学習院大学 東洋文化研究所The Research Institute for Oriental Cultures

研究プロジェクト

一般研究プロジェクト

友邦文庫資料の整備・調査・分析―朝鮮総督府関係者の録音記録を中心に(学術研究振興資金によるプロジェクト)(2002-2003年度)

 

構成員
代表者 岡孝
研究分担者 磯崎典代 河かおる 辻弘範 宮田節子 林雄介 田中隆一 趙寛子 岡本真希子 宮本正明
(1)研究目的

東洋文化研究所が所蔵する友邦文庫は、植民地朝鮮関係、特に統治関係の内部資料を豊富にそろえていることで他に類例を見ないコレクションであるが、これを研究上、十分に活用するためには、資料が保存され利用できる条件を作ることが必要不可欠である。本研究は、そのような条件を向上させると同時に、同資料の調査分析を行い、結果を公開して広く学界に貢献することを目的とする。中でも、現在の状態では研究上の利用が困難であり、かつ重要な内容を含んでいる朝鮮総督府関係者の録音記録(以下、「録音記録」)の整備・調査・分析を重点的に行うと同時に、生存している関係者や遺族に対して、さらなる聞き取り調査を実施し、オーラル・ヒストリーを中心に据えた植民地研究に取り組む。その他にも、文献史料の整備・調査、未寄贈の資料調査と寄贈の働きかけ、古書として売り出された関連貴重資料の蒐集、友邦文庫が広く内外の研究に資することができるように整備することを目的とする。
一年目は、録音記録の(オープンリールからの)媒体転換を完了させることを第一優先とし、少なくとも利用希望者が「聞く」ことができるようにする。また、聞き取り調査も、関係者の年齢を考慮して、一年目に重点的に行うようにする。文献資料については、現物や旧記録との照合作業を終了させ、その結果を目録データベースに反映し、インターネットを通じて利用者が利用できるようにする。未寄贈の資料の調査に着手する。
二年目は、録音記録の文字化を特に重要性の高い資料から順に重点的に行う。文献資料については、目録データベースの整備を継続して行い、未寄贈の資料調査を本格的に実施して、可能なものは寄贈を依頼し、整理のうえ、目録データベースに加えて閲覧が可能になるようにする。

(2)研究計画

◆平成14年度
(1)録音記録関連:現在までに整備したデータでは、録音記録は全480件ある(巻数は418巻だが、一巻に複数件入っている場合があるため)。以下、この480件という数字を前提に記述する。
(a)媒体転換:現在、録音記録のうち、269件は外部団体によって平成11年までにCD化がなされた。さらに平成13年度末までに約50件程度が、当研究所によってMDへのダビングがなされる予定である。オープンリールの状態のままでは研究に利用することが不可能であることから、残り約160件についてもMDなどへの媒体転換が必須となる。
(b)生存する関係者や遺族への聞き取り調査:関係者の年齢を考慮して可能な限り早く始めるが、二年目も継続する。
平成14年度は以上の二点を特に重点的に行いつつ、平成15年度の研究計画として記述した内容の一部も同時に開始し、成果を『東洋文化研究』5号に掲載する。
(2)文献資料関連
(a)目録データベースの拡充:現在の目録データベースは、1985年に学習院で編纂した目録を基にしているが、1985年版の目録と、学習院が受け入れる以前に友邦協会が編纂した目録とは全く異なる番号体系から成り立っているため、両者を結びつけるには手作業での照合が必要となる。後者の友邦協会の目録では各資料のルーツ(旧所有者など)が記されているため、資料の性格を知るには重要な情報が数多くある。その他各資料の細目などの情報を目録データベースに入力していく作業を行い、成果をインターネットを通じて公開する。
(b)関係者や遺族に依頼し、未寄贈の資料調査を行ったり、可能であれば、寄贈をお願いするなどして、友邦文庫の拡充に努める。また、古書店の情報にも注目し、関連資料の収集に努める。
(c)これら文献資料は、紙が悪質である時代のものが大半であるため、資料の劣化が懸念されている。これまで当研究所では劣化の激しい資料から順にマイクロフィルムの撮影を行ってきたが、原本の保存条件にはあまり注意を払って来なかった。保存条件の改善をはかると同時に、未撮影の文献は可能な限りマイクロフィルムにおさめるようにする。
◆平成15年度
(1)録音記録関連
(a)文字化:媒体転換が終了して、利用者が音声にアプローチすることが可能になっても、研究に利用するためには、文字化をして保管し、閲覧に供することが必要となる。平成13年度末までに、文字化は約110件程度まで完了する見込みなので、約370件が残されることになる。そのうち重要性が高いと判断されるものから順に、可能な限り文字化が完了するようにする。
(b)文字化原稿の整備:文字化は業者に委託するため、人名・地名など、専門的な知識を要する部分は不完全となる。従って、次に、文字化を行ったものの中から、さらに重要性の高いと判断されたものから順に、以下の作業を行った上で保管する。
①話者の確定:収録当時を記憶する数少ない一人である宮田節子氏に依頼する。
②用語の確定:朝鮮統治の当事者にしかわからないような専門用語(人名・地名を含む)を確定する。話されている内容の誤認などを注記したり、文献資料との照合により曖昧な点を裏付ける。
(c)活字化:さらに、その中から一定のテーマのもとに厳選したいくつかを年報『東洋文化研究』6号に活字化公開する。一般研究者が利用しやすくするための詳細な註や解説を作成し、録音記録から明らかになった新事実を歴史研究の中に位置づける。
(2)文献資料関係:平成14年度の計画として記述した内容の継続。 

