学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

A15-5 日本とアジアにおける小学校低学年の自然・生活・伝統文化に関する指導の実態比較(2015-2016年度)

 

構成員
代表研究員 嶋田由美
研究員 諏訪哲郎 佐藤学 飯沼慶一
客員研究員 栗原清 岡崎真幸
(1)研究の目的・意義

本研究はアジア諸国における小学校低学年の自然・生活・伝統文化に関する指導を、使用されている教材分析や実際の教育現場の観察を通して考察し、日本における同領域の指導と比較研究し、日本の指導にいかせる成果を得ることを目的とするものである。申請する期間(2015~2016年)には特に、ベトナム、マレーシア、インドネシアを研究対象とする。この3国を対象とするのは、東アジア諸国におけるこの領域の研究に関しては一定の蓄積があるのに比し、これらの国に関してはまだ大がかりな研究成果が発表されていないが、アジア全域での教育事情を語り、 日本の諸問題と比較検討する上で、こうした国々における教育事情の検討は重要な課題であると考えるからである。
学習指導要領の改訂にあたっての基本的な考え方の一つに「生命や自然の尊重、環境の保全」および「伝統と文化の尊重」が明示されている。これらの点は、小学校低学年から長い視野の中で指導すべき点で、教材作成や指導法の検討など既に様々な取り組みがされてはいるが、実際の教育現場での指導には既成の教材にとらわれたり新しい理念への対応に躊躇しがちな傾向があることも否めない。こうした状況を鑑みると、アジア諸国での実態を比較検討し、そこから新しい展開に向けた着想を得ることは有益、かつ重要な視点であると考える。
これら3国が、自然や文化的な側面についてどのように学校教育の中で指導し、子どもの視野を広げていこうとしているのかは、今後の日本における環境教育や低学年の生活科に関する教育、芸術文化の指導にとって示唆に富むものである。
これまでも研究者間では東洋文化研究所の一般研究プロジェクト(課題名:東アジアの持続可能な社会を目指す初等中等教育の実態比較)をはじめとして東アジアの研究を継続的に行ってきたが、今回申請する研究課題の成果は、そこでの成果と合わせて、アジア地域の教育と日本の教育の総体的な比較研究の発展に寄与できるものとなる。さらにこの研究に関わる研究員らが所属する文学部教育学科は「ESDを基盤とした環境教育・国際理解教育」を謳っているが、ここでの成果は教育学科の学生指導にも十分に発揮できるものとなる。

(2)研究内容・方法

本研究は内外の知見を得ることから開始し、対象諸国の低学年指導教材や副教材の収集と内容分析、および学校現場での指導の実際の観察・分析を通して行うものである。
具体的にはまず、研究対象とする諸国(ベトナム、マレーシア、インドネシア)の教育全般を対象とした先行研究から、特に小学校低学年の生活や伝統文化の教育に関して本研究で焦点化すべき課題を明確にする。この段階では、関係諸国の教育関係者からの聴き取りも有効な手段であり、一部の関係者には既に協力を依頼済みである。なお、限られた期間と予算での研究であり、これらを有効に使うために、この段階での研究推進のための具体性が研究成果にも関わってくると予想されるので、この準備に慎重を期す心積もりである。
次に研究期間の初年度(2015年)中に、3国の小学校を研究構成員が分担して訪問し、自然環境や生活文化環境を把握し、教科書類や副教材の収集につとめ、予算に計上した翻訳料を使用して必要箇所の翻訳を行う。同時に、授業実践の実態調査を行うが、この際には構成員がこれまでの諸研究の過程で築いてきた人脈を活用し、先進的な授業実践を行っている教育現場の紹介を受け、実態調査の許可を得ることができると期待される。これらの実態調査では、同一国でも異なる考え方に基づいた様々な実践の様子が観察されることが望ましくその点での留意が必要である。さらに可能であれば、人権や法令等を遵守した上で、授業者や指導を受けている子どもへの聴き取り調査も行うことを予定している。こうしたインタビューからは教科書分析では見えにくい指導の実態や問題点、あるいは指導者側と指導を受ける子どもとの間の問題なども明らかになってくると予測される。
研究の2年目(2016年)には、初年度に訪問した学校の中から経年の変化の様相の観察が可能と考えられる学校を抽出し、再度、訪問し同じ指導者や同じ学年における授業実践を自然や文化環境との関わりを含めて観察、分析する。この際にも初年度と同様に指導者らへのインタビューを行える可能性を探る。さらに初年度における実態調査の分析を経て考察すべきとされた点を再考するために、あらたな観察対象校への訪問も考える必要がある。
これら2年間の研究の期間にはプロジェクト構成員と研究協力を依頼した研究者による意見交換会も年度中に数回ずつ予定し、各自の課題意識に基づいて調査した資料による学会発表等も予定している。最終的には、研究成果をとりまとめ、プロジェクト終了後3ヶ月以内に各構成員が分担執筆した報告書を研究代表者に提出し、学習院大学東洋文化研究叢書として刊行する予定である。

(3)研究の成果

嶋田由美「ベトナムの小学校における伝統的な音楽の指導に関する考察―低学年の導入的な授業の分析を中心として―」(『東洋文化研究』20号、2018)
栗原清「ベトナムの小学校低学年生活科(自然と社会)教育の現状~授業の手法と教科書分析を通して~」(『東洋文化研究』20号、2018)
飯沼慶一・岡崎真幸「自然・科学教育から見たベトナムの小学校「自然と社会」の特徴と現状―日本とベトナムの低学年自然・科学教育の比較―」(『東洋文化研究』20号、2018)