているがために、なにか、ぼくをめぐる世界の歯車のかみ合わせが少しずつ悪くなっていて、他のすべてのものごとの進行がにぶくなっているんじゃないかという気が無性にするのだ。

なんて書いてはいるが、世の中、そんな村上春樹的理屈で動いているはずもなく、やっぱり仕事は大変なのだということはわかってるけどね。


11/14/2002(木)

昼過ぎに大学の構内を歩いていると、献血の車が止まっていて、その周りにいつものように献血への協力を呼びかける人たちがいる。

ただ、この呼びかける人たちのメンバーが、駅前の献血車なんかとはひと味ちがう。

学生さんたちがお手伝いをしているのだろう。 ずらっと並んだ左側には、茶髪のかっこいい系のおねえさんが何人か立っていて、右の方には、学らん姿の応援団員風の学生さん(応援団員だと思う)が立っている。 そして、「献血おねがいしまああす。」とか「献血、御願いしまっす!!そこのガタイのいい人!(←友達でも通りかかったのだろう)御願いします!!」と、それぞれの特技(?)を活かした協力の呼びかけをしているのだった。

こういうのって、なんというか、この若者たちの生命エネルギーの活用のしかたとして、とてもナイスなのではないかなと素直に好感をもちました。 (けど、献血はしませんでした。ごめんちゃい。)


とある方からのメールで、
「日々の雑感」ファンの一人として思うのですが、両側コンセントのネタは引っ張りすぎです。
とのご指摘を受けてしまった。

「日々の雑感」の著者の一人として思うのですが、まったく、そのとおりです。

ぼくから出たネタでもないし、もう十二分だと思っているのですが、なんだか知らないけど、つい書いてしまう。 12 日にはそんなこと書くつもりなど微塵もなかった。 それが、あの日にはじめて、「今日は何の日」のページを覗いてみたら、みごとに「配線器具の日」とか書いてあるので、つい、ふらふらと自分の意志を失って、ああいうことを書いてしまったのです。 なんというか、邪悪な意図による罠にひっかかった気分です。 嗚呼、やはり、あれは悪魔の発明であったのだあああ --- とか、ひっぱらないようにします。


Hubbard 論文の草稿完成。

ささやかながら、深夜に缶ビールをあけて乾杯です。(って、毎晩飲んでるけど。)


11/17/2002(日)

ちょっと古いが、金曜日の4年生のゼミのこと。a

ゼミが無事におわって席を立とうとすると、T 君が、「質問があるんですが」と切り出して、学習院の研究室について質問を受けた。 いろいろ説明しおわって席を立とうとすると、今度は、S 君が手をあげるジェスチャーをしながら、「あ、ぼくも質問していいですか?」と聞くので、あ、もちろんいいよ、というと、

が×こラーメンでは、なにを注文すればいいんですか?
って、別にぼくに聞かなくても、好きなものを食べていいんだよ。

なんて、どうでもいいことを思い出してしまっているのは、一日いろいろ仕事をして夜になって講義と会議の準備をしながら、おなかがすいてきて無性にがん×ラーメンが食べたくなってきたからかもしれない。 (学習院のすぐ裏の高戸橋のお店は、けっこう夜遅くまで営業しているのですよ。)


11/18/2002(月)

午後から会議があるので、駒場での講義を終えるとすぐに電車で目白に戻る。 今日こそおいしいおそば屋さんに食べに行け --- と心のなかの悪魔がささやくが、どう考えても、そうすると会議に遅刻する計算になるので、鉄壁の意志で味のないラーメンを食べる。 真においしいラーメンの場合、ぼくはスープもすべてのんでしまう。 が、今日のように、そうでない場合はスープはほぼ一滴ものまない。こんなところで塩分を取りすぎてなるものか!

