学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A05-1 危機言語・サオ語(台湾中部)の現地調査による基礎的言語調査と研究 (2005-2006年度)

 

構成員
代表研究員 安部清哉
研究員 長嶋善郎
客員研究員 新居田純野 黄迎春 荒井智子
(1)研究の目的・意義

サオ語(台湾中部・オーストロネシア語族ヘスペロネシア語派北方語郡)は、話者人口二〇〇名以下と言われるいわゆる「消滅の危機に瀕する言語」である。しかし、その言語は、三年前にようやく台湾政府によって、第一〇番目の先住民族として公認されたばかりということもあり、他の九部族の影に隠れて未だ十分な言語調査がなされているとは言いがたい。自由な通常会話が可能な年齢層もおよそ七〇歳以上となり、高齢化していて話者減少が著しい。幸い高年齢層話者の何人かは、基礎的日本語が使用可能な状況にもある。そこで、本研究では、この危機言語を音声・画像データとして可能な限り記録し、音声・文法・語彙・伝承に関する基礎的データを保存・分析することを目的とする。
サオ語は、昨年はじめて英訳辞書が欧米人によって刊行されたが、中国語の通訳を通した調査に起因すると考えられる誤謬が少なくない(当該辞書の話者は中心的母語話者原則一名であるが、同一人物への新居田氏の確認調査でも相違が見られる)。現地研究者(台湾人)も多くなく、文法書・語彙集もまだ少なくその記述も十分ではない。政府公認話者は、上記を含め二名であるが(八〇歳代)、それ以外に予備的調査によれば(新居田・安部)、基本的会話が可能なもの、基本文型・語彙などの収集が可能な話者は七〇歳代まで得ることができる。(日本人の調査研究は現在新居田のみ)。消滅の危機にある言語調査としても、また、日本語を通しての確認が部分的であれ可能であるという点でも、調査の好条件が整っている現段階での緊急的集中的記録調査を行う意義は大きいと考える。

(2)研究内容・方法

基本的にフィールドワークによるもので、現地での話者への直接聞き取り調査を行って、デジタル録音・デジタル録画しつつ、文字化整理する(デジタル機器購入)。媒介言語としては、調査効率がよい台湾語の通訳を介するのを基本としつつ(学生通訳謝金)、基礎的な文法調査・語彙調査では日本語からの直接聞き取りにて行う(新居田のすでに一年半になる個人調査を基礎データとし発展させる)。
収集したデータによって作成を計画する基礎資料(長期的計画も含む)は、以下の通り。
①基本語彙表(あるいは基本語彙を中心にした辞書)、②民俗的基礎語彙表(写真対照)、③民話伝承記録、④談話記録(対話体の記録がほぼ皆無であるので、特に重点的に収集)、⑤複数話者対照の基本文型一覧、⑥基本文法解説書、⑦基本文法教科書、⑧成果の英訳(翻訳料)

(3)研究の成果

石阿松(キラシ)・安部清哉・新居田純野『石阿松氏『サオ語語彙4000』-仮名が残した太平洋の“危機言語”-The Thao Lexicon in 4000 Words by Kilash-An Endangered Austronesian Language in Taiwan recorded in Japanese Kana(調査研究報告No.53)』(学習院大学東洋文化研究所、2007年9月)
安部清哉・長嶋善郎・新居田純野(編)、土田 滋(監修)、郭青華(著)、黄美金(著)『サオ語(台湾・邵語)語彙(英語・日本語索引付)-サオ語研究資料 Ⅱ-Thao Vocabulary with Engilish&Japanese Indices:Thao Language Studies Ⅱ(調査研究報告No.54)』(学習院大学東洋文化研究所、2008年10月)
新居田純野「サオ語(台湾中部)における否定表現」(『東洋文化研究』9号、2007)
新居田純野「日本語との対照研究におけるサオ語の授受表現」(『東洋文化研究』10号、2008)