(3)研究の特色・独創的な点

友邦文庫は朝鮮総督府の政務総監や各局長などの朝鮮統治政策決定上の枢要な位置にあった官僚が持ち寄った政策立案段階のメモ、手書きの報告書等をも含む稀少かつ資料的価値の極めて高い資料であり、国際的にも注目されてきている。中でも録音記録は、朝鮮総督府の諸政策の決定・実行過程に直接携わった人々の講演を、昭和33年以後数年にわたり収録した極めて貴重な記録である。このように、まず友邦文庫という資料自体が、本来、研究者の目に触れることが無かったであろう文書や、統治当事者の戦後の肉声が残されているという点において、稀有の存在である。そのような特色を持つ資料であるにもかかわらず、これまで断片的に研究に活用されたことはあっても、資料として活用されるための条件整備が立ち後れていたこともあり、充分に利用されてきたとは言い難い。その条件整備を徹底して行い、目録データベースについてはインターネットを通じた利用に供することが本研究の特色である。特に、同資料に最も関心のある韓国の学界では、インターネットを通じた研究資源の公開が急速に進展しており、日本の学界との懸隔が広がる一方である現状において、多少なりともその落差を埋めることにつながると思われる。
本研究により直接的に得られる成果もさることながら、優れた資料の価値が永久的に持続することを考えるならば、研究資源として整備し、後世に残すことで得られる二次的、長期的成果は計り知れない。
録音記録の整備は中でも立ち後れていたわけであるが、日本においてオーラル・ヒストリーがあまり注目されてこなかったことも背景にあろう。その中で、本研究は一つのまとまった先例となるであろう。録音記録は、朝鮮統治の重要な政策決定や実行過程の実際について、直接の関係者が語っている現下に無二の資料であり、そこから新たに明らかになる事実は多い。また、単にそれら新事実が歴史の空白を埋めるのみならず、「何が忘れられ、話されていないか」に注目することにより、後世の研究者にとっては重要と思われる事項が、当時の為政者の記憶にはほとんど残っていないというような発見ができるのも特徴である。このように、アプローチの仕方によっては無限の研究発展の可能性を秘めた録音記録を、調査・分析するだけでなく、より活用しやすい研究資源として提供することにより、学界に大きく寄与することが期待される。

(4)研究の成果

宮田節子(監修)、河かおる(解説)「未公開資料 朝鮮総督府関係者 録音記録(4)民族運動と「治安」対策」(『東洋文化研究』5号、2003)
宮田節子(監修)、宮本正明(解説)「未公開資料 朝鮮総督府関係者 録音記録(5)朝鮮軍・解放前後の朝鮮」(『東洋文化研究』6号、2004)

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