かくて、佐々さんや清水さんと有益な議論をするチャンスをあきらめ、あくまで基本に忠実な味わい深いだしとしょっぱめのかえしととろけるチャーシューと固めの麺の織りなす絶妙の食感を断念し(←書いていると切なくなってくる・・)、会議室にむかった生真面目で律儀な私であった。 しかし --- 大多数の読者の予想通り --- そんな私を待っていたのは、ドアを閉ざした人気のない会議室だったのである。

呆然と立ちつくす私の脳裏には、可能性としてはあり得たけれど、決して実現されず永遠に失われてしまった 2002 年 11 月 18 日のありようが走馬燈のように流れていた。 あのまま、駒場に残っていれば、なにを議論することができたか・・  たとえ、目白に戻ってきたにせよ、あそこで、あのまま大学に直行し会議の日程を確認していれば、お昼は・・・ 

聞けば、会議は、明日の午後に予定されていたそうです。 ぼくは、これっぽちの迷いもなく、今日が会議だと信じ込んでいて、そのように家のカレンダーにまで書き込んであったのだ。 世の中はへたな不条理文学より不条理であります。


などと、自分にとって大ショックだったからといって、他人にはどうでもいいし、実は凡庸でよくあることを、長々と書いてしまった。 これでは、まるで web 日記のようではないですか。 やはり、logW を標榜する以上は、これじゃいかんですな。
11/22/2002(金)

なんか、よく働いた一週間であった。

一頃は破滅するかと思っておろおろしていた来年度の授業計画だったけれど、周囲のみなさんのおかげで、非常勤講師も全員決まり、時間割作成というその次の段階にはいっているのだ。 来年度は、ちょっと特殊事情により、非常勤講師が多く、そうなると、時間割パズルがいつにも増して困難になる。 ホワイトボードに貼った時間割をにらみながら(「学習院大学理学部物理学科時間割作成用ハイテクツール」については、12/22/2000 を参照)、膨大な数のメールをやりとりし、原則としては、一科目ずつ時間割を埋めていく。 理想に近い方々に非常勤講師を引き受けていただいたものの、みなさんのご都合がつかず、時間割が破綻するのではないかと真剣に心配していたのだが、ほんとうにラッキーなことに、かなり能率的に時間割が埋まっていくではないか!  うれしや、うれしや。

先ほど、また別の非常勤講師をしてくださる方からメールをいただいたので、これで、非常勤講師の方々の時間割はほぼ固まった。 内部の人たちの時間割も着々と埋まってきているので、時間割完成も間近かもしれない。 時間割作成に膨大な時間がかかると予想して、きわめて早めにスタートしたのだが、なんか、さっさと終わりそうだぞ。 うる。うる。

と、ここで気づくのだが、ここ数年来万年教務委員のぼくが、催促される前に仕事をすませるのは、これがはじめてのことになるぞ!


そのほかにも、会議のための半アカデミックな仕事とか、ま、ともかく、いろいろ働いております。

それで、疲れているのだが、なんか知らないけど、とつじょ居室の掃除とか始めるから、人間は不思議だよな。 部屋の工事以来、掃除をするのは三ヶ月ぶりか。 少し掃除したら、見違えるほどきれいいなって、耐えうる限界をやや越えた程度の散らかり具合にまで回復した。


11/25/2002(月)

なんか、少し時間の空きができたような気がする。

ここは、いよいよ真剣に数学辞典の「統計力学」の項目の原稿を書かねばなるまい。

エルゴード性のような世迷いごとを平衡系の基礎付けに用いたり、とか Boltzmann equation のような極限状況でのみ成立するものを使って平衡への接近の一般論を論じたり、といった前の世代の混迷を、ここらでばっさりとやっつけて、もっとも見通しのよい統計力学を論じるのがぼくの使命である。 線形応答は、決して非平衡統計力学と呼ぶべきものには達していないこともこの機会に明確に論じるべきだろう。 もちろん、平衡統計力学のもっとも進んだ成果のひとつである Ising 系での相転移と臨界現象も簡潔に論じて、原との共著へのはずみともしたい。

これだけの課題を短いスペースで消化するのは並大抵のことではあるまい。 たいへんだが、ここで全力で立ち向かわねば、あとあとずっと後悔することになる。

構想を練りながら、大学へ。 歩いていると、辞典の構成がうまく見えてくる。 よし今日は研究はちょっとがまんだ。 数学辞典のため、ずっとパソコンに向かって作業するぞ!


と思って大学につくと、なんと、注文していた新しい Mac (G4) が来ているではありませんか。 運悪く部屋で勉強していた学生さんお二人に手伝っていただいて事務室から運んでくる。 速い本体もさることながら、やっぱり大きな液晶モニターがうれしいよなあ。

よし、予定通り、今日は数学辞典のため、新しいパソコンを使えるようにする作業をするぞ! (ついでに、掃除機までかけてしまった。 明日から、原稿書きだ!! (解説:研究に関しては逃避することはあり得ないが、原稿書きとかになると逃避しがちなのが科学者の性(さが)なのであーる。))


11/27/2002(水)

きのう、ゲーム会社のスクエアとエニックスが合併するというニュースが流れたのは、多くのみなさんがご存じのところでしょう。

両社のゲームで遊んだことがあり、さらには、かつて 8/24/2000, 8/31/2000 みたいな雑感まで書いてしまった者としては、なにかコメントすべきのような気もしたのですが、しかし、「これでドラゴン・ファンタジーがでるんだねえ(←既にエニックスが商標登録していたとかいう話もあるが)」みたいな日本中の ガキが言うような お子さまがおっしゃるようなことを書いても恥ずかしいよなと考え、そこは思いとどまったわけです。

しかし、それでも、なんか書きたいなあ、とか思っているうちに、頭に浮かんだのは、

というネタの構成であった。 前半部分では生き生きと物理の心を説く解説を展開し、中盤では素粒子物理における超対称性の意義についてはさしあたって判断留保の姿勢を示して(かつての)流行に媚びない態度をみせ、さいごに、ゲームに結びつけて、おとす。 どうです?
とはいうものの、ただでさえ忙しいところに数学辞典の締め切りが徐々に見えてきて危機感を感じている今日この頃、そんなネタを延々と書くのは、単なる逃避ではないかと自らを戒め、けっきょく、そのネタでの雑感の公表は見送ることにした、というのが、昨日の経緯でありました。
と、このように、没になったネタについて書く(がけっきょくそれ自身、差し迫った締め切りからの逃避になっている(でも、今日は1ページ分くらい書いた))というメタな雑感になったわけですが、どうです?
11/28/2002(木)

大学の新しい Mac でも、メールの読み書きができるようになり、TeX が使えるようになり、さきほど、「雑感」の更新もできるようになった。 (とはいえ、九分通り自宅から更新しているのだが。) 前の Mac は、ファイルの整理が悪く、散らかり放題だったので、今回は、慎重に散らからないようにやっていく予定。

アプリケーションにしても、使わないようなものを入れてしまうと何かとやっかいなので、よく考えて、最低限にとどめようと思っている。

そこで問題になるのが、Microsoft Office じゃ。 昨今、MSWord やら Excell やらの書類を送りつけてくる人が増えてきて、いちいち「読めません」と答えるのが面倒だったので、前の Mac には Office を入れていた。 しかし、Microsoft Office ってのは、(マック版だけなのかもしれないけど)やたら重くて起動に時間がかかるし、ただのワープロでもスクロールが遅いし、なんか変な Mac くんみたいなのがアニメででるわけのわからないウィンドウが開いてうるさいし、でもしつこいわりに妙に使いにくいし、さらには、なんだかしょっちゅうトラブルをおこすみたいで、プリンタードライバーでトラブったり、Mac を不調にしたり、フリーズさせたり、呪いをかけたり、といろいろやってくれるみたいなのだ。 落ち着いて考えると、これって、トロイの木馬なんじゃないの??


昨夜くらいから、数学辞典関連で、たくさんのメールを書く。 相手は、みな数学者。

というのも、ぼくが担当する「統計力学」のなかにも、一項目だけ数学の作用素代数の人が担当する部分がある。 また、別項目に「統計力学における確率論的方法」というのがあって、そこは、数学の確率論の人が書いている。 ぼくは Ising 模型のことをちゃんと書くつもりでいるのだけれど、どうも、そちらでも Ising について書いているみたい。

関連するテーマなんだから、当然、お互い関連をつけあうべきだ。 ところが、こういった項目は、ぼくら物理サイドとは担当の編集委員さえもが違っている。 まともな連絡や調整のシステムはないのだ。 (実際、第三版でそこらへんの調整がおこなわれた形跡はないようにみえる。) 数学と物理の境界分野の現状についての悲しいお話である。

ところが、資料を調べたり、編集委員にメールを出して問い合わせたりしてみると、作用素代数の人も、確率論の人も、ぼくにとっては古くからの顔なじみであることがわかった。 それなら、せっせとメールを出して、相談しあえばいいのだ。 数学と物理の境界分野の現状についてのちょっとうれしい話である。

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田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
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